【1話】物語の続きから始まる物語
初投稿です。
舞台俳優志望だった主人公が異世界の貴族として目覚め、演じることで生き延びようとする話です。
勘違い・誤解系の要素があります。
読んでいただけたら嬉しいです。
…知らない天井だ。
目が覚めて最初に出てきた感想が、それだった。
ぼんやりとした意識のまま、ゆっくり瞬きをする。視界に映るのは、やけに高い天井と、細かい装飾。木目の感じも、日本の家とは明らかに違う。
……ここ、どこだ?
記憶を辿ろうとして、少しだけ頭が痛んだ。
昨日のことは覚えている。普通に過ごして、普通に寝たはずだ。
それなのに、目が覚めたらこれだ。
夢にしては、妙に現実感がある。
自分の手を見下ろす。
細い。白い。指も長い。
どう見ても、俺の手じゃない。
しばらく無言で眺めてから、小さく息を吐いた。
「……これ、どういう状況?」
思わず本音が漏れる。
知らない部屋、知らない体。服も見慣れない。やけに高そうな内装。
ここまで来ると、逆に変な結論しか残らない。
——コンコン。
ノックの音が、思考を遮った。
「ヴァイス様、起きていらっしゃいますか?」
若い女性の声。
一瞬だけ、その名前が頭の中に引っかかる。
(ヴァイス……それが、この体の名前か)
この部屋、この扱い、その呼び方。
ここまで材料が揃えば、さすがに理解するしかない。
(……なるほどな)
軽く息を吐く。
状況は最悪じゃない。むしろ、かなりいい。
なら——
俺はどう振る舞えばいいかを知っている。
そして一拍置いてから、静かに口を開いた。
「……ああ、起きている」
自分でも驚くくらい、落ち着いた声が出た。
さっきまでの戸惑いが、嘘みたいに引いていく。
大丈夫だ。
やれる。
短く息を整え、背筋を伸ばす。
自然と視線が扉へ向いた。
「入れ」
簡潔に告げる。
扉が静かに開いた。
「失礼いたします、ヴァイス様」
入ってきたのは、年の近そうなメイドだった。整った所作で一礼し、顔を上げる。
その視線が、一瞬だけこちらを探るように揺れた。
(……ん?)
ほんのわずかだが、違和感を持たれた気がした。
「本日はいつもよりお早いお目覚めでございますね」
何事もなかったかのように、穏やかな声でそう続ける。
……気のせいか。
あるいは、多少の違和感はあっても流す程度のものだったのかもしれない。
「……ああ」
短く返す。
余計なことは言わない。これが最善の策だ。
メイドは一歩近づき、ベッド脇に立った。
「本日のご予定ですが——」
淡々と説明が始まる。
内容は半分も頭に入ってこない。
(いや待て、予定とか言われても分からんのだが)
内心で焦りつつも、表には出さない。
ここでボロを出すのはまずい気がする。
「……問題ない」
適当に相槌を打ってみた。
—よし、今のもそれっぽいな。
「かしこまりました」
深く追及してくる様子はない。
どうやら、この程度なら違和感として処理されないらしい。
(いけるな、これ)
この感じなら、多少それっぽいことを言っていれば何とかなる。
むしろ——
(完璧じゃね?)
わずかに口元が緩みそうになるのを抑えながら、俺は静かに視線を逸らした。
とりあえず、この“ヴァイス様”ってやつを演じきればいい。幸い俺は元舞台俳優志望だ。
それだけで、今はこの状況は乗り切れる。
少なくとも、今のところは。
読んでいただきありがとうございます。
初投稿なので拙い部分もあると思いますが、楽しんでいただければ嬉しいです。
これから自由な頻度で更新していきます。
今後ともよろしくお願いします。




