協戦再び 後編
キラキラと光を反射して眩しい泉上空には一匹の大型鳥魔獣が獲物定めをしながら旋回している。
獲物となる水上の小型鳥魔獣は集団で行動する種で、多数の中から捕らえやすい物を選んでいく。
単体であれば雛や怪我をしている鳥は捕らえやすく、雛は肉が柔らかく取り分け旨い。
難点としては団体行動の特権なのか大人鳥が総勢で雛を守っていることだ。
今回は鳥数が多く、怪我をしている鳥を狙うがと伝える本能に従って条件を満たす獲物を探している。
大型鳥の餌となる小型鳥を捕獲した少年二人は、小型鳥の首に巻き付けた釣り糸を解していた。
黒髪の少年セキレイは投げ武器は勿論のこと、小石や尖らせた木枝を投げさせれば驚異の的中率を誇る天才だ。
薄水色髪の少年キョクビも中々の腕をしており、鳥の首へクナイに釣り糸を繋いだ物を投げ巻き付けさせ捕獲へ導いたのは彼なのである。
「思ったんだけど、この子を大型鳥に投げ付けるんじゃなくて……
囮にして大型鳥を連れ出すのって……どうかな?」
傷つけてしまった罪悪感を一時は心を鬼にして振り払ったが、やはり優しい性格を持ち合わせるキョクビには当初の作戦計画を行えそうに無いと違う提案を出す。
キョクビの提案に顔をしかめっ面にさせたセキレイは、キョクビの優しさ故の甘さに心底呆れて言葉すら出さない。
出会って数日だがキョクビの雰囲気や言葉遣いから嫌でも優しい性格をしていると解ってしまう。
しかし、先日の初協戦でのキョクビは敵への攻撃に躊躇を感じなかった。
緊急時や異常事態、自身の危険や仲間の危険を感じれば率先して攻撃を仕掛ける性質と判断できる。
夕飯という目的があり単独で行動するのであれば別だが、自分や家族でなく大型鳥という目標の為に餌食となる小型鳥、大切な仲間であるセキレイが自分の提案で傷つく姿が嫌なのだろう。
それでは生きて行けないと頭では解っていても、実際に自身が傷つけた小型鳥を目の前にして意志が揺らいでしまったと容易に考えつくものだ。
「構わん。どの道その餌は長くは生きないだろうがな」
セキレイの一言がキョクビの顔に影を落とす。
捕獲した小型鳥の弱り具合に生命はそう長く活動しないだろうという事実は薄々感じていた。
大型鳥の餌食として早めに楽に旅立ちをさせるか、死を悟り恐怖に怯えながら短い命で生きるという地獄を味合わせるか、その二択にキョクビは自分のせいでと悔やみ自虐の思考が脳内に巡る。
動きを止めて暗い空気を纏う姿にセキレイは眉をひそめてため息を吐いた。
草原に泉という美しい自然光景に同じ様に心奪われ通っているという共通点で、キョクビの心にも傷や闇があるとは悟っている。
キョクビも同様に悟っているだろう。
必要以上の深い干渉をしないのは互いに気付いているからだ。
似ているからこそ興味を惹かれ、似ているからこそ互いに励まし合う。
「餌が可哀想なら当初の作戦通りに動け。ぐだぐた悩んで時間稼ぎさせられている方が可哀想だと思うぞ」
励ましとも活入れとも取れる言葉に目が覚めたキョクビはごめん、と一言放ち行動を再開させる。
先程とは一転し黄色の猫目には決意が感じられた。
手に持った衰弱状態の小型鳥に一言呟き、思いっ切り泉上空へ投げ付け大型鳥の意識をそちらに向ける。
大型鳥は飛んできた小型鳥に意識を向ければ
くちばしを大きく広げて小型鳥を咥え、作戦は1つ目の案で決行される事を意味した。
作戦の道が確定したのを確認すればセキレイによるクナイの先制攻撃が開始される。
投げられたクナイは魔力を帯びておらず、見事に大型鳥へ直撃しても硬翼によって弾き返された。
クナイの衝撃に大型鳥は反応を示して衝撃元へ視線を送る。
ここまでは作戦通りだが、大型鳥は視線を上空へ戻しその場を去ろうとしたのだ。
「逃がしてたまるかッ!」
獲物を逃さまいとセキレイは再びクナイを放つ。
キョクビも小型鳥の犠牲を無駄にさせぬと、地面に落ちていた物を手当たり次第に思いっ切り投げ付けていく。
セキレイの放ったクナイにはまたも魔力は帯びてはおらず、大型鳥の硬羽に跳ね返されるだけだ。
キョクビの投げた物体は石が主だが、微量に小型虫をも投げているのは気付いていない。
あまりにしつこい攻撃に大型鳥はようやく意識を二人に向け、突風の如く素早く此方に向かって距離を詰める。
思惑通り向かってくる姿にセキレイはニヤリと笑みを浮かべ、いつの間にか手にクナイを装備し高めの魔力を帯びさせた。
予想以上に早い大型鳥にキョクビは驚くもセキレイの後ろへと退け、戦闘態勢に入る。
キィィィン!!
投げ放たれたクナイが硬羽へ直撃させる音が響くが、カランと乾いた音を立てて地へと落下していく。
高めの魔力を帯びさせたクナイは強度が凄まじく、太木を切り裂ける程なのだが大型鳥の硬羽には通用しなかった。
「馬鹿な……」
想像を上回る堅さにセキレイは唖然とする。
後ろで待機するキョクビもまた、驚愕していた。
しかし二人には時間は無い。
大型鳥は凄まじい速さで迫り来るのだ。
「とりあえず避けるのに専念しよう!体力切れを狙うんだ!」
どちらが先に体力切れを起こすか、という無謀な勝負だが選択の余地がない状況にセキレイは同意し即座に行動に移す。
まずは狙いを分散させる目的でセキレイは左、キョクビは右へと走る。
狙いは的中したが、大型鳥はセキレイ目掛けて一直線に飛ん行く。
狙いの定められたセキレイは、時折飛んでくる小さな魔力光線避けながら走り続ける。
キョクビは敵に攻撃が通じる弱点を見出す為に観察しながら、視線を逸らせようと小石を投げていく。
大型鳥の口にはあの小型鳥の亡骸が咥えられており、無事に苦しまずに旅立てた事を確認したキョクビは気付いた。
大型鳥の形は此方でいう鷲と鶏を混ぜたような容姿をしており、トサカがあるのだ。
あるとあらゆる羽が硬翼で刃物攻撃は通用しないが、トサカは柔らかそうである。
攻撃が効く補償は無いが、一か八かに掛けセキレイにその事を告げる。
「頭の赤いところ!!柔らかそうなんだ!」
キョクビの叫ぶ声と内容を耳で受け取るが、飛んでくる魔力光線と刃物より硬い翼による攻撃と風圧を避けるのに必死なセキレイは大型鳥の頭部に視線を送れずにいた。
息も大分上がり体力が少ないのか険しそうな表情のセキレイを目に捉え、自分の番とばかりに大型鳥目掛けて走り出すキョクビ。
山猫族の脚力を持つキョクビは本気を出せば瞬時に大型鳥にたどり着き、そのまま平行して走り続ける。
高速で低空飛行する大型鳥へ手に持つサバイバルナイフで攻撃するが、移動しながらの攻撃では硬羽を突く程度となっていた。
しばらく突き続ければ目障りなのか大型鳥は、視線をキョクビに向け狙いを変更する。
狙い変更で此方に向いた大型鳥と目が合ってしまった焦りで転ぶキョクビ目掛けて突進する大型鳥。
ドスッ
慌てて立ち上がろうとしたキョクビの背後で大きな物が地へと落下する音が聴覚へと響く。
立ち上がり後ろを見渡せば大型鳥は飛んでおらず、地へ視線を向ければ大型鳥は倒れていた。
頭部のトサカには今のセキレイが注げられる最大限魔力を帯びたクナイが突き刺さり、未だに魔力を帯びている。
セキレイの元へ視線を向けると、やり切ったと満足気に笑いながらも体力切れで横たわる姿を映し出す。
「セキレイくん、」
セキレイの元へ駆けつけるキョクビは心底心配する表情で、そんなキョクビの言葉は容易に予想ついて言葉を遮る。
「セキレイでいい」
えっ、と情けない声を溢すキョクビの顔が面白くセキレイは吹いていた。
普段は笑っても微笑みや小さな笑いだが、今目の前で笑い飛ばす姿に安易したキョクビも笑いを返す。
ありがとう、大丈夫?、ごめんね、という言葉は要らないと行動に示すセキレイの意図を尊重して、体力回復を待つ。
その間にキョクビは大型鳥が天へ旅立っているか確認し、無事に旅立ちを確信すればセキレイに報告した。
「セキレイくん、」
ムスッと睨まれ、あっと呟き再び言い直す。
「セキレイ、君のお陰でこの魔獣を狩れたよ。本当にありがとう」
礼は要らんという顔は明るい。
体力が回復している事を示す。
「友達でも、お礼はしっかりしたいんだよね」
えへへと照れくさそうに笑うキョクビに、セキレイは目を丸くしていた。
え、違う?と不安気な表情を浮かべるキョクビに首を振る。
「友という存在が今まで無くてな…」
キョクビが初めての友達を意図する言葉に、キョクビが目を丸くする。
「そっかー!嬉しいなぁ…!
改めて、これからもよろしくね!」
「あぁ」
二人は笑みを浮かべて手を握り合う。
初めての友という存在と、禁忌という自覚を得てから初めての友達という存在に互いに感激を覚えて。




