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禁童録  作者: 雲符
2章
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下界に映る世界

天は紅世界へと移り変わり別れの時を知らせる。

再び訪れる魔の上界での日常は、地獄に召喚されてしまったのでは無いかと錯覚する程に酷く嫌悪せざる得ない。


下界という名の天界に解放された刻は残酷だが美しく、心が躍る世界だ。


孤高を至高と信じ貫き通して上界を過ごしてきた。

上界には何不自由なく暮らせるが、自我という心を得る事が許されない。

社交パーティーと名付けて独り息子の美貌を晒し、自分の立ち位置に上昇を狙った男親に今思えば吐き気すら起きる。


しかし誤算を起こしたのには気付いていないだろう。

その哀れな集まりに連れて来られた子らに対して、独り息子は自身に無い輝きへ興味を抱き疑問も抱いた。


奴らの輝きに羨ましいと感じた。

外という下界に何がある?



セキレイはこの日を境に監視の目をかいくぐり外の世界へ、短時間だが飛び立っては輝きを堪能していき心を奪われた草原へとたどり着いたのだ。




「そろそろお別れだねぇ…」


蛇族特有の細長い耳を下げて寂しそうに落ち込むキョクビの姿に、嬉しくもあり同じく寂しさを感じるセキレイ。


嬉しいという感情に気付いては心が温まり、世界に優しさをもたらす。

寂しいという感情で折角得た世界の鮮やかさに色が薄くなる。


「明日があるだろう」


自身の発した言葉はキョクビへの心遣いと楽しみという期待を込めて放たれていた。

セキレイの言葉にキョクビの顔は明るくなり、瞳には輝きを宿して嬉しそうに頷く。

この眩しさには羨ましさより、草原や泉の光景を眺め癒やされる気持ちと似ている。

時折見せる呆けた顔は笑いざる得ないものだ。


「明日はいつ頃来れて、いつ頃帰るかな?」


手に握り拳を作り胸元で固定し、此方に顔を近付けて更に瞳を輝かせるキョクビの心情は手に取るように解りやすい。

同じ気持ちであるセキレイもまた、嬉しさと楽しみという感情である。


おおよそで来れそうな時間帯と、必ず戻らなければならない時間帯を述べれば、一緒に行動出来る時間は今日と大差無いとキョクビは歓喜で飛び跳ねていた。


感情を行動で示すキョクビに同年代ながらも子供だなと冷静に返すセキレイだが、腕を組み目を瞑り微笑みを浮かべている姿は大人っぽいが容姿はまだまだ幼さを感じる。


じゃあ、とキョクビの再会を約束した合図で解散となった。



森奥地の自宅へ爽快と走り向かう少年の背には、自身と同等の大きさを誇る鳥魔獣を背負っている。


ガチャッと勢いよく扉を開けば大声で母親に帰宅を知らせ、母親からの帰宅の歓迎を受け満面に笑みを浮かべた。


「母上!友達と狩りました!」


興奮冷めやらぬ少年キョクビは、言葉と共に背負っていた鳥を下ろして得意気な表情を浮かべる。

学校行ってると取り繕っていた嘘を自ら暴露しているのだが、当人は気付いてない。


狩られた大型鳥の姿を捉えた母サンミャは驚きで手を口に当てていた。

友達という単語と、目の前で横たわる亡骸に二つの意味で強い衝撃を受けるサンミャの瞳からは一つの雫が頬を伝っていく。


涙を流す母にキョクビはあたふたと慌てて辺りを移動し、ハンカチを見つけてはサンミャに差し出す。


「母上……?大丈夫ですか?」


ハンカチを受け取り涙を拭き続けるサンミャは心配するキョクビにありがとうと呟くが、流れる涙を止めようとする。

が、中々止まらない様子に困惑の表情を浮かべる。


泣き続ける母に自分が何がしたかと思考を巡らせるキョクビは一つの答えを導き出す。


「母上は大型鳥は苦手でした……?」


何度か大型鳥を狩っては調理する姿を見ていたキョクビだが、それ以上の答えを見つけられず、間違いとは思うが万が一の可能性も考慮して答えを述べてみる。


するとサンミャは一瞬キョトンとしてから、フフフッと笑いを堪えていた。

面白い発言はしてないとは思いつつも、泣き止んだ母の姿に安易するキョクビは苦笑いを浮かべる。


不安気に出した言葉は間違っていると解っての発言に、サンミャはキョクビの天然具合に笑いを誘われたのだ。

昔から鶏肉と魚は好物と伝えているのにも関わらず、導き出した発言が可笑しくて仕方ない。

一方で気遣いを感じて申し訳なさが込み上げる。


「ごめんね、キョクビ。嬉しくて泣いちゃったみたいね」


女神の微笑みに匹敵する優しい笑みにキョクビは、大げさだよと照れくさそうに笑う。

新しい友達が出来ていた事実と、その友達と協力して得た大物の姿に成長を実感していくサンミャであった。

 



約束の時間より早めに到着したキョクビは、草原の景色を堪能していく。


お気に入りの天然ベッドで寝てしまわない様にと駆け回っていたが、ふと浮かんだ案に行動を開始する。

山猫の脚力で本気を出せばこの草原から泉までの距離を、どのくらいの速さで到達するか実験を開始するのだ。


出発点に目印として木の枝を地に差し、走りの構えの取れば神速の速さで走り出す。

出発点から泉の着地点の距離は通常の蛇族で走れば10分といった所で、なかなか距離がある。


「あれ……」


本気を出したキョクビが着地したのは1分も経たなかった。

予想以上の成果に手応えを感じないキョクビは戸惑いの声を漏らす。


昨日の大型鳥との競争ではそこそこ疲れを感じていたのだ。

セキレイの体力切れ具合からも結構な距離を走っていたはずである。


「あっ……、昨日はお昼食べて無かったからかな…」


昼寝して昼飯を食べ損なっていた事態を今更思い出し、空腹状態だったと判明させた。

あの時は必死で気付かなかったが、セキレイは空腹状態だったのかと気になり悔やむ。



背の高い草を踏み分けル音が草原から聞こえ、セキレイが来たと確信して直ぐさま草原へ向かったキョクビ。

朝はまだまだ早い時間帯だ。




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