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贄はエルフの付き人に  作者: Fleur
贄はエルフの付き人に
8/27

望みの在りか ◇iris◇前編

前の章をけっこう手直ししました。

大筋は変わっていませんが、少しでも読みやすく修正したはず…です(-_-;)

もう少し小間切れに区切って投稿したほうが良いのでしょうか?

.


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



サァサァと雨の音が辺りを支配していた。

空を覆う鬱蒼と繁った葉でさえ凌げないほどの大粒の雨が、ポンチョ型のコートに染み込んでいく。

夏でもひんやりとした森の中では、その水滴がイリスとレインの身体をたちまち冷やしていった。



太陽が雨雲と木葉に遮られて確認できないが、体内時計が正しければ正午前後だ。

雨が降ってからはお互いに口をつぐみ、目的地に近づこうとしていた。


しかし雨足が強まるにつれて、暗黙の内に先ほどレインが提案していた休憩をとるための洞窟へと行き先を変える。


走りづめて足はボロボロ、身体も冷えて手先が微かに震えていてはイリスもその提案に反対できなかった。


無言で案内するレインに必死に付いていこうとするイリスだが、とうとう限界がきた。



無理がすぐに影響したのは視界で、徐々にぼんやりと狭まっていった。

最初は辺りの(もや)が途切れないせいだと思っていたが、熱く潤みだした目と、のしかかるような気だるさが体調の悪さを訴え、そのために視界が悪くなりつつあるのを自覚した。


前が見えず、ほとんど勘のみで進んでいたらどうやら間違った方向へ行こうとしていたようだ。


「そっちじゃない。こっちだ」


レインがそう言い、手首を掴んで引き戻してくれる。


「やっ!」


しかし触れたところから熱が奪われるように感じて、とっさにその手を振り払ってしまった。

手首から悪寒が広がり、全身が戦慄(わなな)くように震えた。

寒い。

それだけしか一瞬考えられなくなったほどだ。



「おい……?」



突然の拒絶にレインが数歩の距離で立ち止まって、こちらを伺ってくる。



気づかれて、ない

弱音、は……まだ吐けない……



後から思い返せば自分でも何故と思うほど、頑なに意地を張っていた。

とにかくその心情にしたがって誤魔化すように素早く動こうとしたら、それがかえって仇となった。



「あ。ごめん。こっちね…」



そう言いながら慌てて方向転換したため、ぬかるんだ土の上に剥き出した大樹の根につまずく。

引き締まった片腕が傾いだ身体を支えてくれた。

その拍子に、どうやら気づかれてしまったようだ。



ああ、今までの虚勢はなんだったのよ……



けれど一度支えられてしまうと、その腕を振り払う気力も体力もなくなっていた。

なんとか立とうと踏ん張るも、ほとんど全身でぐったりと寄りかかってしまう。

コート越しでも誤魔化せないほどの熱が、伝わってしまった。



「お前っ熱があるじゃねぇか!」


腰に腕をまわし、後ろから覗き込むようにしてレインが声をあげた。


すぐさま一回り大きなコートに覆われ、両腕で()(かか)えられる。

その動作についていけず、なんの抵抗もしないまま歩き出された。

すでに目の前に迫っていた洞窟の入り口を目にしてから、やっと運ばれていることを理解した。



「自分、で」

歩く、と言おうとして、すぐ間近で激情を含んだ碧眼と目があった。


「あと少しぐらい、辛抱しろ」



辛抱って?

こんな風にされてたら雨にも当たらないし、歩かなくていいし、辛抱にはならないじゃない?


……苦しげに低い声を出す、レインの方が辛抱してるみたいだわ……



急激に上がってきた熱でほとんど意識を失いながら、そうぼんやりと思うことが精一杯だった。





◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇





レインは洞窟に入って、イリスを岩の壁にそっと寄りかからせ、自分の荷袋から取り出した薪を手早くくべた。

湿っていたがなんとか火をつけ、濡れてしまったコートからなるべく水滴を払い、乾かすように広げる。


レインはそれをぼうっと眺めるイリスに向かってもコートを脱ぐよう指示し、その間に水と食糧も荷袋から出していた。


イリスはのろのろと緩慢にコートを身体から剥ぎ取った。

感じていたほど中の服は濡れていなかった。

これならすぐに乾く。

それに少しだけほっとした。



「おい、解熱の薬はないのか?」



声のほうを見やるとレインが、水と食糧をこちらに突き出したままイリスのポーチを目で示した。



それからは言われるがままに少しの食べ物を胃に収め、薬を飲んだ。

その間にもレインは動き、場所をすこしでも居心地よくなるように整えてくれていた。



しかし敷かれた寝床と毛布に入ってからが問題だった。

荷物の軽量化を図り、土の上を想定していた寝床のため岩の固さが強く感じられ、身体の節々が痛かった。

もぞもぞと寝返りをうっても辛くて寝つけない。

加えて地面からの冷気も伝わって、震えがますますひどくなる。



その様子をみかねたレインは

「我慢しろよ」

と呟いて慎重に胡座の上にイリスを抱え込んでくれた。


背中はレインに、前は毛布に覆われて、だんだんポカポカしてきた。

震えは相変わらず続いていたけれど、安心して身体中の力を抜けた。


レインの言う"我慢"を理解できなかった。

この状態で何を我慢するのか、頭を使って考えるのが億劫だった。



優しい腕に囲われて、イリスが与えられる温もりからじわじわと感じたのはただ1つだ。






…………あったかいなぁ






.

後編に続きます。

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