梓の特訓ー1
今回はハイテンションで書いたせいか少し長めになりました。
明日香がスカイクルスと戦闘を繰り広げている頃、梓は。
「イヤアアアアアッッッッッ!!?」
紐無しバンジーの真っ最中だった。
事は数分前に遡る。
「梓、魔法を練習するとき一番大切な事ってなにか分かるかしら?」
「イ、イメージ…?」
そう答えると、マルモはふふと意味ありげな微笑みと共に。
「それも大事ね。だけどねそれ以上に重要なことは―――命の危機よ」
マルモが何かの魔法を詠唱していることに気づいたときには、既に遅かった。
次の瞬間、明日香は空中に転移していた。下を見ると、青一色。恐らく海のような所に飛ばされたのだろう。
悠長にそんなことを考えている暇もなく、梓は急いで魔法を詠唱する。
『水よ、我が声を聴き、我が声に応えよ!『アクアレイズ』!』
水に落ちる寸前に魔法を完成させ、水を操り出来るだけダメージが少なくなるように着水する。
「はあ……し、死ぬかと思った……」
「あら?大丈夫そうね。骨の一本か二本はイってると思ったんだけど」
いつの間にか目の前にいたマルモが危険なことを呟いていた気がするので、一応聞き返す。
「い、今の骨折ですむの……?」
「うーん…下手したら死んじゃう?」
首をかしげながらそんなことを言っているので、梓は苦笑しながら。
(私ってマルモさんに強くしてもらうはずなのに、何で一歩間違えたら死ぬようなトレーニングしているのかしら…?)
よく見るとマルモは水面に立つようにして浮いている。有名な艦隊のゲームみたいな感じだ。
「マルモさん…何で浮いているんですか…」
咄嗟に水魔法で着水の衝撃を軽減したはいいが、何故か浮いているマルモが悔しいので聞いてみる。
「ん?これは風魔法と空間魔法の合わせ技よ。自分の足元に風を発生させて、空間魔法でその風を拡散しないように圧縮しているの」
本人は簡単に言っているが、実際にやるとなるとかなり難しい。常に風を発生させながら、それを拡散しないようそれ以上の力でかつ魔法が崩れない程度の力加減で、圧縮しなければならないのだ。
「梓…そんなに貧乳気にしているの…?」
そう言われて服を見てみると、豪快に着水しただけにびしょ濡れになっており、そこから可愛らしいピンク色のブラが見えていた。しかも、ご丁寧にパッドまで仕込んである。
「え…?あっ、こっ、これは、ち、違うの!これしかなかったから…って言うかさりげなく私のこと貧乳って言いましたよね!?」
「さぁ?どうでしょうね?」
そんなことは関係ないとばかりに、マルモは次の課題を言い渡す。
「んじゃ、次は『シーサーペント』を殪してくること。倒したら『箱』の中に入れて持ってきて、食べられるから」
それだけ言うと、またさっきの転移魔法を使ったのかどこかへ消えてしまった。因みに『箱』と言うのは明日香が言っていたアイテムボックスと同じだ。
「服は上がってからどうにかするとして、ここどこよ……何も見えないじゃない!」
今の状況を整理して使えそうな情報をもう一度探す。すると、マルモが浮いている魔法は風魔法と空間魔法の合わせ技と言っていた。
わざわざ言っていると言うことは、恐らく梓にも使うことが可能なのだろう。
「まずは…風魔法を足元に…ってウワアァァァッッッッ!!?」
風魔法を足元に使った瞬間、自分の体が空高くフライハイ。数十メートルも上に吹き飛ぶとかなり遠くにだが、陸地が見えたので取り敢えずそこにまず向かいながら課題をこなすことに決めたが。
「また、落ちるのよね……ん?下に何かいるような気がするのだけど…」
下を向くと見えたのは巨大な口を開けた海蛇だ。あれがマルモのいっていた『シーサーペント』なのだろう。だが、このまま落ちると確実に胃袋への直行コースだ。
どうしようかと考えていると、突然シーサーペントが倒れた。理由はわからないが横たわったシーサーペントの上に降り立つ。
「な、何が起こったの…?」
シーサーペントの体を調べてみると、魔力で文字が書かれていた。
『貴女が死なないようには守ってあげるから安心して戦ってきなさい。それとそいつの強さは大体S+位だから注意すること』
このメッセージからするにシーサーペントを倒したのはマルモだろう。だが、こいつをどうやって倒したのかと言うことが気になり、もう少し探していると。
「これ…銃で撃たれた跡…?マルモの銃は二丁拳銃のはずだけどライフルみたいな奴もあるってことかしら?」
そして、シーサーペントの強さは大体S+マルモ曰く花火大会程度だというが、そうなるとかなり危険な部類に入ってくるだろう。SS+になるとビーマス、SSS+に至っては乙女次元バー無しエクセ、という最早人間じゃなくても出来るかどうかわからないレベルの難しさだ。
(そんな化け物を私と明日香は7体も倒さないといけないのよね…)
考えがネガティブになってきたので気分を切り替える。
「兎に角、今はこいつを探すのよ。移動は…水面を凍らせればなんとかなるわね」
何処かの元海軍大将が使いそうな移動方法だが今はそれしかないので、シーサーペントを箱の中に入れ水面を薄く凍らせる。
もう一度風魔法で浮こうかとも考えたが、また失敗してフライハイしてしまっては魔力の無駄遣いになるので大人しく徒歩で探すことにした。
「こんなにデカイ湖でどうやって狙ったやつを探せばいいのかしら…」
う~んと首をかしげていると、そういえばと。
「こいつと同じ魔力を持つやつを探せばいいんじゃないかしら?」
あらゆる物が魔力を持っているが、その細部は違えど大きな魔力の性質はほぼ同じなので梓は、今箱に入れたシーサーペントの魔力を覚えて、その魔力と同じものを持つものを見つける、となると見つける難易度は格段に下がる。
善は急げと、梓は一部を箱から出して魔力を記憶する。
「……よし、大体わかった。後はこいつと同じ魔力を探すだけね」
梓の魔力の感知範囲は約1キロ、限界まで伸ばすと約3キロまで伸ばすことが出来るが、その間は魔力の制御が難しく動くことができないので、使い所が難しい。
「さて…『魔力探知』!」
梓の周りを魔力の円が覆いそれが薄く広がっていく。広がることが収まると、目の前にパネルの様なものが現れた。
そこには『魔力探知』に反応した魔物の位置が正確に映し出されていた。
「お求めのお相手は…ここから西に800メートルの水深600メートル地点ね」
梓は『魔力探知』を使いながら相手のいる場所まで走る。魔法使いといえども全て魔法で片付くわけではないとマルモに教えられたので、明日香ほどとはいかずとも前に比べてかなり体を動かしたりと、体を鍛えるようにしている。
数分後目的の場所の真下にまでたどり着いた。幸いシーサーペントは最初の場所から動かなかったので、追いかける手間が省けてラッキーだろう。
「さて…呼んでみましょうか」
そう言って魔法の詠唱を始める。詠唱や魔方陣は上級魔法等には必要不可欠なものだが、それ以外の魔法では基本必要としない。だが、詠唱や魔方陣を使うことによって、その魔法の威力や射程距離等が上がるという効果があるのだ。
『祖は鋼、祖は剣、我が風の力を纏い万物を切り裂け『ウインドスラッシュ』!』
梓の放った魔法が水の中を突き進む。数秒後に水底から水面を震わせるような巨大な咆哮が響いてきた。しかし、その咆哮に梓は違和感を覚える。
「…あれ?シーサーペントってこんな鳴き声だったっけ?」
その考え通り現れたのは、シーサーペントの鱗よりも濃い青色。藍色に近い鱗を持った海蛇『ディープサーペント』シーサーペントの上位個体だ。
「色違いかしら?まぁこいつでも大丈夫よね」
梓は気づいていないようだったが、ディープサーペントの強さのランクはSSとひとつ上のランクだ。負けずとも勝てないことはない。そんなレベルだが、梓は戦いを挑む。
「水中の敵には炎っ!『ブレイズ』!」
中級の炎魔法がディープサーペントに直撃し、爆音と熱気が辺りをおおう。だが、ディープサーペントの鱗には傷一つついておらず、寧ろ相手を逆撫でしてしまったようだ。
ディープサーペントの口から怒りの咆哮が放たれる。すると、周りの水が共鳴するようにディープサーペントの体にまとわりつき、次の瞬間には水の鎧を身に纏っていた。
「あんなのアリなの!?」
驚いている梓を嘲笑うかのように口から炎を放つ。咄嗟に避けるが、一歩間違えたら確実に梓の身体はコンガリ焼けてしまっていただろう。
「ったく…何処のきょうぼうポケ○ンよ…これで舞積んだら確信犯よ…」
そんな軽口を何時までも叩いていられるわけもなく、次の魔法の詠唱にかかる。相手は水中の魔物だ水属性の魔法が効くことはまず無い、更にあの鱗は炎属性の魔法を弾き返していた。
「水と炎が効かないなら雷っ!『雷槍』!」
梓の手に青白い稲妻の槍が作られ、それを投げつける。流石にこれは不味いと思ったのか、体をくねらせて蛇特有の躱し方をする。
その様子を見て雷属性は効くと踏んだのだろう、梓は空中に数十の雷の槍を作り上げていた。
「連続で撃てば一発位は当たるでしょ!」
声と共に、槍がディープサーペントの体へと吸い込まれていく。いくら水の鎧を身に纏っていても、雷は関係ない。寧ろ全身に水を纏っているので逆効果にすらなり得る。
その事を分かっているのか、水の鎧を解き炎で応戦を試みていたが。
「あなた、前だけに私が投げたと思ったの?」
それに気づいた時にはすでに遅かった。梓の投げた4本の槍がディープサーペントの腹を貫いていたからだ。ギィイイィィイ!?と、甲高い悲鳴を上げるが梓はお構いなしに次の確実に敵の息の根を止めるための魔法を紡いでいた。
『地を裁ち、空を裂く刃よ、眼前の全てを裁ち切れ『スカイサイズ』』
その魔法はディープサーペントの首、いや『首のある空間』を裁ち切った。今の魔法は空属性の上位魔法の自分の半径100メートル以内の物を自在に切り裂く魔法だが、梓の今の魔力では詠唱か魔方陣を使って発動しなくてはならない上に、距離も10メートルと非常に短いのであまり使うことのできない呪文なのだが、そのぶん今使えるどの魔法よりも威力が大きい。
「流石にこれなら大丈夫よね…」
ディープサーペントの体がグラリと梓の方へ倒れてきたので余裕をもって避ける。
大量の血と水を巻き上げながらディープサーペントを回収しようと『箱』を開こうとした時、念のためと思い発動させ続けていた『魔力探知』が反応した。
「ど、どう言うことよ!?さっきまで全然いなかったのに何でこんなに……まさかこいつの血?」
梓の見た画面には周り500メートル以内に約20匹の魔物反応があった。いくら梓でも今から約20匹との乱戦は部が悪い。
どうしようと考えていると。
「梓、貴女こいつ倒せたの?」
転移魔法で飛んできたのかマルモの姿が目の前にあった。こいつとはディープサーペントの事だろう、別に苦労するほどでもなかったとマルモに言ってみると。
「これは嬉しい読み違いね…取り敢えず今回はこれで良し。湧いた雑魚は私が片付けてあげる」
そう言って前に出ると水中の敵が示しを会わせたかのように一斉に浮かび上がってきた。
「さあ、お楽しみの時間よ『顕現・虚空双星』!」
呼び出しのは前に見せた双短銃だ。だがその銃口は敵ではなくそれを向いていて。
「どれだけ私の攻撃に耐えられるかしら?『魔弾・雷神の怒り』」
空に向けて放った銃弾は拡散し敵に降り注ぐ、その拡散一つ一つの銃弾はまるで雷のような速さと威力で無差別に、無慈悲に敵を葬っていく。
銃撃が終わり、生きて立っていた者はマルモと梓の二人だけで現れたすべての敵は等しく骸となっていた。
「何だ、5秒も耐えられないやつしかいないなんて…」
その口ぶりから察するにあの攻撃を攻撃を5秒以上耐えた魔物がいるようだが、あんな攻撃で耐えていられる魔物などどれだけ強いのか考えられない。
「あんな攻撃耐えられる魔物何ているんですか…」
「いや、あれでも結構威力押さえたし、やっぱり属性の問題かな?」
可愛らしく首をかしげるが、殪しているのが数十匹のS+の魔物でなければ可愛いのに、と梓は苦笑する。
「さて、コイツらも『箱』の中に入れてさっさと帰るわよ」
「こんなに入るんですか…?」
梓の『箱』の中には自分の物と大体3メートルはあるディープサーペントが入っている。そこに2メートル位はあるシーサーペントを数十匹も入れて要領が限界を越えないかと不安になって聞いてみた。
「大丈夫よ。昔は40メートル級の魔物の素材が必要だからって、一人10匹は突っ込まれたから…」
何か触れてはいけないスイッチを押してしまったようで。
「あ…ご、ごめんなさい…」
ま、いいわ。と転移用の魔方陣らしきものを作り始めていた。
「それがあれば、私も転移できるんですか?」
「ええ、貴女が覚えるまでは一応使ってあげるわ。これの構造見てさっさと覚えること、別に貴女のためじゃないんだから…」
そのテンプレセリフを聞いて梓は少しからかってみることにした。
「マルモさんって実はツンデ―――」
「そんなことは無いわ」
「またまた~そうやって無理矢理言葉を切らせてくるところとか――」
梓が続きを言いかけると、満面の笑みで。
「これ以上言ったら……分かるわね?」
流石にやり過ぎたかと思い、これ以上は聞かなかったが、マルモはツンデレだという新しい事が分かって梓としては十分だった。
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