37話 ハイト
――ギオラ視点――
「ウレレちゃん!」
「ギオラ先輩!」
私は、完璧にウレレの動きを再現した。
我ながら良くやったと思う。
すると、虚を突かれたようにドレミとロコが反応した。
私たちの存在を認知出来るようになった、ということだろう。
私の〈阻害〉の魔法の方が勝手が良いのは間違いない。
しかし、ウレレの使う魔術は圧倒的な影響力を持っている。
利便性を除けば、ウレレの魔術は私の魔法を凌駕していると言っていい。
「すごいよ、魔術! これって私にも出来る?」
「ギオラ、無理」
「げっ」
生まれてこの方、出来ないことなんてなかった身からすると、すごい衝撃だ。
だが、私は挫けない。
だって、私は顔が良いから。
何だって出来るさ。
「魔術は魔力があると無理」
「え?」
この呪いか、呪いが駄目なのか。
なら仕方ない。
今回は魔術と縁がなかっただけ。
ウレレの今後の活躍を祈るしかない。
でも、使えないからと言って好奇心が消えるわけじゃない。
むしろ、更に魔術を理解したくなってきた。
「じゃあ、ニャンやドレミなら使えたりする?」
「多分、無理。魔術に必要なのは――」
「もう、ギオラ先輩ー! いつまでそのチミっ子と話してるんですか!」
「そうですよ。ギオラさん! ウレレちゃん……目覚めたんですね」
完全に2人の存在を忘れていた。
ドレミとロコは割って入るように、会話を中断させた。
もしや、ドレミとロコは相性が良いのかもしれない。
息がぴったりだった。
学院時代の後輩とギルドメンバーが仲良くしてくれて、私は嬉しい。
「ドレミ、悲しい?」
「違います……安心したら涙が……」
「ギオラと一緒」
「いや、私は泣いてないから」
「うん?」
「そういう反応すると、私が照れ隠ししてるみたいになっちゃうから」
「内緒ね」
「ウレレ〜」
おかしいな。
確かに私は泣いていなかったはずだ。
はず……だよね?
「ウレレ、あたしのことを運んでくれたんだってな。助かったぜ、ありがとう」
「ウレレ様、この身に代えても恩義は果たします」
「いいよ〜」
「まったく、命の恩人だってのに軽いな」
「ウレレは優しいもん」
「何だそれ、ギオラの真似か?」
「だって、ウレレ優しいから。きりっ」
「ぷくっ。似てるっす。それ言ってる時の顔まで完璧っすね」
「え? 私そんな顔してない! それにきりっなんて、言ってないし」
「ギオラ先輩……たまに言ってましたよ……」
「え……」
その瞬間、過去に例を見ない衝撃を受けて私の心臓は一時停止した。
つまり、過去の私は死んだのだ。
よし、これからは「きりっ」が漏れないように気をつけよう。
過去の私は死んだし、もう知らない。
切り替えて行こう。
「そういえば、誰?」
「その反応遅くないっすか」
「ああ、紹介がまだだったね。この2人はロコとモコ、私の後輩だよ」
「美味しそう」
「それで、こっちがウレレ。私のギルドメンバーだよ。こっちの3人もそうなんだけど、自己紹介は終わってるみたいだね」
「はい、ギオラ先輩。ドレミさんにニャンさん、そしてファザーさん。皆さん、とても優しい方で頼りになります」
「……⁉」
「どうしたんですか、ドレミさん?」
「美声を奏でるマンドラゴラを引き抜いたような顔してるっすね。理由は分かるっすよ。慣れて欲しいっす」
モコの言う通り、ドレミはとても驚いた顔をしている。
さっきの私みたいだ。
気持ちは分かるから、今はそっとしておこう。
「それで、2人は仲間ってことで良いのかな?」
「もちろんっす」
「ロコはいつでも、ギオラ先輩の味方ですよ。あ、前回のは忘れてくださいね。悪女のアハロ先輩に誑かされただけですから」
「2人が加わるなら心強いよ。ちなみにアハロは、うちのギルドハウスに放置したままだから後で回収してね」
「アハロパイセン……なんかしょっぱいっすね」
「単身で乗り込んだ報いですね」
結果的に、アハロとフォンをギルドハウスに残す形になってしまったが、特に問題はない。
基本的にアハロは世話好きだ。
幼い女の子がいたら、襲うよりお世話を選択すると断言できる。
つまり、フォンの安全は確保できた。
これで、私がハイトを倒すために動き回れる。
「敵の大将を倒せば、この戦いも終わるでしょ。ハイトを倒そう」
「ええ、その通りです」
「そのための共闘関係だったんっすけどね。まあ、戦力が揃ったんで良しっす」
「で、ハイトはどこ?」
「それがロコたちにも――」
「僕はここだよ」
視界の隅に、見覚えのある顔が映った。
件の女、ハイトだ。
「いや、参ったよ。まさか僕の放った駒が全て取られるなんて。でも、いいや。有能な駒は残ってるし」
「悪いけど、もう手加減はしない。私の冤罪を晴らすって言うまで殴ってやる」
「何か、ギオラ先輩の方が悪役っぽいですよ」
「ないない、私は顔が良いから正義だよ」
「そうだね。僕に勝てたら、冤罪も晴れるかもね」
「よし、殴る。殴られる準備しておけよ。殴る準備は出来ているから」
「怖いなぁ。まあ出来るものならやってみてよ」
「元から、そのつもり――」
ハイトへ、風魔法で作った風の拳を放つ。
これは「インストリア」でアハロに使ったものだ。
あの時は避けられたから。今回は活躍してほしい。
「守」
風の拳が放たれた瞬間、ギルド協会で私を襲ったハイトの部下が後ろから飛び出してきた。
そして、不可視の一撃をその身で受けた。
庇ったと言えば美徳だが、ハイトの態度からしてそれはない。
その関係は仲間というより、人と道具だ。
私の一撃を盾で受けたと言った感じだろう。
平然と人を物扱いするその態度に、虫酸が走る。
やっぱり、こいつは嫌いなタイプだ。
遠慮なく殴ろう。
「ふ〜ん。意外と威力は無いんだね」
「私ったら、か弱い乙女〜」
「狂気的の間違いじゃない?」
「黙って、殴られてろ」
「「「「守」」」」
ぞろぞろと、恰幅の良いハイトの部下たちが立ち塞がった。
部下たちは皆、顔の半分を布で覆っているため表情が分からないが、人形のようで薄気味悪い。
相変わらず、こいつらに状態異常系の魔法は効かない。
ハイトと話しながら、睡眠や麻痺さらには毒魔法まで試したが効果は確認できなかった。
しかし、これで確証が持てた。
ハイトを含め部下たちは魔術を使っている。
あと、これはまだ仮説だが攻撃系の魔法なら無効化されない気がする。
状態異常系の魔法を使った時の感覚と、風の拳を放った時の感覚は違った。
もしかすると、ウレレの魔術とハイトたちの使う魔術には違いがあるのかもしれない。
実際にウレレの使っていた魔術は、ファザーさんの魔法を相殺していた。
だけど、ハイトたちの魔術に対して私の風の拳は届いていたんだ。
この差がどの程度のものか分からないが、私の攻撃に脅威を感じていないハイトに一杯食わせることは出来るはずだ。
「皆、力を貸して。私はハイトをやるから。他を頼みたい」
「任せろ、ギルドマスター」
「任せてください、ギオラさん!」
「私めに出来ることなら、何なりと」
「元からそのつもりっすよ。一緒に戦うなんて久々で、疼くっすね」
「ギオラ先輩の可愛い後輩にお任せください」
後ろに仲間がいると安心するな。
さり気なく、ドレミ以外に〈防御〉の魔法を付与しておく。
近接戦主体のニャンとモコには〈強拳〉を追加で与える。
魔法を主戦力とするファザーさんとロコに過度の支援魔法を付与すると魔力の妨げになるため、〈防御〉だけで留めておく。
ドレミに何も付与しなかった理由は、単純に強化しない方がドレミにとって戦闘が有利になるからだ。
この戦いの前に、ドレミと色々な戦い方を研究したが結局、受け身というスタイルが1番しっくりきたらしい。
久しぶりの支援魔法を発動した気がするが、やっぱり攻撃するより魔法ノリが良い。
私はこっちの方が向いているのだろう。
この戦いを早く終えて、ギルドマスターとしての平穏な日々を取り戻そう。
まあ、ギルドマスターとしての仕事はろくにしてないけど。
定期的にアクセス数とか見てしまうので、ブックマークが増えていると嬉しいです。
と思って、昨日更新するはずが寝てしまいました。
最後の所で、ウレレが返事していないのは仕様です。
ちなみに、ウレレ視点は物語が無事に進めば書けると思います。
はい、では次もよろしくおねがいします。