【3話】魔法への適応
俺がヴァイスとなって一週間が経った。
そしてこの一週間で俺は気づいたことが三つある。
ようやく分かってきたことだ。
一つ。
「……意外と、暇だ」
思っていたよりも、やることがない。
貴族の生活と聞けば、もっと忙しく、
常に何かに追われているものだと思っていた。
だが実際は違う。
俺がやるべき仕事なんて特にない。
なにか指示を出す必要すらない。
(……いや、これでいいのか?)
そんな疑問が、ふと頭をよぎる。
しかしそのおかげで学園まで時間がない今、自由に時間を使えるのはとてもありがたい話だった。
二つ。
「俺には、二つ上の兄がいるということ」
そしてどうやら兄も俺が通う予定の学園と同じ学園に通っているらしい。
まだ会っていない。
(これは、絶対に面倒なやつだな)
三つ。
ゆっくりと、部屋の中を見渡す。
豪奢な調度品。
無駄に広い空間。
静かすぎるほど整った空気。
ただの貴族じゃない。
きっと貴族の中でも上にいる側の家だ。
つまり
(下手なことをすれば、一発で終わる)
軽く息を吐く。
状況は、少しずつ見えてきた。
そして同時に、
逃げ場がないことも分かった。
そして俺は今日も朝から家にある書庫に向かう。
最初は調べるため。
だが気づけば、それが日課になっていた。
「今日も来られたのですね、ヴァイス様」
書庫の管理を任されているらしい老執事が、静かに頭を下げる。
「ああ」
短く答え、本棚へ向かう。
本を読む。
理解する。
そして、試す。
それが、ここ数日の流れだった。
「……魔法、か」
本で得た知識をなぞるように、意識を集中させる。
内側にある何かを掴む感覚。
最初は曖昧だったそれも——
今では、はっきりと分かる。
「——水」
手のひらに、揺らぎの少ない水球が浮かぶ。
大きさ、密度、形状。
どれも数日前とは比べものにならない。
「……こんなもんか」
(なんとか、形になってきたな)
軽く指を動かすと、水球は形を変える。
球から楕円、そして細く伸びてまた戻る。
制御も問題ない。
(このヴァイスの身体が、勝手に応えてくる感じがする)
きっとヴァイスの本来の力には程遠いだろう。
それでもこの生まれ持った魔力量。それがあるからこそ、多少雑でも成立する。
だが。
順調なのは、魔法だけだった。




