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禁童録  作者: 雲符
2章
19/44

協戦再び 前編 

前編後編の二部編成でお送りします。

草原地帯を過ぎれば美しい泉が姿を現す。


光を反射して輝きを放つ水に喉を潤す生物、水中に潜む獲物を食らおうと狙いを定めている生物と様々な食物連鎖により数多くの魔獣が集まっていた。


先程までの休息により体力が有り余る少年が二名、泉に集まった魔獣の中からどれを狩るか定めている。


「僕は空を飛んでるあの大きい鳥が良いなぁ。夕飯に狩りたいのだけど、僕一人だと難しそうなんだ…」


泉上空で旋回している大きな鳥型魔獣を指さし提案するキョクビ。

夕飯という単語に驚きを見せるセキレイにキョクビは首を傾げた。


「お前、まさかアレを食うつもりか…」


勿論と当たり前な顔で頷くキョクビに、日頃どんな物を食べている物が気になるセキレイである。


セキレイの家に出てくる食べ物は豪華極まりなく、例え鳥肉を使っていても原型は跡形もない。

良い所育ち故に料理もしたこと無く、食材加工が施される前の姿を見た事が無いのだ。

植物は勘と想像で僅かな品数は分かるものの、基本的には何が食べれて何が食べれないのが分からない。


今まで食に関して興味すら起こさなかったセキレイは勧められるがままに、ただ口に運んで生命維持行動をこなしていたに過ぎなかった。


魔獣狩りは自分の娯楽や実力向上を図る意図で殺傷したり、見た目が気に入れば眺めはする程度である。


「あの種類は攻撃的でね、小さい鳥を食べてるんだよ」 


泉に浮かび水中の獲物を狙っている小型鳥魔獣へ差す指の位置を変えて説明を始めたキョクビの顔は、過去に大型鳥と戦い敗北したのであろう苦しい表情だ。

指先の位置を目で追い説明の内容を聞いているセキレイの脳裏では作戦を練っていた。


まず、大型鳥の餌となる小型鳥を生きたまま捉えるのは必須条件だろうとキョクビに伝えれば頷く。

捉えたとして、次に大型鳥をおびき寄せる作戦だ。


「アレに向かって餌を投げれば食らうと思うか?」


アレとは大型鳥を指し、餌とは小型鳥であろう。

キョクビはやってみないと分からないと首を捻る。

喜んで食らうか、不気味に飛んでくる獲物に警戒して避けるかの二択だ。



二人の作戦がまとまった。

喜んで食らった場合では、獲物を咥えた瞬間を狙ってセキレイによるクナイでの先制攻撃。

セキレイの的中率を目の当たりにしたキョクビは必ず大型鳥へクナイを当てると確信している。


先制攻撃により意識を此方側へ向けたらキョクビが大型鳥を引きつけ、その間にセキレイによるクナイ攻撃を連打。

セキレイの元へ意識が向いたらキョクビによる何かしらの攻撃か、セキレイがとどめを刺す。


警戒して獲物を避けた場合では、ここでもセキレイのクナイ攻撃により意識を此方側に向け、後は同じ戦法という作戦だ。


「でも、魔力を使った攻撃されたら困っちゃうな…」


作戦の段取りは決まったが、魔獣は全種魔力を持つ生物。

個体差も大きいが、攻撃的な種類はほとんどの確率で魔力が高いのも事実である。


セキレイはスイジゴクルでの戦闘光景を思い起こし、苦行の表情を浮かべる。


自分の元へ意識が向き、弱点である触覚を切断したら魔力攻撃を放つ所だった。

対人戦ではあり得ない予想外の展開にセキレイは恐怖に似た感情を感じ、手が出せないでいた所を運良く日光という最大の弱点でスイジゴクルは気絶した。


魔力攻撃されてしまったら最悪死を迎える所であったのだ。


「その時は諦めて逃げようか!」


明るく清く元気なキョクビの声に反応する。

諦めて逃げるという選択肢を一切浮かばなかったセキレイは驚きの表情を満ち溢れさせていた。


彼の人生に逃げるという選択肢が無かったのも影響しているのであろう。

心底驚くセキレイはキョクビの清い選択肢に衝撃を受けていた。


「逃げたとして、お前は悔しくないのか」


セキレイの問いにキョクビは首を振り笑顔で全然悔しくないよと告げる。

悔しい気持ちも勿論あるが、何より生きる選択が第一と真剣な面持ちで呟く姿にセキレイは言葉に深く何かが孕んでいるのを感じ俯く。


反応が薄くなったセキレイに視線をやると顔を伏せて表情が読めない。

あぁ、やっぱり似てるなと思う内心にキョクビは口を紡いだままだ。



「さぁ!作戦決行だよ!」


暫しの間を設けてから仕切り直しとばかりに元気な声で呼びかけ、そうだなとセキレイもやる気を取り戻し態勢を整える。

作戦決行の時が始まった。



獲物である小鳥の生け捕りに用いるはキョクビによる釣り技術。

サンミャという釣り達人の背中を見て共に釣りの技を磨いた腕は確かなもので、近場の細長い木枝と冒険の供として常備品である釣り糸を組み合わせた手製釣り竿で魚をおびき寄せる。

魚をおびき寄せるために使っている餌は地中に居た小さな虫だ。


虫を複数投げ込み魚に気付かせ、針の付いた虫も紛れ込ませる。

針の付いた虫を陸側に引っ張ると魚は群れを帯びておびき寄せられ、魚群には小型鳥が釣られてやってきた。

この間、大型鳥はどの小型鳥にすべきか決めていないのか空を旋回したままだ。


キョクビの釣り技術にセキレイは、虫が苦手なのか表情を引きつりながらも腕を組み静かに佇みながら光景を眺めている。


「刻は満ちた。我が疾風の投石を食らうがいい」


中二病発言を決め顔で繰り出すが、セキレイの美貌との組み合わせで痛々しさは無くむしろ凛々し過ぎて惚れ惚れしてしまうだろう。

小型鳥に向かって小石を投げる姿もまた様になっているのだ。


魔力を帯びて強度強化された小石は小型鳥の頭部を直撃し、目眩を起こし動きが鈍くなる小型鳥をキョクビが捕獲に掛かった。


釣り竿は放置し、予め用意していた釣り糸の先端にクナイを巻き付けた物を小型鳥の首目掛けて投げる。

釣り糸単体では風の影響を受け過ぎて飛ばないがクナイの重さで一直線に飛んで行き、小型鳥の首へクナイが到達した瞬間を狙いキョクビが絶妙な加減で釣り糸を引き戻す。

するとクナイは小型鳥の首周りを往復していき、繋がれていた釣り糸で首に巻き付く。


頭部からの強い衝撃により動きが鈍くなった小型鳥はぐったりとしており、抵抗する気力も無い様子で首に巻かれた釣り糸からの引力に大人しく従いキョクビの元へ捕獲された。


「セキレイくんありがとう!」


捕獲した小型鳥の弱り果てた姿に心が痛むも、狙いである大型鳥への挑戦の餌食となって貰う為に痛む心を鬼にして申し訳ない気持ちを振り払う。


頭部打撃を直撃させたセキレイの的中率の凄まじさを再確認し再び感心したキョクビは礼を述べ、次の段階へ進む準備をする。



本番はこれからだ。



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