エピローグ
春らしい穏やかな陽気だった。
病院の帰り道。
桜が咲き始めた並木道を、啓介とつぐみは並んで歩く。
診断結果は変わらない。
新しい治療を始めるか。
もう終わりにするか。
まだ決められない。
長い沈黙のあと、つぐみがぽつりと言う。
「ねえ。」
「うん。」
「私たち、どうするんだろうね。」
啓介はすぐには答えられない。
事件を取材し、玲奈の人生を知った今だからこそ、軽々しく「頑張ろう」とは言えなかった。
啓介は事件を追いながら、何度も考えた。
「もし自分だったら。」
自分は、つぐみの苦しみに気づけるだろうか。
自分は、「大丈夫」と言って終わらせていないだろうか。
答えは、今も分からない。
だから啓介は、簡単な約束は出来なかった。
しばらく歩いてから、静かに口を開く。
「分からない。」
その一言に、つぐみは少し笑う。
「そうだよね。」
また二人で歩き始める。
啓介はつぐみの歩幅に合わせる。
つぐみはそっと啓介の手を握る。
「子どもがいる人生になるか。」
「いない人生になるか。」
「まだ分からない。」
でも、一つだけ確かなことがある。
「どんな人生になっても、一緒に歩いていこう。」
啓介は何も言わず、小さく頷く。
握った手に、少しだけ力を込めた。
「腹減ったな。」
「……うん。」
「ラーメン食って帰る?」
少し笑う。
「病院帰りなのに?」
「だから。」
「先生に怒られるよ。」
「じゃあ内緒。」
二人が歩いていく。
並んで歩く二人の背中は、ゆっくりと人混みの中へ溶けていった。
――あの日、命はすれ違った。
それでも今日も、誰かの人生は続いていく。




