78.襲撃
ストライクバック中隊は、砂漠地帯にある街の中の大きな施設を秘かに包囲していた。
ヘリは街から見えぬところで着陸し、数台の車に分乗し、砂漠の中にある街へと乗り込んでいた。
誰一人、声を発しない。無線にも音声は流れない。ストライクバック中隊は沈黙の中に身を置いていた。
情報部が目をつけていた点在する空き家にて作戦開始時間を待つ。
ここは、京華国西部の砂漠地帯だ。日中は四十度を超え、夜間は氷点下になる。
そして、目の前に広がる大きな施設は高さ三メートル以上の壁に囲まれている。
その中には、全ての窓に鉄格子が嵌められた二階建てのコンクリート製の建物が空から見て十字型に建っている。
門は一つ。そこには守衛所が設けられ、歩哨が二人立っていた。ただ、歩哨にやる気を感じさせない。ただ、ボーっと突っ立ているだけだ。士気はかなり低い。
鉄製の門はしっかりと閉じられ、侵入する者も外出する者も拒んでいる。
ここは政治犯収容所だ。政府の方針に反抗した者が収容される。
京華国は一党独裁国家であり、人権の概念がほぼ無い。無実の罪で囚われている者が大半だ。
もっとも有罪かどうかを決めるのは党であり、国ではない。つまり法律ではなく党の支配者の都合であった。
そして、産業スパイも投獄される。
とはいえ、産業スパイとは名ばかりだ。実態とかけ離れている。特殊技術をもつ技術者や科学者を監禁し、自国の技術に取り込む。
取り込みが不可能な高等技術であれば、人質として扱い、輸入が禁止されている製品や身代金を要求する。
まるで山賊の様な国家であった。
今回の救出目標は二人の日本人技術者であり、京華国の人質となっている。その二人を救出するのが依頼内容であった。
ここまでがヘリの中で聞いた説明だ。
「SB1から各員へ。作戦を確認する。日没の三十分後に作戦開始。目標は西棟二階の最奥部。守衛は五十人。全員がAK―47のコピー品を装備している。
机や椅子程度はバリケードにならない。貫通に注意。
守衛の生死は不問。ただし、収容者には極力怪我をさせるな。西棟二階の収容者は解放。放置で良い。各所属団体が勝手に動く。俺達が気にする必要は無い。
救出目標は日本人二名。三十代後半の男性だ。配布された画像データをしっかり目を通せ。誤射は許されない。
目標に怪我を負わせることは厳禁とする。クライアントへは無傷で引き渡す契約となっている。
ちなみにここの壁はもろい。P90では簡単に貫通し、壁向こうの敵も排除できる。壁があっても射線上に目標及び友軍がある場合、射撃に注意しろ。
FFするぞ。
目標確保後は、目標をA地点に確保するまで敵を足止め及び攪乱せよ。壁や床も薄い。銃を撃てば簡単に貫通する。発熱体をモノクルに表示、射撃にて敵を攪乱せよ。
その後、B地点へ移動。車に分乗しヘリで脱出する。
目標へは東西南北から同時に侵入し、早い者勝ちだ。
各員理解しているか?質問は無いか?」
「SB2、了解。」
「SB3、了解。」
「SB4、了解。」
各小隊から問題が無いとインカムに流れる。
「では、各員の奮闘に期待する。」
アニョウの横にいるSB1が直接話しかけてくる。
「校長先生、リーダーってこんな感じでいいんすか?なんか、偉そうな感じで気持ち悪いんっす。」
そう訊ねるSB1の表情は十代前半の幼さが出ていた。不安げで何が正しいのか分かっていない。先程迄の凛々しさは消え去り、年相応の表情を浮かべていた。
「大丈夫だ。お前は良くやっている。そのまま堂々としていろ。俺は間違っていないという態度を貫け。そうすれば、皆、お前を頼りにする。」
アニョウは、SB1のヘルメットを優しく叩く。SB1がはにかんだ。
SB1は、深呼吸をしアニョウの顔を真っすぐにみつめる。幼い顔だが、そこには漢の顔が混じっていた。
「作戦開始、五秒前。二、一、Go!」
SB1の掛け声と同時に第1小隊が空き家を飛び出し闇に満ちた道路を走り出す。
隊員の一人が、M320グレネードランチャーを取り出し、壁に向けて発射する。
鈍い発射音と煙が立ち込める。煙の中を走り抜ける。ドゴンと鈍い音がする。壁に直径二メートル程の穴が開く。
これで敵に襲撃が発覚した。
だが、それは織り込み済み。ここからはスピード勝負。少年兵達は止まらない。穴をくぐり、別の兵士がグレネードランチャーを構え発射する。
進行方向の建物の壁に大穴が開く。中に飛び込み素早く周囲へ目を配る。
看守室だった。三人の看守が突然の出来事に棒立ちとなっている。
アニョウは、三発を看守の顔面に叩き込む。P90の運動エネルギーは凄まじく顔面を破壊しながら後頭部へと抜けていくと同時に後頭部を破裂させる。
「クリア。」
背後でも銃声が六回する。
「クリア。」
「クリア。」
アニョウと同時に別の看守たちが倒される。
少年兵たちは、廊下に飛び出し一斉射をする。悲鳴は上がらないが、重たい肉の塊が床に落ちる音が続く。
廊下を走り、階段を駆け上がる。
二階に上がっても看守たちは、状況を把握していない。
現地語で何かを喚いているが、迎撃態勢はとっていない。肩から下げたAK-47すら構えようとしない。
少年兵達は何の躊躇いも無く、トリガーを引く。
乾いた銃の発射音が廊下に響き、看守たちが倒れる。
「クリア4。」
そして少年兵達は、四体の死体を飛び越え、目標へと走る。
遠くから同じ様に銃の発射音が聞こえる。他の小隊も突入し、看守を倒しているのだろう。
「SB1、十字路を東から入る。射撃注意。」
アニョウ達は、交差点に入る直前で止まり物陰から周囲を伺う。
左右から微かに人の気配を感じた。
「SB2、北より接近。注意されたし。」
「SB3、南より接近中。要注意。」
「SB4、監禁室直下を確保。待機中。」
「了解、1から3合流。FFに注意。交差点へ入る。」
『了解。』
アニョウ達第一小隊は交差点へ入り、左右に分かれる。
廊下の先には、床にうずくまった第二小隊の姿が見えた。
「SB2、確認。クリア。」
「SB3、確認。クリア。」
「SB2からSB1、そちらに移動する。撃つな。」
「SB1、了解。」
「SB3も移動する。」
「SB1、了解。」
第一小隊は、東西南北の廊下を警戒する。しかし、看守たちが現れる気配はない。
電光石火の進撃に対応できていないのだろうか。未だに状況の把握ができていないのかもしれない。
だが、油断はしない。
交差点で三個小隊が合流する。
西側の廊下の突き当りの部屋に目標が居るはずだ。
「各隊正面への射撃に注意。扉を貫通するぞ。」
『了解。』
三個小隊が廊下を走る。そして、この区画に関してのみ、ドアのカギを撃ち抜いていく。貫通弾が中の人間に当たるかどうかは気にしない。
当たれば運が悪いだけだ。
客からのオーダーには含まれていないが、本社が別口からとってきた案件だった。
詳細は知らされていない。ただ、西棟二階の囚人を解放せよ。それだけだった。後のことは関知しない。
ゆえに走りながら鍵を壊し、囚人が自力で脱走できる状況にする。
本社が何を考えているかは分からない。囮にするつもりなのか、どこか別組織に依頼されているのか、まったくもって不明だ。
それについて質問できる立場ではなかった。言われたことを迅速に、そして確実に実施することを望まれているのだ。
アニョウも深入りするつもりはない。少年兵の引率というか同道している方が気楽だ。経営や政治には関わりたくはない。碌な未来しかないだろう。
「校長先生。現着です。」
SB1が報告する。
「ドライアイス、日本語に翻訳。扉から離れろ。銃を撃つ。」
「了解。実行します。」
<扉から離れ、壁に張り付いてください。扉を銃撃で破壊します。>
続いてアニョウが英語で叫ぶ。
「Countdown.3,2,1,Fire!」
簡単な英語ならば、少年兵も日本人も理解できるはずだからだ。
予め決めてあった担当の少年兵が蝶番と鍵の三か所を粉々に撃ち砕く。
扉を少年兵の一人が蹴とばし、一個小隊が中へ雪崩れ込む。数発の銃声が轟く。
中に看守が居たのだろう。看守と目標は制服を着ているか着ていないかで判断がつく。
間違っていても構わない。少年兵達の命が最優先だ。
「クリア。二名確保。」
その声でアニョウだけが室内に入る。狭い部屋だった。残りの二個小隊は廊下で敵を警戒する。
少年兵が銃を突きつけ、両手を上げさせている目標二名の前に立った。
背広を着た三十代後半の男だ。見せられた映像データと一致する。違いがあるとすれば、殴られた跡と疲れた顔をしていることだろう。
「ドライアイス、照合。」
「了解、照合を開始します。実行完了。目標と同一と確認。」
「ここから日本語に翻訳。」
「了解。通訳します。」
<私達は、救助隊です。お二人を本国に帰国させます。黙って、疑問を持たず、従ってください。理解しましたか。>
<救助隊?こんな子供達が?冗談でしょう?軍隊から逃げられっこない。>
<信じなくて結構です。死にたくなければ、言うことを聞きなさい。>
<わ、わかった。言うことを聞く。だから殺さないでくれ。>
「SB1、次のステージを始めろ。」
「了解、校長。」
ドライアイスを通じた会話は少年兵達も聞いている。
目標を脅すふりを続ければ良いと理解していた。
ここからは逃走劇の始まりだ。さらに時間の戦いとなる。
京華国の追撃隊に追いつかれる前に国境を越える。それが作戦の成功条件だ。目標の確保は、スタートでしかないのだ。




