後宮じゃなくて迷宮でした (3)
壁を燃やしたこととメリッサ様の許可で此方に勢いがつき低級モンスター達を圧倒しましたが、今の後宮は瘴気の吹き溜まり。
それに気づかず逃げずにその場で戦い続けたせいで次々と瘴気に侵された者達が膝をつきました。
「なぜこんな……!こんなはずではなかったのに!」
侯爵が膝をつくと低級モンスターよりも強い気配を感じ彼は冷や汗を流した。
魔力が尽きかけたせいでより一層此方を見るモンスターの強さに寒気を感じたのだ。手足が震え泣きそうな顔で床を強く叩いた。
彼が見たモンスターをアルモニカも確認し侍女と目配せをしました。これは逃げろ、でも戦え、という指示でもありません。
「もう終わりだわ!わたくし達はここで死ぬのよ!!」
視覚で確認できるほど近づいてきた中級モンスターにマルティーナ様が泣きじゃくりながら叫びました。
彼女の騎士達は剣を構えていますが先程までの戦いで不要な傷を負い、そして瘴気に体を蝕まれていました。
そのせいでいつもの動きの半分以下にまで落ちていて、勝てるはずの中級モンスターを見て冷や汗を流していました。
メリッサ様の騎士も善戦しましたが同じく瘴気に侵され膝をついていました。
瘴気がある場所には守り粉や守り石など身を守るアイテムが簡単に入手できるのですが王都ということで身につけていなかったのでしょう。
「これはどういうことかしら?オパルールはわたくし達を暗殺するつもりなの?!」
「ち、ちちち違う!!こんなのは知らない!おい侯爵!まさか僕を殺して自分が王になろうと画策したんじゃないだろうな?!」
「滅相もない!そんなことを考えたこともありません!!」
「ならなぜわたくし達を守らないの?!魔術師団長というなら簡易結界なんて簡単でしょう?それなのに何でシールドしか使わないのよ!」
「そ、そうよ!!わたくしの国の魔道師だってこの人数分くらいの結界は張れるわ!いえ、瘴気を払う魔法だって知っていますわ!なぜそれをしないの?!」
「それにあなた魔法大国エクティドをバカにしてたわよね?だったらそれくらい簡単にできるでしょう?
それをしないってことはわたくし達を貶めるためにここに呼んだってことになるわよね?!」
「な、何を言いますか!結界は誰でもできるものではありません!私だってやっと取得できた高等魔法なんですよ?!
エクティド程度ができる魔法は私以下に決まってます!!」
「だったら聞いてみればいいわ!ミクロフォーヌ侯爵令嬢!!エクティドでは結界魔法はいつ習うものなの?」
今の今まで存在を忘れていたと言わんばかりに皆さんが此方に振り返りました。
ちゃんと自己紹介をしていないのによくわかりましたね。少し驚いた顔をすればメリッサ様はこう仰りました。
「結界は元々聖女様しか張れないと思われていたけどそれを小さくして一般の魔法使いでも使えるようになったわ。
それを研究発表したのは勿論エクティド王国よ。そして最近移動式の結界が発表されたわ。
それは書き記す魔法陣ではなく詠唱で張れる簡易結界。人語化に成功したのはエクティド王国に住むミクロフォーヌ侯爵家……アルモニカ様」
「水の大国であるルダンブル王国、第三王女であるメリッサ・ブロンシュ・ルテネフォール様にまで届いていたとは恐悦至極でございます」
「…ブロンシュという正式名称を言えたのは家族以外ではあなたが初めてだわ」
発音が難しいのに、と驚くメリッサ様にアルモニカは薄く微笑み、モンスターを見て動きを止めさせました。
あのモンスターは勘がいいみたいです。わたくしには敵わないと理解したのでしょう。
「質問にお答えいたします。メリッサ・ブロンシュ・ルテネフォール様。母国エクティドでは結界魔法は十三歳で学びます」
「うっ、嘘だ!!」
「嘘ではありません。十三歳で学び早ければ二ヶ月で魔法結界の基礎が使えるようになります。
言語結界はまだ発表されてから間もないですが貴族はほぼマスターしていると報告が来ていますし、わたくしの侍女も使えます」
あなた方と違ってわたくし達は元気でしょう?と見せれば侯爵はショックを受け尻餅をつきました。
「だったらわたくしも結界に入れなさい!わたくしはズーラ帝国の王女なのよ?!」
「申し訳ございません。侍女の魔力量ではわたくしまでが限界なのです。それにてっきりクエッセル侯爵が皆さんを守ってくださると思ったのでわたくしからは言いませんでした」
ジロリと皆さんが睨み付ければ侯爵は唇を噛みワナワナと震えました。
「ですがあなたはエクティド王国の者なのでしょう?!功績もあるわ!だったらわたくしを助けることができるはずよ!!」
「マルティーナ王女様。それは叶わないのです。オパルールでは魔法など不要とこの国に来たその日から制御装置をつけさせられました。
なのでわたくしがここで魔法を使うことはできないのです」
両手の手枷のような腕輪を見せつければマルティーナ様は口を開けたまま固まり、代わりにメリッサ様が怒りを露にして叫びました。
「ディルク殿下!!早く解除なさい!あなたなら外せるでしょう?!」
「いいいいや!僕は知らない!!知らないんだ!あ、だが、つけたのはクエッセル侯爵だ!」
「な、何を言いますか!!用意したのは陛下ですよ?!それに殿下も言っていたではないですか!これで高飛車な娘も大人しくなり私共に媚びへつらうだろうと!
エクティドを我らで有効利用してやろうと仰っていたではありませんか!!」
「そ、それは貴様だろうクエッセル!自分よりも評価されていたアルモニカに嫉妬して無能にしてやろうと父上に制御装置の話を切り出したじゃないか!!」
「あんな不細工で野暮ったい田舎娘など王家の血筋である自分に相応しくないと散々言っていたのは殿下ではないですか!!」
「どちらでもいいから早く解除しなさい!!」
モンスター達が一定の距離を保ち動かなくなったので王子と侯爵は互いになすり付けあいましたが結局解除の仕方はわかりませんでした。
そのせいでその場にいた者達は此の世の終わりのように嘆き悲しみました。
魔力も戦う体力も瘴気のせいでかなり落ちていて気力の限界なのでしょう。モンスター達が弱者を狩らんとソワソワしているのが此方にまで伝わってきました。
「……ヴァンが言っていたのはこういうことね」
行くまでは自分のことばかりで見えていなかったけど、魔物の巣と成り果てたこんな後宮などなくていいのです。
わたくしが選別し、寝る間を惜しんで書き上げた設計図も準備した本達も全部無駄になってしまった。
それを認めるのが嫌で、エクティド王国から与えられた資金をドブに捨てたことが認められず、もしかしたらという気持ちがありましたけどその考えが間違っていたのね。
後宮に名前を変えた時点でここはもうわたくしが守るべき場所ではなくなった。むしろ害しかない。
モンスターが来なくてもわかりきっていたのに。彼らにも悪いことをしたわ。
そう考えアルモニカは大きく息を吐き出した。
「ミミ。わたくしから離れてはダメよ」
「かしこまりました」
わたくしは目を閉じ足に魔力を集中させました。
なにも手だけが魔法をかけられるわけではないのです。
細かい作業は手の方が勿論勝手が良いですが単純作業や今のように手が塞がってる場合には最適な方法だと思ってます。
魔力を流した先にあるのはいわゆるスイッチのようなもの。結界の無効化です。
書かれた陣なら消せば済みますが、今回は建物の配置で描いた陣なのでその建物ごと消す必要があります。
わたくしが魔力を流し込むと今度は下から地響きが起こり、皆さんは慌てふためき頭を抱え身を縮みこませました。
「侯爵!!これはどういうことだ?!オパルールで地震など起こったことはなかった!貴様が変な細工をしたから女神の怒りを買ったんじゃないのか?!」
「そんな滅相もない!!私は殿下の望み通りに女性が好きそうな豪華で華やかな後宮を作らせただけで!
何かするとしたらミクロフォーヌ侯爵令嬢しかいません!あやつに聞いてください!!」
「あの女は魔法も使えない役立たずだろうが!!」
当たっていますが侯爵は何でもわたくしになすり付けすぎですわ。
「そ、そうですが、ですが私は何も知らないのです!!何でこんなモンスター達が寄ってきたのか…今まで違うことと言ったらミクロフォーヌ侯爵令嬢が居ることくらいで……」
地震と同時にモンスター達は逃げ出しました。この建物が崩れると察知したのでしょう。
ですが王子達はそんなことよりも地震に恐れ掴み合いのケンカを始めました。吸った瘴気と強い揺れに動けないほど弱っていたので逃げる考えなどなかったようです。
どんどん大きくなる地響きにそのに居る者達は助けを乞い、嘆き、悲鳴をあげながら崩れる天井の音と共に飲み込まれていきました。
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