提案
「アイリス様じゃないですよね」
その声が私には断罪の声に聞こえた。
心臓の鼓動は速くなり、指先は氷のように冷たい。
「ずっと一緒に育ってきたようなものだから分かります。今のアイリス様が偽物ってことぐらい」
その目は初めのリリスとは違っていて冷たく私を非難するような目だった。
昔のことを思い出し息が詰まる。
全身から冷や汗が出てきて体全身が冷えていく。
顔は強張っていて何とかポーカーフェイスを保とうとする。
だがその反応で悟られてしまった。
「……やっぱり偽物なんですね」
縋っていた一縷の希望を壊されたようなそんな表情だった。
私が何か声をかけようと口を開くも口から音が発せられることはなかった。
ただ黙ってリリスの話を聞く。
「司祭様が当主様と秘密裏に話しているのを聞いたんです……アイリス様に異世界人の魂を入れると」
誰に話しているのかわからないような弱々しい声が中へと投げかけられる。
アイリスとは相当仲が良かったのだろう。
悪役令嬢であることを知っていてここまで落ち込んでいるのだから。
「まさか、本当に実行に移すなんて……」
司祭様と当主様がしたことは殺人だ。
魂がどこに行くかもわからないし、実験に失敗した時、人が死ぬかもしれないのだ。
もしかしたら何人か誘拐して事前に実験していたのかもしれないけど……。
もしそうだったとしたら……この家の人間は間違いなく処刑されるだろう。
このゲームの時代設定は中世のヨーロッパと公式が発表していた。
当然国を治める王様がいて犯罪を犯した人とその家族は容赦なく連座されるかもしれない。
__私、この世界に来たばっかなのに殺されるの!?いやいやいやいくらなんでも酷すぎるでしょ!
こうなったらリリスを味方に付けるしかない。
私は腹をくくってしっかりとリリスの目を見た。
「……あなたからしたら確かに私は異世界人よ」
リリスは私が言うことに興味を持ってくれたのか暗い顔をしながらもそのまま黙って聞いていた。
「私は、この世界のことを知っている。もちろん信じてもらわなくてもいいわ。でも、話だけでも聞いて欲しい」
私は、この世界がゲームであること、私がそのゲームを遊んでいたことを話した。
リリスは夢のような話を聞いているからか怪訝そうな顔をしている。
「この世界がゲームの世界ですか……にわかには信じがたいですね」
少し間を開けてリリスはですが、と続ける。
「私が貴方に協力するメリットがありません」
ここまで話をしたのなら何かまだありますよねとリリスの目が問いかけていた。
「えぇ、ここまでだと貴方にはデメリットを超えるメリットは無いわ」
リリスはずっとアイリスの父であるヴォルテール公爵と教会との繋がりを探っていたはずだ。
ゲームをしていた時はどうしてそんな事をする必要があったのかが分からなかった。
だが、アイリスの過去を見た今なら分かる。
あれは主であるアイリスを救うためだったのだと。
教会に操られた父であるヴォルテール公爵の命令魔法から逃れるアイリスを救うためだったのだ。
「だから、貴方が私を信じるならこの先に起こる事を教えるわ。例えば…ヴォルテール公爵と繋がっている教会の人間のことやアイリスを戻す方法を、ね」
リリスが目を見開く
「……ですが、貴方がアイリス様を助ける理由はないのではないですか」
「えぇ、でも貴方が居なかったら私、この世界で生きていけないわ。それに、アイリスの見た目をしている私を放置することなんてできないでしょう?」
ゲームの中で貴方はアイリスが傷つけばすぐ駆け寄ってきていた。
傷ついているアイリスの見た目の私を放置することなんてできないはずだ。
という確信を抱きながら私はリリスの反応を待つ。
暫く顎を手にあてて考えこんでいたリリスは何かを思い出したのかふっと優しく笑う。
「…分かりました。貴方に協力しましょう。」
これからよろしく!の意味を込めて手を差し出すとリリスはしっかりと手を握り返してくれた。




