13.新規ダンジョンは美味しい?
ここからが第四章になります。
今回は──ソフィさんです!
「はーっ、ようやく明日は銀曜日か……」
今週は疲れたー。
ただでさえ安息日出勤させられて、代休はエテュアのご機嫌取りで買い物に5時間も付き合わされたからなぁ……癒えるものも癒えないよ。
ああ、ダンジョンが恋しい。ダンジョン……はぁはぁ。
「ライヴァルト大導師、さすがにお疲れですね。ちょっと危ない感じの顔になってますよ。はい、お茶を淹れましたよ」
「ああ……ありがとうドリュー」
んー、美味い。
顔の強張りがほぐれてゆく……。
「ドリューの淹れるお茶は本当に美味しいね」
「本当ですか? これ西国から仕入れた高級紅茶葉なんですよ」
紅茶の良し悪しなんてわかんないけど、なんかホッとするわ。
「なんだか疲れが取れたよ、ありがとう」
「それはよかったです。休日出勤もありましたからね、代休は休めなかったのですか?」
「ああ、エテュアの──妹の相手をさせられてたからね」
5時間ショッピングに加えて『しゅきしゅき100回言わなきゃダメ』攻撃はメンタルも削られるんですよ。
「やっぱり血の繋がった妹さんは可愛いんですかね」
「あ、いや、エテュアは血が繋がってないよ」
「えっ?」
あ、そうか。ドリューには言ってなかったっけ。
「エテュアは同じ孤児院の出身なんだ。歳の近い3人……3人? 二人か。俺たちは歳が近かったからもともと兄妹みたいに育ったんだよ」
でもエテュアが病気になって、孤児院も解散になって、こうして俺が妹としてエテュアを引き取ってるんだ。
「そ、そうなんですか……ライヴァルト大導師はすごいのですね」
「別に凄くなんてないよ。当たり前のことさ」
こうしてちゃんと飯食えるくらいお金が稼げてるだけでハッピーだと思うけどね。
「血が繋がってない妹……まさかこんな身近にライバルが……」
「ん? ドリュー何か言った?」
「い、いいえ、なにも! それよりも紅茶のおかわりいかがですか?」
凄くおいしかったし、せっかくだからいただこうかな。
あー、はやく明日にならないかな。
◆
「ふんふんふーん」
そんなわけで、やってきました銀曜日!
いつもの酒場【冒険の扉亭】で他のメンバーを待つ。
片手にはブラックのコーヒー。やっぱり渋い男はブラックに限るぜ。
「ライさん、なに一人で浸ってるんですか?」
「ほぉあぅえっ!? あ、ああソフィか」
気配を察させずに後ろから声をかけるとは、やるじゃないか。
……暗殺者か? いや治癒士だけどさ。
「今日は早いね」
「そうみたいですね。でもライさんが居てよかったです」
おっ!? 珍しく俺アゲ発言? ちょっと嬉しいんですけど。
メガネのせいで隠れてるけど、実はかなりの美少女なソフィ。
パーティの中で一番背が低くて、メガネにおさげなので一見おとなしそうに見えるけど、その実態は──パーティいちの毒舌家だ。その口撃力はデストの一撃をも上回る。デストローイ。
「そういやソフィに聞きたかったんだけどさ、この前バッタを殺しまくってたよね? たしか不殺の誓いがあったと思うんだけど……大丈夫だったの?」
前回の【滅世飛蝗】狩りのレコードホルダーはソフィだったからな。
「ライさん、何を言ってるのですか。バッタは虫じゃないですか」
「え、虫は殺しても良いの?」
「ええ、だって知らぬ間に道に落ちた虫を踏み潰してしまうこともありますよね? そんなの無理ですよ」
怖い怖い、真顔でそんな怖いこと語らないで。
「そもそもソフィはなんでエネミーや魔獣を攻撃しないの?」
たとえば宗教的な理由とか?
「母親に約束させられているのです。無駄な殺生はしてはいけませんって」
おお、お母さんナイス!
その約束がなければ、この子は今頃デスト並みのデストロイヤーになっていたかもしれませんよ。母親は偉大だぁ。
「そりゃご立派なお母様だね」
「そうですかね、褒めるほどのものはないと思いますよ。なにせうちの母親は──」
「やっほー、お待たせー!」
『デストローイ』
ソフィと楽しく話しているうちに全員揃ったぞ。
さっそく受付窓口に今日の仕事を探しに行ってみよう。
もう俺のダンジョン禁断症状は限界ギリギリなんだ。
はぁ、はぁ、ダンジョン……。
「お姉さん! 俺たちはもうすぐにでもダンジョンに潜りたいんです! すぐ潜れる良いやつはありますか?」
「怖っ!? あ、失礼しました。ダンジョンですね、少しお待ちください。たしか──あれ、こんなのあったかな?」
職員が首を捻るのは、とある★一つ星ダンジョンだ。
その名も──【探究洞穴】。
ちなみにこのダンジョン名とダンジョンランクは誕生した際に自動的に割り当てられてる。誰がどうやって決めてるんだろうか……ダンジョンの神様? そんなものいるわけないか。
いや、今はそんなとよりもこのダンジョンだ。
「こいつはもしかして……ゴクリ、新規ダンジョン?」
「そう……みたいですね。どうなさいますか?」
どうするもなにも、迷わずにこれに決まりだ!
「お姉さん、これにするよ!」
「え、良いんですか? 新規ダンジョンはリスクもありますよ?」
「ハイリスクハイリターンは冒険士のモットーです!」
俺は受付嬢の気が変わらないうちにさっさと四万ペルを払ってチケットを受け取る。
昨日ドリューが淹れてくれた紅茶を飲んでから、なんだか運が向いてきたぞー! やっぱり頑張ってる俺への神様からのご褒美なのかな。
「みんな喜べ! 新規ダンジョンだぞ!」
「おー、やったじゃん!」
『デストローイ』
「あのーライさん、新規ダンジョンは何が良いのですか?」
ソフィは冒険士の常識に疎いからな。
仕方ない、俺が説明してあげよう。
「そりゃもちろん、新規ダンジョンは他の冒険士が漁ってないから手付かずなんだよ。だから素敵なお宝を独占できる可能性があるのさ」
新規ダンジョンは、まだ誰の手にもさらされていない真っ新な状態だ。
凄く良いドロップ品なんかが簡単に手に入ったりする。
だから冒険士たちはこぞって新規ダンジョンを狙うんだけど──いつ出現するか分からないからこればっかりは運だ。
「このタイミングで新規ダンジョンが出てきたってことは……もしかしてこの前【罠と雑魚】が攻略されたからかな? だとしたら超ラッキーだね! やっぱボクの可愛さのおかげだよっ!」
「プリテラの可愛さはともかく、タイミング的にはそうかもな。ダンジョンがリポップするタイミングは誰にもわかんないからな」
攻略後すぐに新ダンジョンが生まれる時もあれば、ひと月以上ポップしないときもあるという。
新規のダンジョンに潜れるいう幸運は、めったにやってこない最高のチャンスなのだ。
「この幸運を他に譲るわけにはいかん。他の誰かがダンジョンにエントリーする前に、さっさとダンジョンへ行こう!」
「おーぅ!」
「はーい」
『デストローイ』
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