壁ドン
「ねぇ、壁ドンってまだアリ?」
「壁ドンかぁ......そう言えばあんま聞かなくなったよね」
「旬は去るのが早いですからなぁ」
女子のそんな何気ない会話が入ってくる。
きっと、麗さんは"される側"より"する側"がピッタリだろう。
......となると、僕が壁ドンされるのか?
「麗様はぁ、壁ドンする方だよねぇ」
「なぁに? してほしいの?」
そう言うと麗さんが櫻井さんに壁ドンをした。
......うん。モヤモヤするな。
そんな僕の胸中とは別に、女子達はキャッキャとはしゃいでいる。
「女子はいいよな。あれだけで楽しくなれて。オレらがしたら『キモイ』で終了だぜ」
「......涙流すほど?」
「......いや、ワンチャン月城となら......」
「キショ!!」
僕は友人の荒井の発言を一刀両断して次の授業の予習をする。
......壁ドン、かぁ......
***
今日は天気が良いので屋上で昼食をとることにした。
「麗さんは今度のデートで行きたいところとかある?」
「で、デート?!」
「最近行けてなかったじゃん? そろそろ行きたいなぁって」
僕がそう言うと、麗さんは顔を赤くしていた。
? どこに顔を赤らめる要素が?
「麗さん? 嫌だった? また今度にしておく?」
「い、いやじゃない!! 行く!! 絶対!!」
「お、おぅ......」
麗さんの思った以上の食いつきに、僕は驚いてしまった。
......なんだかんだ、"王子様キャラ"でいても女の子なんだよなぁ。
僕しか知らない麗さんの一面がある。
そう思うと、なんだか嬉しかった。
「――麗さん」
「? 何? さく、や?」
―― ドンッ!!
僕は麗さんがもたれかかっている壁に壁ドンをやってみた。
――さぁ、一体どんな反応を見せてくれるかな......?
「~~!! ズルいズルい!! 私の朔弥がかっこよすぎる!!」
「......そんなにいいの? これ?」
「女子の憧れだよ!! 廃れとか関係ない!! ......いつもはやってあげる側だったけど......される側がこんなにドキドキするなんて......」
やっぱり麗さんは"王子様"といわれていても女の子。
この一面は僕だけが見られる、特権。
――可愛いなぁ。
「な、なにさ! そんなにニヤニヤして!!」
「いやぁ? 別に何でもないよ? ただ、皆の"王子様"は僕の前では可愛い女の子なんだなぁって思ってさ。嬉しいんだ」
麗さんは僕の言葉に顔を真っ赤にした。
――王子様の赤面なんてレア物だ。
「壁ドンしてほしくなったらいつでも言ってね? 僕で良ければしてあげるから」
「......朔弥、揶揄ってるでしょ?」
「そんなことは......?!」
まさかの形勢逆転。
今度は僕が麗さんから壁ドンを受けた。
――なるほど。これはこれは。
「......悪くない」
「~~なんなのさ! 全然効いてない!」
麗さんは悔しかったようで、そっぽを向いていじけてしまった。
僕はそんな麗さんの顎をクイッと持ち上げた。
そして――
チュ。
「これで機嫌なおしてね?」
「......」
麗さんは完全に固まってしまった。
......あれ?
「......ズルい」
「え?」
「......朔弥、ズル過ぎる......」
耳まで真っ赤になった麗さんを見て、僕は思わず笑ってしまった。
――やっぱり可愛いなぁ。
皆の"王子様"は僕の前ではただの可愛い女の子だ。




