突然のデート計画⑨
すると台所では悠里がのんびりと椅子に座って本を読んでいた。
何の本読んでるんだろう?
そんなことを頭の中で考えながら、ふと悠里の懐の付近を見ると、そこにはポッキーの包み紙がある。
なるほど……
私は自分の中の意地悪な笑いを堪えながら悠里に近づいた。
「太るよー」
そして唐突に悠里の耳元でそう呟くと、悠里がこっちを向く。
「太らな……やめとく」
そして、私の目と何故か胸の方を見た悠里は二袋目を開けようとしていた手をやめて箱に戻す。
ああ、しょんぼりしている悠里の表情……
本当に可愛い。
いつも通りそんなアホなことを考えながら様子を見ていると、悠里がこちらに向き直る。
「そういえば、最近新しいジャンルの本にハマってね。」
そう言って悠里は、今読んでいる本のカバーを持ち上げて見せてくれた。
こ、これは……
そうそこに踊っていた文字は、”俺の右腕が疼くわけ”というなのタイトルのライトノベルだった。
このライトノベルの内容は、主人公の男が、俺の右腕が疼く、誰か助けてくれというものをコンセプトにして、主人公の右腕にいろんなことをしながらその右腕を静めるといったもので、完全なコメディー枠のものだ。
時には中二病スタイルで大通りを歩きながら、魔王がくることを想定して戦うシュミレーションしたり、これを静めるにはとある神社にある聖水が必要だとかなんとか言ってそれを取りに行ったりすることもあった。
そしてこのライトノベルに出てくるヒロインの子というのは元中二病で、親に無理やり優等生にさせられたものの、主人公と関わっていくにつれてまた中二病っぽくなりながらもそれとなしに恋になるというものだった。
でも、そんな小説を悠里が読んでいるとは驚きだよ。
これまでは読んでも本当にこっちの世界が強いものは勧めたことはなかったのに、まさか自分でその場所にたどり着くとは……
ふふふ、これもゆっくりとした布教のたまものかな。
そんなことを考えた私は、内心では今すぐにでも思いっきり語りたいのを我慢しながら、悠里のこの本の面白さの解説を聞いていた。
「半殺しだよー」
悠里の話が終わって、なんとか強引に勧めることを我慢した私は、他にも面白いのあったら教えてねとそれとなくそのジャンルで面白い本を見つけてねという暗示をかけながら悠里のもとをさると、頭の中がもやもやとしていた。
それもそのはずで、好きなものを語れないというのは、私たちオタクにとって半殺しや生殺しと一緒の類なのだ。
ううー。
今日はパソコンでもいじらないと。
そう決心した私は少し歩を進めるのを早めながら部屋に戻ったのだった。




