祖父母宅にて、四日目。ゲームとの出会いの巻2。
「…ほーん」
ブレイブ伝説シリーズは所謂、王道RPG、というものらしかった。
主人公の名前を決めあぐねたのでデフォルトの「ユウマ」で始めたこの冒険は、主人公の生まれ育った村からスタートした。
ちなみに三つあるうち、こうちゃんのセーブデータは一つも残っていなかった。わざわざ消したとも思えないから、時間が経つと勝手に消えてしまうものなのかもしれない。内蔵電池とか何かあるのだろうか。何にしても恐ろしい話だ、私のデータもそのうち不意に消えてしまうのかと思うと悲しくなってくる。せっかくここまで進めたのに! まだ序盤だけど。
こほん。ゲームに向き直る。
そのユウマは大変無口な少年で、一言も話さないのに周りの理解力が素晴らしいのかそれともめちゃめちゃ声が小さいというだけなのか、とにかく主人公の口調を知る術もなく冒険は進んでいった。
行間を読めという事だろうか。親切過ぎるほど大体周囲が説明してくれるからまあ、良いんだけど。
名前を決めてすぐに広がったのは、田舎の村かなって感じの場所だった。ユウマの故郷、人口も少ない小さなところだ。
無口なユウマに対し、腕白で賑やかな少年トンスケと、お姉さんぶるツンデレ系少女のリコ。この三人は幼なじみのようで、二人は静かなユウマをぐいぐいと引っ張るタイプであった。
引っ張りすぎて、村の大人が「子供たちだけで外に出るな」と禁じている村の外まで飛び出して、洞窟まで勝手に来ちゃったのはどうかと思ったけど。これよくニュースになっちゃうタイプの流れだよね私知ってる。しかしたかがゲームである。私は二人に着いていくようにユウマを洞窟へと向かわせた。
『父ちゃん達が話してるのを聞いたんだ、このドウクツには村のお宝があるんだってさ!』
「へええ、お宝ねえ」
ユウマが話さない代わりに私がトンスケに返事をする。禁じられた真昼の肝試しには一応目的があったらしい。洞窟最深部にあるらしき謎のお宝を目撃、あわよくばゲットするというもの。
「泥棒じゃんトンスケ」
案の定しっかりもののリコに怒られ、ぎゃあぎゃあと狭い洞窟内を走り回る。しっかりものなら村から出るのを止めろって思うでしょ? それじゃ多分お話が進まないんだろうね。
走り回った影響なのか、騒ぐ子供たちの声に反応したのか。
不意に彼らは洞窟内に生息していたらしきモンスターに襲われ始めた。
「お、おっ?」
場所によく似合うコウモリ型のモンスター。しかしユウマたちは子供だからかはたまた素手だからか、戦闘になることはなく逃げ惑うばかりだ。戦闘のチュートリアルが始まるかと思ったが、まだただのイベントなのだろう。
奥へ奥へと逃げる子供たちは、モンスターに石を投げながら走る。
と、後ろをよろよろと走っていたリコが勢いよく転び、そこにすかさずモンスターが迫った。
「ああっ!」
思わずリコの身を案じて叫んでしまう。すると、ユウマが身を呈してリコを庇う。さすが主人公! やるじゃん!
トンスケはと言うと、二人の状況に気付いて慌てて引き返し、『くそお!』の掛け声と共に足元の岩を拾って思い切りモンスターに投擲していた。お前もやるじゃん。
そうしてあちこちに当たっていた石がどこかにヒットしたのかもしれない、洞窟内に派手な落石が起こり、モンスターと子供たちの間は塞がれてうまく逃げおおせる事に成功した。
しかし出口は塞がれてしまった。まさかゲームオーバーにはならないだろうけど…。
『…うええん、くらいよう…』
いつもしっかりしていて、やんちゃなトンスケを大人っぽく嗜める役割だったリコが、さすがに真っ暗闇になった洞窟の中で泣き始める。当たり前だ。私だって泣く。トンスケに八つ当たりしまくって出口を探せと無茶振りする勢いで泣く。
トンスケも自分が誘ったせいだと理解しているのか、いつもの腕白さをすっかり静めて、ただごめんと呟くばかりだった。
『…どうした、ユウマ?』
不意に主人公のユウマが立ち上がる。画面中央に、誰かの声が浮かび上がってきたのだ。
━━こちらです。こちらに来なさい━━
歩き出したユウマは、グラフィックが心なしかぼろぼろしていて、腕を抑えているようだった。リコを庇った時にどこかを痛めたのかもしれない。
そして、画面中央の声はユウマにしか聞こえないようだった。怪我をおして導かれるように洞窟奥へと進むユウマを、慌てて幼なじみ二人が追う。
すると次第に青い光が見え始め、とうとう洞窟最深部と思われる広い空間に出た。
そこに御神体よろしく飾られていたのは、青い光を放つネックレス━━首飾り? どっちでもいい? が一つ。
ユウマがそれに触れると、それは輝きを増しながらふわっと浮かび上がってユウマの手元に自ら飛び込んでくるようだった。
━━はじめまして、小さな勇者よ。あなたをずっと待っていました━━
浮かんだり光ったりする首飾りに言葉をなくす幼なじみと、かしゃりと勝手に収まった首飾りに事態を飲み込めないのかきょろきょろとする主人公。
その後全員に訪れたのは、帰ってこない彼らを探しに来た村の大人たちによる拳骨という名の洗礼だった。
「ちいちゃーん? そろそろご飯にするから、じいさま呼んできてくれるー?」
「嘘、もうそんな時間!? 今降りるよー!」
村まで戻り、小さな教会でセーブをして電源を切る。消えてませんように、と祈りながら階段を駆け降りた。
ご飯手伝えなくてごめんねと謝った私に、祖母は優しく笑いかけてくれた。
今夜は唐揚げらしい。祖父母は隠居生活の割りに内臓は若いようだ。やったね!




