11.たまにはこんな依頼も?
読んでいただきありがとうございます!
さて、知りたかった情報も得られたところで、今日の冒険は──。
「ごめーん、ボク今日用事があって半日しか参加できないんだよ。短めのやつできる?」
「ん? なんかあるのか?」
「えーライってばボクのこと気になるの? まーほら、ボクって人気者だし色々と忙しいんだよねぇ。きゃはっ」
はいはい、人気者は大変ですね。
そしたら時間も限られてるし、今日は〝低ランク冒険士の義務″でも果たすかね。
「じゃあ【三終焉】のひとつ、【滅世飛蝗】狩りでもするか」
「なんですかそれは?」
おやおや、ソフィさんは冒険士の常識をご存知ないのかね。
「むー」
「あ、ソフィちゃんのむくれた顔、可愛いだね」
仕方ない、冒険士の先輩であるこの俺が教えて──。
「ソフィちゃん、ライのドヤ顔が気持ち悪いからボクが教えるよ。あのね、【三終焉】ていうのは──この世を終わらせる可能性がある存在のことだよ」
「え?」
『デストローイ!?』
おや、デストも知らなかったのか。
冒険士にとって、いや一般人にとっても【三終焉】や【七不可触】は有名だと思うんだけどなぁ。
「この世を終わらせるって、そんな危険な存在の相手ができるのですか」
「それができちゃうんだなぁ。だって【三終焉】の一つ【滅世飛蝗】は──ただのバッタなんだもん」
「バッタ?」
疑問はごもっとも。
こうなったら実物を見てもらうのが一番だよね。
◆
「おーい、そっちに行ったぞー」
「きゃ! 飛んだよ!? キモいキモい! 全然可愛くじゃないよー。デストちゃん、助けてー」
『デストローイ』
王都近くに広がる荒地。
俺たちはここで、地味に飛び回る〝バッタ“退治をしていた。
「なによこのバッタ、飛びすぎだし居すぎだよー」
「本当にキモち悪いですね、えいっ。えいっ」
文句を言いながらも靴で踏み潰しまくりなソフィさん。さすがです。ソフィ無双、大虐殺。
逆にいつもは大活躍のデストが苦戦している感じだ。大剣を振り回すのは得意でも小物は苦手なのかもしれない。
「プリテラさん、なぜこんな雑虫が【三終焉】などと呼ばれてるんですか?」
「あー。伝承でしかないんだけど、この【滅世飛蝗】はね、数が増えすぎると〝凶禍″するんだって」
「凶禍? 」
「うん。姿形が激変して、あらゆる生物を喰らい尽くす存在に変わるんだって。そいつのせいで世界は一度滅びかけたらしいんだよ」
「へぇ、そうだったんですね」
たしかロヘミアの書、第36節とかだったかな。
「1000年か2000年くらい前に【滅世飛蝗】が空と大地を埋め尽くすほど大発生して、世界人口の三分の二が喰われたそうなんだ。いよいよ人類滅亡のピンチってなったらしいんだけど、最終的には人間の英雄が生まれただか天から火が落ちてきただか大洪水が起きただかで【滅世飛蝗】が激減して、かろうじて人は助かったとか……そんな話だったかな」
「ライさん、急に早口なって説明し始めるのはどうしてですか?」
べ、別に早口になってないし!
「だから冒険士の義務として、定期的に【滅世飛蝗】を駆除しなきゃならないんだよ」
「そうそう、もう1000年以上続いてる風習なんだぜ」
「そうなんですか。どれだけいるかわからないバッタをチマチマ処分するなんて面倒ですね」
「まあまあソフィちゃん。そう言わずに、ここはボクの顔に免じて我慢してやってよね」
「まあやりますけど」
『デストローイ』
ソフィも納得してくれたとこでバッタ退治を再開だ。
【滅世飛蝗】の依頼については、受託時に手渡される袋にいっぱいバッタを詰め込めば依頼達成だ。
この程度の依頼なら正直子供でも達成可能だ。その代わり子供のお小遣い程度しか報酬が出ない。はっきり言ってボランティアだ。でも誰も文句言わない。
月一回しか受けれない(受けたく無い)、だけど最低でも年に一回はやらなきゃならない王都の冒険士の義務なんだもん。
「ねーライ、奥の手とかでパパッと終わらせられないの?」
「おわっ! プリテラ、急に後ろから声をかけてくるなよ。奥の手? そんなのあったら偵察士なんかやってねーよ」
「ふーん、そうなんだー。まあ別にいいけどねー」
なんですかねその意味ありげな反応。
もしかしてこの子、可愛い顔して俺の〝ウソ″を見抜いてるのか?
まあ確かに《雷染》でも使えばこの辺一帯のバッタは殲滅できるけどさ。
「プリテラのほうこそ水魔法でパパッと片付けられないのか?」
「水魔法と植物昆虫系は相性悪いんだよねぇ。そもそも自然界に雨とか普通に降るしさ」
「そりゃそうだ。じゃあ別の魔法……って使えないんだっけか。なあプリテラ、そもそも魔法とギフトって何が違うんだ?」
俺は天与によって雷の力が使えるが、正直魔法との区別が付いてない。王立魔導研究所にいるけど、魔法使い部門は専門外だからよく知らないんだよね。
しかも俺はギフトのせいで他の力は使えないし。
「ギフトは生まれつき使える力のことでしょ? 魔法はね、決まった術式で発動する力のことだよ。勉強すれば使える後天的な力のことかな。ほら、魔法っていうのは魔力を使う法のことだからね」
「へー、だったら俺でも勉強すれば使えるってこと?」
「ところがどっこい、ここに相性とか魔力が影響してくるんだよ。誰でもってわけじゃないんだ。ほら、たとえばライは勉強さえすれば大工にも衛兵にも商店主にも宝飾士にもなれるけど、全てでプロになれるわけじゃないでしょ? 得意分野とか不得意分野もあるわけだし」
なるほどね、やっと理解できたよ。その説明は分かりやすい。
「じゃあギフトってのは、生まれつき大工だか宝飾士だかの才能があるやつってことか」
「まあそうだね」
「じゃあ魔法が使えるプリテラは、生まれつきの才能を持ってるわけじゃないけど、勉強して身につけたエリートってことか」
「えっへん、恐れ入ったか」
無い胸を張られてもねぇ。
「あーっ、ライってばボクの胸をガン見してるー。えっちー」
「やーだから違うって! それで、プリテラはなんで水魔法しか使えないんだ?」
「……勉強中なんだよ」
あー、ようはまだまだ発展途中ってことだね。
「あー、何その顔! ボクのことバカにしてるでしょ? この天才美少女魔法士プリテラ様のことを!」
「してないしてない!」
「知らないよー? ボクの才能が開花して、全属性使える超偉大な魔法士になっても」
はて、それは何十年後のことでしょうかね。
「むーっ。ねぇねぇソフィちゃん、ライってばさっきからずっとボクの胸ばっかり見てくるんだよ?」
「なっ!?」
「ライさん、最低ですね」
「女の子の価値は胸の大きさじゃないもんねー?」
「プリテラさん、私はまだ成長途中ですので」
「あっ、ここで裏切る!?」
『デストローイ』
はいはい、無駄な話はやめてさっさとバッタ狩りをしようね。
──結局、袋いっぱいのバッタを狩るのに昼過ぎまでかかってしまった。
今日の報酬は、ひとり500ペル。こんなの昼飯代の足しにしかならない。
でもいいんだ。冒険士の義務を果たすなんて、本物の冒険士っぽくない?
他のメンバーもぶつぶつとは言っていたものの最終的にはやりこなしたしね。
ちなみにデストの分はプリテラとソフィが狩ってた。
「デストちゃん、これで貸し借りなしねー?」
「デストさん、私の方が多くお渡ししてるので感謝してくださいね」
『デ、デストローイ……』
でも次はやっぱり冒険士らしくダンジョンがいいかな。
「そういえば、プリテラさんはどんな経緯で【シルバリオンサーカス】に加入したんですか?」
草原からの帰り道、ソフィに聞かれたのはプリテラ加入の経緯。
前回デストの話を聞いたから、聞きたくなったのかな。
「えーっ。ソフィちゃん、つまらない理由だよぉ」
「そっか、ソフィは最後に加入したから知らないよな。いやほんと大した経緯じゃないよ? 変な男に絡まれてたプリテラがデストの後ろに隠れたのが出会いさ」
「そうそう、しつこい男がいてさー。これがライっていう名前のスケベな冒険士でね」
って、俺じゃねーし!
「ソフィ、俺じゃないからな?」
「別にいいですよ、ライさんがどんな人かはよく分かってますので」
ソフィさん、それってどう解釈すれば……。
「あははっ、ソフィちゃんウソだよ! まあ変な冒険士に絡まれたときに、ちょうどいいとこにイカつい鎧のデストがいたから『お待たせー』って声かけたんだよね」
しかもデストが『デストローイ』しか言わないことをうまく利用して、そのまましつこい男どもを追い払って、その経緯でそのままチーム入りしたのだ。
「本当につまらない経緯なのですね」
「経緯なんてどうでもいいんだよ。こうしてボクたちが今もチームを組んでるってことが大事なんじゃないかな」
おっ、たまにはプリテラも良いこと言うじゃないか。
「まあライのエッチな目線にはいつも困ってるけどねぇ。てへへっ」
前言撤回。やっぱりプリテラはろくなこと言わないやつだったわ。
あーあ、でも楽しい時間は終わっちまったなー。
明日は休日出勤か。勇者の凱旋パレードだっけ?
エテュアの機嫌を取るのが大変だったんだぜ、割り増しで休日出勤費用を出して欲しいものだよ……とほほ。
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