02
『シロクマ戦隊モフるんジャー』はないわ。
ないったらない!
「ねぇ…パーティー名って必要かな…?」
「もちー」
「いるいるー」
「かっこいいー」
受付嬢はニコニコしている。
モフモフ好きはモフモフしていれば何でもいいのかもしれない。
「シロクマちゃん達、従魔で登録したんでしょ?だったら私一人でパーティーを名乗るの?」
「ソロでもパーティー名を持つ方は結構いますよ。他所のパーティーには参加しませんって意思表示になるので」
受付嬢の援護射撃がクリーンヒットした。
確かに、やんわりと断れるのは魅力だわ。
「じゃあ、ナナは何がいいー?」
「もっとイイのあるー?」
「かっこいいのー」
いや、私にネーミングセンスがあるとは思えない。
それにパーティー名って『〇〇の牙』とか『××の剣』とかでしょ?
私が考えると中二病判定されかねない…
「………ないっす」
「んじゃ、ナナはー」
「瞳が紫だからー」
「『アメジスト パープル』ねー」
「え、私はナナのままで…」
「ダメダメー」
「変身したらー」
「名前変わるのー」
「変身できないよ…」
シロクマちゃん達は『はうあっ!』という顔をしてお互いを見合い、なんかイイ魔法とかないかなー?と話し合い始めた。
随分楽しそうですね…
これは、こっちが折れるしかないかなぁ…
「一応、いつでも変更できるわよ」
先走って受理印を押した受付嬢が申し訳なさそうに眉を下げている。
OKサインを出すしかなかった。
ギルドカードとパンフレットを受け取る。
「あれ?カードが2枚あるよ?」
「ええ。ナナちゃんは魔法が使えるので、そのカード2枚同時に魔力を少し流してみて」
「ほい」
あ、カードに書いてあった文字の色が黒から深い藍に変わった。
カードに記載されているのはランクと名前と、パーティー名や登録したギルドの支部名など…
ふむ。ランクは一番下のF級ね。
よかった、シロクマちゃん達が強いからってランクアップ登録とかされなくて。
いきなり討伐クエは無理だもんね。
「1枚はギルドが保管するわ。他所のギルドからの問い合わせや連絡などに使うの」
「?」
首をかしげると、受付嬢は丁寧に説明してくれた。
ギルドでは銀行業もやっていて、出し入れの金額はこのカードに記録される。
だから世界中のどの支部でもお金を出し入れできる。
それとカードが破壊された場合、持ち主が死亡したとみなされ、即カードも口座も凍結される。
その後、完全に死亡が確認されたら口座は遺言の通りに処理されるらしい。
「というワケで、最初にお金を預ける時に遺言状を書いてね」
遺言、か…なんか現実を突き付けられた感じ…
「………あい」
「では冒険者登録完了です。これからもよろしくね」
幼女+3匹は笑顔で敬礼した。
「よう、モフるんジャー?」
ぎくり。ヤな予感…
ぎこちなく振り向くと、ニタリとしたアデルがいた。
やっぱり、からかう気満々だーっ!
「っ………………変身、してないし…」
そう言い返すのが精一杯。
なのに、更に笑みを深めたアデルはナナのポンチョフードをひょいっと被せた。
そう、シロクマのお耳の付いたフードを…
「『アメジスト パープル』、だっけか?」
んな…っ、被り物で変身と見做すの!?
絶句してるとシロクマちゃん達がバッと私の前に滑り込んできた。
庇ってくれるのかと思いきや、戦士名を名乗るではないか。
そしてポーズを決めたまま、首だけでナナを振り返る。
ほら、早く名乗って!と言わんばかりに見つめられ…
「アメジスト…パープルー」
棒読みで適当にポーズを付けたけど、シロクマちゃん達はぱあっと笑顔になった。
「「「「シロクマ戦隊モフるんジャー!」」」」
皆で元気よく言い切ると、「いいぞ、いいぞ」と囃し立て、拍手や口笛が飛び交う。
実はフロアの皆が聞き耳を立てていたのだ。
アデルは腹を抱えて笑い転げた。
恥ずかちぃ…けど、モジモジしてたらアデルに付け込まれるわ。
もう、開き直る事にした。
私、幼女だしね!許されるよね!
いつまでも笑っているアデルの足を蹴飛ばして、素材を売ろうと買取カウンターを訪れた。
薬草類ならこの場で、魔物などは別部屋だと言われた。
ならばと回復草と毒消し草をこんもりと並べる。
採取は簡単だった。
スキル【鑑定】を貰っててよかった。
10本1束をそれぞれ10束ずつ出す。
「買取お願いします」
「はい。とても状態がいいですね。さすがアイテムボックス保有者です。ですが…」
査定のお兄さんは少し言い淀んだが、教えてくれた。
採取依頼による報酬と、ただ単に素材を売るのでは価値が違う。
こういった素材関連は時価なので常に値段が変動するし、店によってもバラバラだ。
特にギルドだと市場価格を適正に保つ為に他所より安いことが多いらしい。
代わりに騙される心配はないが。
だから、ギルドで売る事が儲けに繋がるとは限らない。
贔屓の店を見つけるのも1つの手である、と…
「それらを踏まえて、これらの薬草はいかがいたしますか?」
「うーん…今日のところはこちらで全部売ります。宿代欲しいので…」
「はい、ありがとうございます。ですが、これほどの品質と量でも、宿代は2日分にしかなりません。早めに依頼を受けるようにしてくださいね」
「っ!?…………あい」
シロクマちゃん達も、あまりの安さにしょんもりしていた。
でも、考えてみれば所詮は材料だもんね。
これをポーションなどに加工して売るのだから、販売価格の1割以下にしかならないんだろう。
あかん。転生だ、異世界チートだと浮かれていた。
私はラノベの主人公じゃないのに。
いつの時代もどんな世界でも、人が生きていくのは簡単じゃないよねぇ。
いっそ野宿でもするか?と思ったが、路地裏では治安が心配だし、かといって最初の森からギルドまで通って依頼をこなすのは無理がある。
ああ、キビちぃ…
ぽふり。
また背後から頭を掴まれた。
私の頭はボールじゃありません。
なんなのよ、人が落ち込んでる時に…
「金ねぇんならオレ等の拠点に来いよ」とアデル。
「……へ?」
「ガキとモフモフだけじゃやっていけねぇ。オレ等のクランに入れ」
ああ、納得。
アデルみたいに直接絡んでこなくても、皆がこちらの様子を窺っていたワケだ。
パーティー及びクランへの勧誘ね。
こんなちびっこ新人だろうが、人数増やして大きくしたいのね。
でも…
「採取だけでのんびりスローライフ…」
「現実を見ろ」
うぐ。反論できない。
シロクマちゃん達を振り返る。
「迷宮でー」
「ドラゴン狩ってー」
「一攫千金ー」
「死ぬぞ」
ですよねー。
こればっかりはアデルに全面同意である。
「すぐに決めなくてもいい。お試しで置いてやる」
どうしよう…もっと他のクランとか調べた方がいいんじゃないかな…?
周りを見渡すと、色んな人と目が合った。
なのに、速攻で逸らされる………なにゆえ?
もしかして、アデルって力のあるクランの人なのかな?
「オレ等はパーティ『白刃の残光』、クラン名は『エピタフ』だ」
幼女+3匹は頷き合うと、整列してキリっとビシっと敬礼した。
アデル達に連れてこられた拠点は、これまたデカかった。
街中だから前庭は狭いけど、バッキンガム宮殿の装飾を削ぎ落した感じ。
シロクマちゃん達がおおーっと声に出してピョンピョン跳ねている。
「わぁお。ちょっとしたお城じゃん。どんな人がクランマスターなの?」
「オレだが?」とアデル。
「っ!?………ああ、またからかってるのね。もう引っかかんないよ」
「いや、真面目にオレだが?」
冒険者歴短いって言ってなかった!?
15歳って言ってなかった!?
「おう、新人連れて来たぜー。とりあえずお試しだ」
玄関をくぐるとそこはロビーで、割と人がいた。
そして受付から女性が出てきた。
「お帰りなさいませ、クランマスター。珍しいですね、自らスカウトなんて」
あ、ホントにアデルがクラマスなんだ…
早速シロクマちゃんをモフるおねぇさん。
あるぇ?私も撫でるの?
「ブランシェよ。よろしくね」
「あ、私は…」
自己紹介しようとしたら、シロクマちゃん達がしゅたっと私の前に勢揃いした。
あ、これまたやるパターンね…
「「「「シロクマ戦隊モフるんジャー!」」」」
ええ、ええ、今度はノリノリでやりましたよ。
「ふふっ、かわいいわぁ」
「元気でよろしい」
「ようこそ」
「仲良くしような」
「モフモフさせてーっ」
拍手喝采。
掴みはバッチリ。
ロビーにいたクランの皆さんには受け入れられたみたいだ。
あ、後でちゃんと本名を伝えました。
笑い転げてるアデルは放置で、ブランシェに案内されて階段を上る。
2階の個室をもらえた。
お風呂は大浴場があるって。
シロクマちゃんも入っていいって。
ご飯は食堂でいつでもタダで食べていいって。
本当は月初めに大銀貨3枚払わないといけないんだけど、3ヶ月もタダでお試し期間をくれた。
太っ腹過ぎる。
なんか、スゴいとろこに来ちゃった。
私、意外と運がいいんじゃない?
あ、幸運先生がお仕事してくれたのね。
やっぱ『LUK』上げて正解だった。
「…何でこんな部屋があるの?」
これはアレだよ!お姫様部屋だよ!
「まあ、最初にこの拠点を建てた人の趣味としか…全室埋まったことはないし、ここも新品よ。気持ちよく使えると思うわ」
「アデルが建てたんじゃないの?」
「アデル様は3代目クランマスターよ」
そうだったんだ。
てっきりどこかのお貴族様のお遊びかと思ってたわ。
「じゃあ、レイドの招集がない限り、何をしていてもいいからね」
「うん!ありがとう!」
ブランシェが帰ると部屋を走り回った。
テンション上がる!
ベッドやカーテンはフリフリで、家具は優雅な曲線と装飾で猫足。
サークルタイプの天蓋もポイント高い。
角部屋ではないから採光はバルコニーに繋がる白い扉だけだけど、南に面しているし天井近くまでガラスがはまってて日当たりはいい。
トップがアーチになってるのもかわいい。
色も白をベースに差し色が水色で、甘過ぎずに自分好みだった。
ベッドにコロンと仰向けになるとシロクマちゃん達もベッドに飛び込んできてぽよんぽよん跳ねる。
ふと目に飛び込んできたのはシャンデリア。
すっごいなー。クリスタル?がいっぱい付いててキラキラしてる。
夜になったらもっと綺麗なんだろうな。
………あれ?電気使えるんだ?
起き上がって部屋を見渡したが、スイッチはどこにもなかった。
「ねえ、シロクマちゃん。電気ってどうやって付ければいいの?」
「あ、ナナはまだ【ライト(光)】を覚えてなかったねー」
「ここの照明器具には魔石が使われているからー」
「1度魔法を掛けたらずっと点いてるよー」
ほいっと付けてみせてくれたが、すぐに消してしまった。
そして「レッツチャレンジー」と言われた。
うん、シロクマちゃん達って割とスパルタだよね。
魔法はイメージ…魔法はイメージ…
私には前世の記憶がある。
中でも、イメージするのに打って付けなのがアニメ。
だって色も音も動きもあるからまんまだもんね。
「【ライト(光)】」
「わぁいー」
「ついたついたー」
「やるー」
スパルタだけど、成功したらめいっぱい褒めてくれるシロクマちゃん達。
ついて来てもらえて良かった。
ぼっちだったら、折角の異世界ライフを楽しめなかったかもしれない。
ナナはあふれる気持ちを伝えるように、シロクマちゃん達を抱き込んでベッドに転がった。
「起きろー」
……………………ん、寝てたのか…
シロクマちゃん達がくっついているので、モフモフまみれでぬっくぬくだ…………ここが天国か………
「起きろって。ほら、食堂に行くぞ」
あれ?アデルの声がする…?
「あー、アデルだー」
「アデルだー」
「だー」
シロクマちゃん達は目を擦りながらも起き上がった。
「わははっ。クマ共、頭動いてねぇな」
苦笑いしながら、アデルはナナを抱っこした。
「ついて来い、クマ共」
「「「らじゃー」」」
食堂に着く頃には目が覚めた。
サイラスとレスターが手を振っている。
長テーブルに長椅子なのでみんな同じ席に座れるが、シロクマちゃん達にはテーブルが高すぎる。
困っていると、人が寄ってきてあれよあれよとジャストサイズの椅子を作ってくれた。
おかげでここが幼女+3匹の特等席になった。
アデルの席を奪ったんじゃない?
なんか、すまぬ…
ご飯はふつうに美味しかった。
パンは日本によくある『ふかふかやわらかしっとり』ではない、何かがみっちりとつまった感じのライ麦パンが酸味少なめで美味しかった。
なんかよくわからないお肉のソテーも、野菜たっぷりトマトベースのスープも、お豆のサラダもドレッシングが好みで。
デザートがあればいう事なかったけど、でも私、ここで生きていけるわ。
シロクマちゃん達も器用にナイフやフォークを使って一人前きっちり食べた。
それから大人組はワイン、私達はココアを片手になんとなく談話タイムとなった。
「オレ達のクラン名が『エピタフ』って言ったよな」
「うん。縁起悪くない? ”墓碑銘” なんて」
「そうか?エピタフは ”追悼文” でもある。オレ等は先人達の功績や無念を受け継ぐ決意を持ってここに居る。今はオレ等自身が生きた追悼だ。オレ等が志半ばでくたばったとしても、クランメンバーが次に繋いでくれる。そういった意味の『エピタフ』だ」
「ヒュー」
「かっこいー」
「感動したー」
シロクマちゃん達が肉球で拍手しながら瞳をキラキラさせている。
私も胸が熱くなった。
ちょっとアデルを見直した。
ちょっとだけね。
「アデル達の志って?」
「ああ、迷宮踏破だ」
「?」
割と普通ね。
拍子抜けした。
キョトンとした表情が理解不能だと勘違いしたのか、アデルはまず迷宮の説明に入った。
迷宮は世界に13個しかない。
攻略しない限り新しい物は生まれない。
だから自分の国に誕生させたいが為に他国の迷宮を攻略するのだ。
不便な場所にある迷宮は、自国の物でも一度壊したいと思っているが。
その為には『ダンジョン・コア』が必要だ。
【ダンジョン・コア】:迷宮の心臓。最深部のボスを倒すと手に入る。コアを設置した場所に新たな迷宮が生まれる。生まれる時は周りの物を巻き込む為、相当な被害が出る。同じコアでも同じ迷宮が生まれることはない。
だが、過去に攻略できたのは2回だけ。
1500年前と、700年前。
現代人には伝説級のお話。
ただ、エルフにとっては昔話。
エルフがいるから歴史が記録されてゆく。
迷宮がない国は様々な面で不利だ。
探索者が集まれば周りに町ができ、商人や職人が集まり経済も文化も発展する。
それになんといっても迷宮遺物が眠っている。
遺物は人が作り得ない技術の塊だ。
今後の人類の発展にも役立つ。
国土が広いと迷宮を獲得する確率も上がる為、1国の保有数が1つだけとは限らない。
まあ、過去に戦争で土地を奪った結果だけど。
迷宮の配置は割と等間隔。
それはまるで、12の領地と1つの王都にある城のよう。
つまり大昔に大陸を支配していた悪魔の物ではないか、と言う者もいる。
「それなのに、この大陸には大小21の国があるだろう?だが迷宮は13しかない。となれば、わかるだろう?」
「争奪戦?」
アデルは重々しく頷いた。
「アデル達はどっち?」
場所を移動させたいだけ?それとも奪いたいの?
「それは…お前が『エピタフ』に正式に入ったら教えてやろう」
うわぁ、面倒事の予感…
ふと気づけば、他のクランメンバーが近くの椅子に座ったり壁にもたれたりして私達の居るテーブルを囲んでいた。
「俺、地図持ってるぜ」
少し離れている所に座っていた青年がテーブルまで持ってきて、目の前に広げて見せてくれた。
ふむふむ、横長のダイヤ型みたいな大陸が真ん中にどーんと描かれているね。
そして【碧落迷宮】とか【エルグ迷宮】とか書き込んである。
…で、私がいるのはドコなんだろう?
直接聞くのはなんだか憚れるわね…
「アデル達が狙っているのはどこ?」
この街に迷宮ないよね?
「3ヶ月後『エピタフ』はこの【巨大迷宮】にアタックする」
あ、だから3ヶ月もお試し期間くれたんだ。
『エピタフ』に入ったら、私達も行くことになる…
アデルが指を差したのは地図の左端。
随分国土の広い…
これは戦争で奪ったパターンね。
つまり、アデルは取り返したいのか…
なんだか、周囲の空気がピリっとしている。
迷宮攻略が危険なことは承知の上だろうから、理由は他にある?
「そっか。んじゃ、とりあえず………お風呂入る」
ギャラリーはずっこけた。
クラマスが自ら連れてきたくらいだから、何かしら有能なのだろう。
仲間になるのか否か、とても気になるのだ。
クランメンバーは「お・ふ・ろー」と歌いながら去って行く幼女+3匹の背中を苦笑いで見送るのだった。
「シロクマちゃん達は自分で体洗える?」
「もち」
「だいじょぶ」
「できるー」
脱衣所の時点で期待大だったが、大浴場は素晴らしかった。
アーチ型の天井、湯船はまんまる、絵画のような美しいモザイクの大理石の床。
なぜか日本式に似た洗い場がある。
まあ、冒険者って汚れる時は汚れるからきちんと洗う文化が出来上がっててもおかしくないかな?
脱衣所に異様にデカい洗面台もあった。
武器防具を洗うのかもしれない。
そういえば、大浴場のすぐ傍に通用口があったわ。
石鹸もシャンプーもある。
確かに、女性の髪の毛みんな綺麗だった。
安心して全身あわあわにする。
シロクマちゃん達も背中を洗いっこしてる。
あ、流した後ブルブルするのヤメい…
よし、準備完了。
湯船も階段状になっているのでちびっこにも安心の深さだ。
入ろうとしたら、シロクマちゃんに押し留められた。
何だろうと思ったら、シロクマちゃんが床や壁に向かって【クリーン(清掃)】、湯船に向かって【キュア(浄化)】を唱えた。
さっきブルブルして飛ばしまくったもんねぇ。
「お、それ生活魔法だね?」
「【クリーン】が掃除でー」
「【キュア】が消毒ー」
「って区別するといいよー」
「わかった」
「ナナも覚えるー?」
「てか覚えようー」
「やれー」
桶を渡された。
あうう、スパルタ度が上がっていく…
けど、魔法を使うの楽しいからやる!
「【クリーン(清掃)】&【キュア(浄化)】」
「わははー」
「また1発でできたー」
「ナナすごいー」
おだてられたので調子に乗って全部の桶にやった。
「ふい~」
「ふふ~ん」
「ぶくぶく~」
優雅に浮いたり泳いだり潜ったりしている。
さすがシロクマ、遠泳が得意なのよね。
あれ?公共の場で泳ぐのは注意した方がいいかな?
でも人間と違ってバシャバシャしないからいい?
一緒に入っている他のお姉さんたちはニコニコしてるし目が温い。
モフモフ好きが多いのね。
ああ、これが『かわいいは正義』か。
平和で何より。
「そろそろ上がろっか。あ、ブルブルはしちゃダメよ」
シロクマちゃん達は濡れネズミのままビシっと敬礼して【ドライ(乾燥)】を唱えた。
白い毛がカラッとフワっとなった。
「えっ!何それスゴい!便利!私もやりたい!」
「にゃははー」
「ナナはもうー」
「何でもやればいいよー」
私も全身カラッとフワっとした。
あぁ、やっぱり生活魔法を選んでよかった。
髪を乾かすのは時間も労力も要するのよねぇ。
これから毎日ラクチンだ!
「ねえ、それ…私にもやってもらえない?」
「ほえ?」
私も、私も、とおねぇさん達が寄ってきた。
「お金はちゃんと払うわ。どうかしら?」
「んじゃ、1回につき銅貨1枚で」
「えっ、そんなに安くていいの?」
だって銭湯や温泉にあるドライヤーって1回100円が多くない?
この世界だと銅貨1枚が妥当だよね?
「うん。脱衣所に貯金箱置いとくから、あとで入れといて」
シロクマちゃん達と手分けして全員に【ドライ(乾燥)】をかけた。
貯金箱はシロクマの形をしていて、お口に硬貨を投入するタイプ。
私も欲しいくらいかわいい。
この時よりシロクマちゃんがお風呂の妖精になるのだった。
その実、お風呂に入り浸ってお小遣い稼ぎをしているだけだが、室内もお湯も常に清潔なので好評だった。
男湯にも時々掃除しに行ってる。
私は裸の男性がいるところにズカズカと入って行けないのでシロクマちゃん達に全部お任せだ。
でも、食堂などで出会った時に男女問わず【クリーン(清掃)】や【リペア(修復)】を請われるまま(有料で)使用していたら、私も妖精さん認定されてしまった。
働く小人さん的な?
それにしても、生活魔法って人気ないのかな?
こんなに便利なのに、何で誰も覚えようとしないんだろ???
翌日、早速冒険者ギルドにやって来た。
「F級にできるもので一番古い依頼書を見せてください」
「まあ!まあまあまあ!嬉しいわ、最近では誰もやってくれなくなったものがあるのよ」
本当は壁に貼ってある依頼書を受付に持ってくるシステムだけど、自分に合うものが無かったら受付で相談に乗ってくれるのだ。
「実はね、下水道の掃除なんだけど…」
先程のテンションが嘘のように真逆に落ち込んだ受付嬢。
まあ、依頼の内容が内容なだけに無理もない。
シロクマちゃん達もこの世の終わりみたいな表情してる。
「なにより聖属性魔法の【ピュリフ(浄化・聖)】が使える人限定なのよねぇ」
シロクマちゃんが速攻でそっぽ向いた。
ふむ、できるんだね。
「私も【クリーン(清掃)】覚えたからだいじょぶ」
「ほんと!?受けてくれるの!?ありがとう!」
シロクマちゃん達がお口ぱかーっして固まってしまった。
そんなにか?
受付嬢は気が変わらないうちにと速攻で受理印を押した。
「この書類をもって教会に行くと案内人を寄こしてくれるわ。あとこれ教会までの地図ね」
「案内人?」
「下水道は入り組んでいるから初見だと必ず迷子になるわ。それに報酬は出来高だから、見届け人も兼ねているの」
なーる。
「んじゃ、いってきまーす」
シロクマちゃん達はゾンビのようについて来た。
教会に着いた。
またしても立派な建物ですがな。
まあね、宗教って威厳がないと舐められるから荘厳を演出しないといけないのはわからないでもないのだけど、逆に金儲け主義かと引く人もいるのよねぇ。
「こんにちは。お仕事に来ました」
礼拝堂にいる修道士に声を掛け書類を見せると、一瞬驚いて慌てて奥に引っ込んで行った。
長椅子に座って待つ。
シロクマちゃん達は寝そべってベソかいてる。
「なんでー?」
「なんでー?」
「なんでー?」
あはは、壊れた。
「だってねぇ、自分達が住んでいる街が汚いって許せなくない?」
「うんー?」
「それはー」
「そうかもー?」
シロクマちゃん達が微妙に納得した頃、修道士さんが帰ってきた。
「お待たせしました。こちらの司祭様が御同行されます」
「冒険者のナナです。よろしくおね…」
「ちがうちがうー」
「そっちじゃないー」
「うっかりさんー」
あ、はい。やりますってば。
私がフードを被るとシロクマちゃん達はキリっと表情を作った。
「ガーネット レッドー」
「ラピスラズリ ブルー」
「こはく イエロー」
「アメジスト パープルー」
「「「「シロクマ戦隊モフるんジャー!」」」」
司祭様達の肩が震えてる。
爆笑してくれてもかまわないのよ?
「あ、私の事は普通にナナって呼んでください」
フードを落としてそう言ったら、2人の腹筋が崩壊した。
うむ、2人とも仲良くなれそうだ。
下水道の入口は教会の敷地内にあった。
ああ、聖属性魔法が使える人限定って言ってたもんね。
教会の管理下なワケだ。
「では、覚悟してくださいね」
いつの間にか口布を巻いた司祭様が入口の錠を開けた。
両開きの片側を開く。
ぷぅ~~~~~~~~~~~ん………バタン!
シロクマちゃんが速攻で閉めた。
「ちょっと待ってー」
「想像以上ー」
「無ー理ー」
「うーん、これはヒドイ。そうだ、臭いを消す魔法ってない?」
「あっー!」
「あるあるー!」
「あれだー!」
シロクマちゃん達は頷き合うと、2匹が両開きの扉を開く。
そしてすかさず残りの1匹が【デオド(消臭)】と唱えた。
「おおっ、臭わない」
と思ったのも束の間、すぐにぷぅ~んと匂ってきた。
再び閉ざす。
手強いな。
「ありえんー」
「こうなったらー」
「駆逐してやるー」
シロクマちゃん達はアイテムボックスから何やら取り出した。
マスクと長靴とレインコート、そしてゴム手袋とヘルメット。
ヘルメットはライトが付いているヤツにクマ耳が付いている。
何気にそれぞれのパーソナルカラーにしてる。
かわいい。
「ナナもー」
「これでー」
「完全武装してー」
私は紫なのね。うん、知ってた。
さあ、3度目の正直。
気を取り直して始めよう。
「【ピュリフ!ピュリフ!ピュリフ!】」
「【クリーン!クリーン!クリーン!】」
「【デオド!デオド!デオド!】」
シロクマちゃん達が鬼のように魔法でピカピカにしながら突き進んでゆく。
その後ろをヒビ割れや欠けを【リペア(修復)】で直しながらついて行く私。
【ピュリフ(浄化・聖)】を覚えたいんだけど、生活魔法ではないから見ただけで魔法が解析できるワケじゃないのよねぇ。
そして更にその後ろを司祭様が付いてきているのだが、【ライト(光)】を使用してくれているのでとっても明るい。
ただ、シロクマちゃん達が怒涛のように進んでいくので私達は遅れ気味だ。
「魔物が出ることもありますので、気を付けてくださいねー」
司祭様が遠くにいるシロクマちゃん達に呼びかける。
「えっ!魔物いるん!?」
驚いたのは私。
掃除だけだと思ってた!
「あ、はい。F級冒険者でも退治可能なスーアー・ラットですが、たまに集団で出くわすので注意です」
スーアー・ラットは大人の冒険者になら中型犬サイズだが、シロクマちゃんは60cmしかないので体感3倍の大きさである。
え、なにそれ怖いんですけど…
ここはクラン『エピタフ』の拠点にあるアデルの執務室。
バルコニーに続く扉を開け、虚空に話しかけた。
「で?あいつの様子は?」
「はぁ、その…冒険者ギルドにて下水道の清掃依頼を受けていました」
影しか見えない謎の人物が答えた。
アデルが抱える暗部隊、その名も『影』の1人だ。
「へ?掃除?」
「はい…」
なんだそりゃ!?
クラン内でも有料だが雑用ばかりやってるし、何がしたいんだ!?
……スパイではないのか?
クマ共の強さはデタラメだし、チビは賢者並の魔法を使うし…
あれ程の存在ならすぐに噂が立つだろう。
なのに、オレの耳には一切入ってこなかった。
だからてっきり他国の手の者かと…
有能な冒険者の引き抜きか情勢の調査あたりかと思って、夕べ、オレ等の目的を明かしたのもエサの心算だったんだが……
「引き続き監視を頼む」
「はっ」
すうっと溶ける影。
なにやらきな臭い動きに、幼女+3匹は全然まーったく気づいていなかった。




