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祖父母宅にて、四日目。ゲームとの出会いの巻。

そうして訪れた祖父母宅で迎えた四日目。私は当初思っていたより、存外田舎暮らしを満喫していた。

早寝する祖父母に気を使って、夜遅くまでテレビを点けているという事はしない。夕食とお風呂を済ませた後は少しお茶を飲みながら談笑して、早々に寝室へ向かう祖父母を見送ってから宛がわれた部屋に私も引っ込む。

それぞれ忙しそうな友人たちに連絡を取り合って、それも済めば暇そうな私を気の毒に思ったのだろう、色々おすすめされたウェブ小説とか漫画サイトなんかを覗く。端末一つでどんなジャンルも見られるんだから便利なものだなあ、と指先ですいすいページを送りながら思う。本だったら嵩張るしね。紙の匂いは好きだけど、旅行先に何冊も持ち込むのは移動を考えると嫌になってしまう。

寝るまで読んで、うとうとし始めたら充電器と絡まり合いながら眠りにつく。そうして朝を迎えて、早起き出来た時は祖父の畑作業を手伝い、祖母の家事を手伝い━━…


「いや何か、さすがに飽きてきたかな…」


からり。グラスの麦茶の氷が溶けて、一つ下に落ちていった。

正午をやや回った時間。この炎天下には祖父も祖母も外に出ることはない。昼寝をしたり、新聞やテレビを見ながら涼しくなるのを待つ。

ただでさえ暇な私はその時間を完全にもて余していた。何も、何も、やることがない!

近くに涼めそうな川も森もあるけれど、小学生男児ならまだしも私は女子高生。しかも親戚やきょうだいや友達が居るならいざ知らず、一人っ子で一人ぼっちなこの現状で川遊びがしたいとはあまり思わない。

この家に住んでいた従兄なら一人居るけれど、一回りも上の従兄は進学でとうに都会に引っ越していて、就職も華麗にそちらで決めてそれ以来あまり戻ってきていないらしい。

従兄の両親━━伯父と伯母が居ればまた違ったのかもしれないけれど(何たって二人は車も免許も持っている)、残念ながら伯父の単身赴任に伯母も着いていってしまっていて、多分我が両親と同じ頃の到着になるだろう、とは聞いていた。

だらだらととろけたように縁側にへばりつく私を哀れに思ったのか、その従兄に関連する話を祖母が持ち掛けてくれたのは、麦茶をすっかり飲みきってがりがりと氷を噛み砕いていた時だった。


「え、こうちゃんの部屋入って良いの?」

「別に良いでしょ。文句言うとしたら全然帰ってこない紘一が悪い。時々掃除して換気してるからそんなに汚れてはいないと思うから」


家主不在のその部屋をあっさりと明け渡してくれた祖母に礼を述べると、ごくりと一つ唾を飲み込んでこうちゃん━━従兄の紘一君の部屋の前に立つ。


高校卒業、大学進学を期にこの部屋を巣立った彼は盆暮れ正月に一日二日帰省すれば良い方で、ここ数年は仕事の忙しさを理由に殆どここに足を踏み入れていないと聞いたのは、私が今回祖父母宅に来た初日の事だった。

帰って来ても地元の友人と飲み歩いては寝に帰って来て、バタバタと自宅に戻る事が多いという事で、高校まで使っていた私物の多くは自宅に運ばれる事もなく残されたままだということ。

つまり、この部屋はこうちゃんが高校当時のまま。男子高生の部屋と言っても過言はない状態で、十年と少し時を止めたままだという話らしい。

遊びに行くのは女友達ばかりで、男子の部屋など行ったことがあるのは小学生の時に友達に誘われて同級生の部屋にゲームをしに行っただけという物悲しい思い出しかない私。

にわかに緊張を覚えながら、お邪魔します、と無人の部屋に声をかけ、そうっとドアノブに手をかけた。

暇潰しにはなると思うよ。そう言った祖母の言うとおり、その部屋には多数のお宝が眠っていたのだった。


「うわわわ、わあー…」


小学生の頃にアニメで見た原作の漫画がずらりと並ぶ本棚に、世代の差を感じさせるような色褪せたゲーム機本体。

手にした事もなかったそれは親世代とも私世代ともまた違う、CM位は見たことがあるなあ、なんてぼんやりと思う、現行のゲーム機のシリーズ初代であろう灰色のボディ。

ぼろぼろの攻略本が本棚の隅に幾つか並んでいて、きっと小学生や中学生当時のこうちゃんが何度も読んだのだろうなと想像を巡らせる。破かれたカバーをテープで補修してあったり、そもそもカバーが存在していなかったり。

こうちゃん世代の人ならノスタルジックに浸りそうな空間が存在していた。


「知ってるの…ないなあ…」


漫画は自宅に戻っても漫喫に行けば読めそうだけど、ゲームは友達でも持ってる人居ないかも。

だったらゲームやってみたいな、と思った私は、ぐるりとラインナップを見渡した。

しかし私がプレイしたことのあるゲームと言えば、世界一有名な配管工がハンドルを握ってレースしたりする物位で、ちょっとゲーム好きな友人宅に行った時に乙女向けなゲームをする様を後ろできゃあきゃあ言いながら見ているのが関の山だった。あの手のタイトルがこの部屋にあったとしたら正直こうちゃんの趣味を疑うところだったので、知らないゲームばかりと言うのはかえって良かったのかもしれない。


「…あ、これは。知ってる…かも?」


幾つかあるゲームの中で、知識でしか知らない古いゲーム機のソフトが並べられた箱を物色する。比較的新しい方はホラー系のものばかりで、それはちょっとゲーム初心者な私には難しそうだなと思ったからだ。

そうして漁っていた歴史あるソフトの中に一つ、タイトルだけは聞いたことのある物を見付けた。

ブレイブ伝説Ⅲと銘打たれたそれ。勇者伝説再び、の文字が厳めしい。

確か最近にはオンラインで遊べるようになったこれの新作が出ていたと思う。ナンバリングがどこまで行ったのか覚えていない程度には興味がなかったけれど、こう暇となれば話は別だ。

シリーズいっぱい出てるし、まあ面白いんだろうな。

ちらりと見た本棚にはこのブレイブ伝説Ⅲの攻略本もあったので、これにしよう、と軽い気持ちで本体を引っ張り出し、こうちゃんの部屋に鎮座ましましている妙に分厚いテレビにコードを差し込む。

アンテナ繋いでないからゲーム専用だからね、と祖母に言われていたが充分だ。見たいテレビも特にない。

そうして私はブレイブ伝説Ⅲとやらをがちゃりと本体に押し込んだ。電源をかちりとオンに合わせると、じゃかじゃん、なんてちゃちな起動音が流れる。


「…うわ、これ私が産まれる前のゲームじゃん」


何だか壮大なオープニングが流れて、それを見守っていると上から緩やかにゲームタイトルが降りてくる。一番下に西暦が書かれていたけれど、多分あれはこのゲームの発売された年なのだろう。

薄っぺらいコントローラーを握り込む。私の世界を救う旅が今始まろうとしていた。

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