祖父母宅にて、六日目。マッチョとかわいこちゃんとの出会いの巻。
本日二話更新です。こちらは一話目。
祖父母の手伝いの他に、ちまちまと古き良きゲームを進めるという日課が増えた最近。
始めてから二日経って、滞在六日目の今日。殆どをゲームに費やすという不健康な生活なれど私は満足していた。
よくあるストーリー、よくあるゲーム展開なのだろうけれど、ゲームをほぼやったことのない私にとってとても新鮮で、とても面白いものだったのだ。古いからって侮れないなあ、コントローラーを親指で撫でる。
ユウマが手にした首飾りは、その昔魔王が現れた時にそれを討ち取った伝説の勇者が付けていたもので、勇者の証、というものらしい。もしかしたらシリーズ初代のお話なのかもしれない。いきなりⅢから始めた私には判別不能だけれども。
洞窟から帰ったユウマの首に光るそれを見た村長は、その日の夜に全てを教えてくれた。
いずれまた魔王は蘇るだろう、その時この勇者の証に選ばれしものがその時代の勇者となりて魔王を滅ぼすであろう。伝説の勇者はそう言って永遠の眠りについたと言う。
勇者の証はこれ一つではなく、伝説の勇者が召された時に世界中に散らばり、次代の勇者の訪れるのを待ち続けているのだと。
まだ魔王が目覚めたという話は聞こえてこないが、こうして選ばれたという事はその日も近いのだろう。体を鍛え、技を磨き、証を集めるのだ。全て揃った時、伝説の勇者の力を借りる事が出来るだろう。お前の力と伝説の勇者の力で魔王を討ち滅ぼすのだ!
よぼよぼに見えた村長は力強くそう言うと、ユウマの家を去って行った。
無口な主人公と、その真面目な家族は村長の言葉を重く受け止め、実は昔剣士だったが怪我で引退したという父親の指導のもと、ユウマは鍛練を開始した。
そうして第一章は終わった。ここまでは一昨日の話だ。
昨日からは第二章。暗転が終わったらユウマはもう青年へと成長を遂げていた。ここからが本当の冒険の始まりなのだろう、ユウマは生まれ故郷のその村を旅立つところだった。
同じく成長したトンスケとリコに別れを告げる。リコはなかなかその顔を見せないことから、多分泣いているんだろうなと理解する。これ絶対ユウマの事好きだったじゃん。ユウマが居なくなってる間にトンスケが何だかんだ慰めてリコと結ばれるやつじゃないの? ユウマにも相手居るんでしょうね! 妙な親心を発揮してどうでもいい事を心配してしまう。
『…じゃあな、絶対無事で帰ってこいよ!』
トンスケの声に頷いてユウマは村を後にした。
まずは近くの村から探索をする。十代の成せる集中力なのか、はたまた古ぼけた攻略本片手にやっているおかげか。さほどアイテムを取り零す事もなく、着々と冒険を進める。
セーブをしてから祖父母の手伝いも忘れずにご機嫌を伺いながらする私に大した敵はなかった。あまり熱中し過ぎるんじゃないぞと祖父に忠告を受けて、はあい、と笑って返す。攻略本から得た情報を元に、なるべく最短のゴールを目指した。
だって暇ではあるけれど、両親が到着してしまったらもう冒険は出来ない。いくら慣れ親しんだ祖父母宅とはいえ、私一人こうして部屋に籠るのは許されないだろう。
かといってさすがにこうちゃんのゲーム機を勝手に借りて帰る事も、わざわざ買うこともしたくなかった。両親が来るまでにスタッフロールを見るのを目標に私は暇さえあれば従兄の部屋にこもっていた。
タイムリミットはあと六日。何としてでもやり遂げる為に、私はユウマに休む暇を与えなかった。
「結構良いペースじゃないの?」
攻略本を見ていると言えど、過剰なネタバレを食らいたくなかった私はダンジョンを訪れた時に本を開くのみで、イベントは新鮮な気持ちで全力で味わっていた。
こつこつとレベルを上げながら向かった先は王様のおわす城。そこの図書館ならば勇者の証の情報もあるかもねと教えられたからだ。
許可を得ずに城に入ったおかげで賊と間違われて牢に入れられるイベントが発生したが、何だかんだで王様と謁見するチャンスをものにしてこの者は勇者であると言質を得る。
私の手塩にかけたユウマが賊に見えるなんてと少しプリプリしたけれど、同じく牢に捕らえられていた戦士、ゴジョウをついでに仲間に出来たのでまあ良しとしてやる事にする。
ゴジョウは露出が高くてムキムキなので私の好みではなかったが、仲間が増えたというのは嬉しい。ユウマは魔法も剣も使えるオールマイティーな勇者だけれど、やはり一人で世界を救うのは無理ってものだ。寂しいよね。
因みにゴジョウは酔っ払った上に無銭飲食で暴れた結果御用になったらしい。情けない戦士である。
仲間が増え、探索のペースが上がった二人は、妖精の里へと向かった。勇者の証があるらしいと文献にあったからだ。しかし女人しか入れないと門前払いを食らい、またゴジョウが暴れだしそうになる。
何とか宥めたユウマ、と私は、ひとまず妖精の里を囲む迷いの森を探索する事にした。
そこでまた一人仲間を見付けた。妖精に伝わる回復魔法を授かりに来たという女僧侶のルリイちゃんだ。しかしレベルが足りずに迷いの森を出ることも妖精の里に辿り着く事も叶わず、すっかり困り果てていたのだという。
ユウマとゴジョウの二人は快く案内を買って出て、今度は三人で妖精の里に戻る事になった。
「どんどん仲間が増える~! やったねユウマ!」
ルリイちゃん(ドットでも分かる、この子は可愛い)の協力のもと、一行は妖精の里に入る事を許された。そうして里に納められていた勇者の証をまた一つ手に入れる。今度はブレスレットの形らしい。
「またかっこよくなったんじゃない?」
妖精の里の長、めっちゃ美人っぽいお姉さまに教えを乞う。他の妖精たちは肩に乗るほど小さいのにお姉さまだけユウマたちと同じサイズだ。内包する魔力的なものの違いなのか、何なのか。
お姉さまによると、勇者の証は全部で六つ。最初に手にした首飾りと、ブレスレットが二つ、アンクレットが二つ。あと一つは何なのか、お姉さまは知らないらしい。
ここにあるのはブレスレットが一つだけ。自分が知っているのは竜の住まう山にあるらしいという事だけですと申し訳なさそうに告げるが、充分な情報だ。
行き先の定まったユウマ一行は、竜の住まう山とやらを目指して次の国へと旅立った。
「そろそろセーブだね~」
セーブ、手伝い。電源オン、冒険を続ける。ルーチンが完成していた。
ゲームがこんなに面白いものだと知らなかったのは、少しもったいなかったかもしれない。置いていってくれたこうちゃんに感謝する。
見事にハマった私はどんどん先へ進めた。竜の住まう山は少し遠い。レベルを上げる事も装備を整える事も忘れずに、コントローラーを握る。
「…え、四天王? そんなの居るんだ」
あまりに強い敵が出て来て全滅してしまうのは嫌だから、少しだけ攻略本を覗く。
うっかり開いたページは今から向かう山ではなく、もう少し後で訪れる予定の村であるようだった。
勇者の証を四つ手に入れた後に行くそこで、勇者一行は歓待を受ける。そこで滞在中、村長のお使いを受けるイベントが発生するのだが、三日目の晩に四天王の一人が村に現れるようなのだ。そしてユウマたちは魔王の復活を知り━━…
「ああ、だめだめ。ネタバレ厳禁」
ぱたりと本を閉じる。イベントは新鮮な気持ちで。それがゲームを最大限味わう秘訣ではないかと、私はそう思いながら進めていたのだ。沢山続編が出ている上にⅢからという中途半端なスタートを切ってしまったけど、興味がなかったおかげで今の今まで全くストーリーを知らなかったのは幸運だったのだろう、全てがわくわくする。
これから行くところは竜の住まう山。竜とかヤバそう、こんなパーティーで敵う相手なの? 戦闘あるよねやっぱり。ドキドキしながら、こまめにセーブをしながら私は山への道を踏み出した。