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クズの婚約者にさよならと制裁を  作者: 佐古鳥 うの


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訪問者は商人

 


「会談?」


 誕生日から一週間経った頃、ヴァンから会談の話を持ち掛けられた。相手はソリッド商会の方だとか。

 ソリッド商会とは外にパイプを持っているオパルールでもかなり大きな商会のはずです。


 そんな商会の方との会談などオパルール王国に来て初めての話でした。でも。


「でもすぐになくなるんじゃないかしら?わたくしと接触するのは〝外聞が悪い〟はずでしょう?」

「いえ、先日のことでのお礼と商会としてお話がしたいのだそうです」


「先日……ああ、あれね」


 市井での修羅場事件。



「忘れるからそちらも気にしないでと伝えてちょうだい」

「いえ、そのことでどうしてもお伺いしたいことがあるのだそうです」


 面倒ね。また『婚約者なのだからちゃんと王子を見張っていろ』とか『お前に魅力がないからこうなるんだ』とか『愛される努力はしたのか』とか言われるのかしら。それは聞き飽きたから要らないのだけど。


「……もしかして何かした?」

「いいえ。何も」


 あまりにもタイミングの良さに笑顔を張り付けているヴァンを見ればやはりとてもいい笑顔で此方を見ているので肩を竦めた。

 だからと言って醜聞覚悟で申し入れてきたのを断るのもどうかと思いますし話を聞くだけ聞きましょうか。


 今まで誰もわたくしに会おうとしなかったのだもの。勇姿を拝んでも問題ないでしょう。


「すべてはアルモニカ様のお心のままに」


 あなたの考えた通りのままの間違いじゃないかしら。




 ◇◇◇




「本日はお招きいただきましてありがとうございます」

「ようこそお越しくださいました。本日は此方の都合に合わせてくださりお礼を申し上げますわ」


 やってきたのはソリッド商会の会長とその息子でした。

 穏便に此方が足を運んでも良かったのですが立場上面倒が多いのでご足労いただきましたの。

 顔を上げた親子は此方を見ると驚いたように固まっている。


「やっぱり間違いじゃなかった…!」とご子息からぼそりと聞こえましたが自信がないまま会いに来たのかしら。



「先日は息子を助けていただきありがとうございました」

「ありがとうございました」


 席に着くと早速親子揃って頭を下げてきました。ギリギリのところで王子と名乗られる前に逃げられたのでしょう。

 王子もその後男爵令嬢と楽しくしていたらしいので制裁も特になかったと聞いています。なので、


「あら?なんのことかしら?今日は商談のお話があるとしか聞いてませんわよ」


 わたくしは何事もなかったのように微笑むことにした。確認は取ってありましたが大事に至らなかったようで良かったですわ。


 あらでも、ご子息がぼーっとわたくしを見ているわ。何か変かしら?

 今日はいつもような侍女長ではなく普通の侯爵令嬢の格好をしているけど。ああでもいつもの格好だと遠巻きにされていたわね。

 不思議に思いながらもソリッド商会の会長と雑談を始めました。


「お茶とお菓子をお持ちしました」


 広げられた食器はオパルールのものではなくエクティドで、お菓子とお茶は近国のもの。


 まるで四年経ってもオパルールに馴染む気はないぞと宣言しているようでどうかと思ったのですが特に諌めませんでした。


「色鮮やかなお菓子ですな。それにお茶の色まで」


「ええ。オパルールのお茶も美味しいですけどそちらは飲み飽きてるかと思いわたくしのお気に入りのひとつをご用意してみましたの。

 色も華やかですが味は普通のお茶なのでどうぞ召し上がって」


 子息の方は顔が強張ってるわね。綺麗な色味とはいえ青色のお茶なんて飲めるのか?という顔だわ。

 二人共試されてる、みたいな顔でお茶をじっと見つめ互いの目を見た後一気にそれを飲み干した。


「……普通のお茶だ」

「お、美味しいですね」


「見た目に反して普通でしょう?」


 オパルールは赤系の色味しかないものね。わたくしも初めて見た時は驚きましたけど慣れてくると透き通った青は空や海を見ているようで落ち着くのですよね。


「青いのに温かいのも不思議でしたが、これはエクティドの茶葉ですか?」

 あら、早速食いついてきましたね。


「いえ、ノビロン国と言う国の名産ですわ」


「ノビロン……?……あ、ズーラ帝国の隣にある小国の?あそこは先の巻き込まれた戦争の爪痕が色濃く残り輸出まで手が回ってないと聞いておりますが」


「ええ。なので母国エクティドに要請が入り復興支援をしているところです。これは最初に支援に入ったミクロフォーヌ家へのお礼だと聞いておりますわ」



 エクティドはそれ相応の力を持っているため諸外国から敵視されていたのですがエクティドの現国王陛下はそんな敵視している国にさえ手を伸ばし人道支援を行っている。


『余裕がないから他に噛みつくんでしょ?』


 というのが国王陛下の持論で、困ってると言われれば大抵助けに入る。その分の報酬を貰うが国が潤う以上は興味がなくてお金よりも人材や流通に力を入れている。結果エクティドも潤うが他の国も潤うようになっている。


 王侯貴族は国のためと言いながら自分のことしか考えないことが多いのにエクティドの王様はちょっと変わっている、との専らの噂だ。


「エクティドは今の国王が即位されてから惜しみなく諸外国に支援なされているとか。そのお陰で我々は潤いますがミクロフォーヌ様達はそれでよろしいのですか?」


「陛下のなさることに異論はございませんわ。ですからわたくしもオパルールに参りましたの」


 あら、わたくしがなぜオパルールに来たか知っているようね。さすがは大商人と言われているだけあるわ。



「ではやはり目的があってオパルールにいらしたのですね?」


 にっこりと微笑んだけどわたくしは答えませんでした。

 公には、わたくしがオパルールに嫁ぐことになったのはエクティドで国王陛下の怒りを買い、エクティドの王子に婚約破棄されてオパルールに逃げてきたから、ということになっているらしいのです。


 しかも国王陛下の怒りを買った際に魔法を生涯封印され、実家のミクロフォーヌ家にも見捨てられた哀れな令嬢は無駄な努力を費やし王子に縋っているのだそうで。


 一方で婚約を良しとせず反抗的な態度をとり続けているとも噂されていて、アルモニカ・ミクロフォーヌは何がしたいんだ?と貴族達に訝しがられているようです。


 この噂はわたくしがいないところで広められ、気づいた時には手遅れでした。今思い出しても後手どころの話ではなかったなと遠い目をしました。

 高位貴族の方々の暇潰しは手が込んでいて辟易しますわ。



「それは素晴らしい!こんな遠い地にまで足を伸ばしていだいた上にご支援までしていただけるとは!」


「えっ」


 思いもしない返しに驚き会長を見ると目を輝かせて見つめ返していた。


「オパルールは先代が面白い方でその心意気に惚れ込んだ私はこの国に拠点を置き、商会と人々の生活を発展させてきました。

 この国は他国に比べたら十年から三十年は遅れていますから。ミクロフォーヌ様が来る前はもっと古めかしい生活をしていたんです」


「そうなのですか。わたくしもオパルールに来た時、生活魔法がないということに驚きましたが、」


「ミクロフォーヌ様からすればかなり驚かれたことでしょう。オパルールの魔法知識はかなり遅れていますから。え、五十年?そりゃ未開の土地に足を踏み入れたような気分だったでしょう。

 魔法は貴族の方々は扱えるように教育されていると聞いていますが、此方までは設備も本もなく皆独学で学んでいる状況で……貴族の方で五十年では我々は百年くらい遅れているかもしれませんな」


 合いの手のように口を出したヴァンを諌めるように睨んだ後、そうでもないとフォローしようと思ったが未開の土地と言われてあながち間違ってないかもしれない、と思ってしまった。


「あ、あの、生活魔法とは?」


「ああ。息子はオパルール生まれなので魔法知識は絵物語かギルドにやってくる冒険者達の話しか知らないのです。もしよろしければ教えてやっていただけませんか?」


 ぼうっとアルモニカを見つめていた子息がハッと我に返ってそわそわしだした。どうやら魔法が気になるらしい。


 どうしようかしら、とヴァンを見ると彼はひとつ頷き手を振って部屋の燭台すべてに火を点けた。いえ、そうじゃなくて相談の意味で見たのだけど。

 驚き目を輝かせる子息に満足したヴァンが再び消すとなぜか親子から拍手された。


「生活魔法は生活に準じた魔法のことです。火を点けたり水を出したり、乾かすための風も出せますし使い方によっては汚れを綺麗にすることもできますよ」


「「おおっ」」

「ヴァン、」


 申し訳ありません。喋りすぎました、じゃなくて。


「トラッド様。ゼブラ様。このことは他言無用でお願いします。わたくし共は一応魔法が使えないということになってますので」


「え?なん…」


 驚くご子息にゼブラ様は制して微笑みました。見える場所に腕輪を付けているので察してくださったのかもしれません。







読んでいただきありがとうございます。

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