前へ目次 次へ 25/94 またたきのあいだ‐8‐ 例え軟派であり硬派ではなくとも、人間への踏み込みには気を使った。 「気にするな」 それはつまり、気にしているわけで。椛もまた下の名前で呼ばれることに、多少の抵抗があることを意見していた。椛の顔からは、その心をはかれない。喜びにも、怒りにも振れず、言えば無表情だった。しかし── 「……」 ──鏡太郎は見た。椛の顔ではなかった。少々の失礼さのある位置をだ。狼の群れの足。椛のそれは、犬よりもなお素直に感情を表に表していたのだ。