考える葦
あの左の通路では墨汁以外何も見つからなかったので、俺達は初めての場所である正面玄関に戻ってきたのだが、今はあの日本人形が見当たらないようだ。それを確認して後ろから付いて来るアスナに無言でジェスチャーして上に行くように指示をした。アスナにそれに無言で頷くと黙って俺の後に付いて来るように階段を上り始める。
なんか逆にあの人形が見えない不安になってきたな。なぜならどこからともなくいきなり襲ってくる可能性が高いからだ。だからなのか敵は見える範囲にいないと落ち着かなくなるんだ......俺はサイヤ人か。
それにあのオルゴールの音色も聞こえてこないからな。そのせいでどこにいるのかも見当もつかない。それともあれって止めることができるのか? それなら初めはオルゴールが当たり前のものだと思わせておいて、それが聞こえないなら遠くにいると勘違いさせているうちに後ろから......わぁぁぁぁ!! ってやってくる可能性がかなり高いな。
そんなことを考えたので、時々後ろを見たり前を見たり、そして可能性のあるアスナに注意を払いながら進んで行く。
ちなみにそんなアスナは、俺の服の裾を握っており時々裾を引っ張って何かを訴えかけてくる。
「何だ、何かいたのか?」
「なんか音がしませんか? 床が軋む音とか......」
たしかに先ほどからそのような音が聞こえてくるが、それはこの館に入った時から聞こえていたからな。まあアスナは魔力が使えないことに驚いていたことと、あの人形のことでそれどころかじゃなかったからな。仕方ない、分かり易く説明してあげるか。
「あぁそれは古い家あるある一つ、『あっれーなんか音が聞こえね? 聞こえなくね? ワンチャン幽霊じゃね? 心霊写真いけちゃうんじゃね?』だ。だから別に気にすることじゃない」
「なんでチャラ男セリフなんですか......」
こういうのはチャラ男が相場っていうのが決まってんだよ。
以前あの二人と一緒に心霊スポットに行った時に、二人組のチャラチャラした男女がそう言っていたからだ。ちなみに女性の方は『ヤバイマジ卍~! てか幽霊のアピるがありえんてぃーなんだけど~、でも逆にそれがエモいわ! ホントうれぴーまん! そんな幽霊に圧倒的感謝!』と彼氏であるチャラ男の裾を掴みながらそう言っていたのを見たからだ。それを見た瞬間すぐに帰ったがな。なぜなら幽霊はあの女性の方だと思ったからだ。なんせ化粧がやまんばギャル、加えてガングロ。まずは鏡を見て......幽霊以上にあなたの方がマジ卍だから。
それにあのセリフ聞いた時はほとんど解読不可だったが、今なら少しだけ解読することができる。アピるがアピールする、ありえんてぃーがあり得ない、エモいはテンションあげぽよ、うれぴーまんは嬉しい、圧倒的感謝はカイジが元ネタていうことぐらいだ。てかなんだよこれ普通に言えよ、あの時は未解読のインダス文字かと思ったぞまったく。
それにしてもあれ(やまんば)って最近は見ないけど、絶滅でもしたのか? でも国際自然保護連合(IUCN)や環境省からも、絶滅危惧種としてレッドリストに指定されてなかったからな。
こんな感じで周囲に気を配りながらも考え事をしながら一室一室ドアを開けては閉めて、閉めては閉めての繰り返しをしていた......なんか今変なこと言ったような気がするが、まあいいや。
とにかくあの人形の気配がしないのでそうしながら探索を続けている。そしてアスナは更に引っ付いてくる。かなり動きずらいんだが......てかこの状況だといざって時に逃げるのが遅れてしまうだろ。その時は仕方ないからアスナだけは逃がしてやるか、ホント俺って優しすぎるだろ。ノーベル平和賞も夢ではないな。
......それにしても無言になると何かしら考えてしまうんだよな。パスカル先生も『人間は、自然のうちで最も弱い一本の葦にすぎない。しかしそれは考える葦である』 みたいな感じのことを言っていたからな。たしかこれは自然の中では弱いが、思考する存在としては人間は偉大だという意味のはずだ。つまりこんだけ考えている俺は偉大であるという証明材料になるのだ。
そんな偉大な俺はブルーベリーのアスナ(仮)を引き連れて更に奥へと進んでいると、久しぶりに見るアイテムさんをゲットした。
「おぉこれは硯だな。それもかなり高そうに見える」
その硯はどこかの美術館に展示してありそうなほど立派なものだった。どこか立派かと言うと......なんか全体的にかな? よく分からん。
「分かるんですかそんなこと?」
「ん? まあな」
アスナが俺との鑑定に少し驚ているようだが、これはたまたまだ。最近テレビってそれっぽいものを見たおかげだが、まあその内容はよく覚えてねえけど。
硯を手に入れので再度廊下に出た瞬間、
「見~つけた、うふふ」
進行方向からそんな声と笑い声が聞こえたので、俺とアスナはまるで首が錆びついているかのような音を出してその声の正体を確信して見る。
案の定声の正体は、笑った日本人形だった。てかこいつさっきは悲しそうな顔してたよね? なんで表情が変化してるんだ? 最近流行りの顔を交換できるフィギュアみたく別パーツでもあんの? それとオルゴールが鳴っていないということはやっぱカマかけなの?
俺はなんとか動揺を押さえつけるようなことを考えながら、今最もここにいたら発狂して闇落ちの可能性の高いアスナに指示を出すことにしたのだが、
「アスナ! 俺が引きつけるからお前は先に一階に逃ーー」
「分かりました!」
はっやっ! 今の速度マッハ20! 殺せんせーかよ! 俺が言いかける前にアスナは俺の心配などせずに、そう言いながら瞬時に方向転換すると同時に走り去ってしまったのだ。てかもう少し躊躇ってほしいんだけど......こちとら命張って正面で笑っている奴を止めようとしているんだからさ。
「はぁー......仕方ないな」
そう言った瞬間、先ほどまで停止するかのように固まっていた人形がいきなり形容し難い動きをしながらこちらに猛スピードで近づいて来た。
それを見て俺は微笑ましいものを見るかのように麦の目になると、
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
自分の声に気にも留めないで全速力で元来た道を走り抜けた。
そのスピードは、人間バージョンの神速のゲノセクトと言っても過言ではないだろう。なぜならセスの時以上のスピードを出しているからだ。ステータスはたしかに下がっているはずなのに。これが火事場の馬鹿力というものなのか。
俺は自身の隠された力に驚きつつ後ろから追いかけて来る人形に注意を払うこと怠らない。息を荒れるのを抑えながら走っていると後ろ、つまりあの人形から「カタカタカタカタ」となんか変な音が聞こえているのだ。なんだこの音は? 一体どの部分の音なんだ? まさかもののけ姫に出て来るあのことだまなのか?
俺は先ほど追いかけて来る動作をした人形のことを思い出してみることにした。あの変な動きをした瞬間、一瞬だが首が左右に揺れたような気がした。つまり首ふり人形みたいな感じだ。そのせいであの音が発生しているのだろう。
絶対に後ろは振り向かないと決め、なんとかその勢いを維持したまま全速力で走っていたからなのか、奴の音が次第に遠ざかっていることに気が付いて俺はあろうことか部屋に入ってしまう。
このままだと袋のネズミだ、どうにかしなければ。そう思いながら周囲を見回すと、部屋の隅の方にひっそりと佇んでいる例のアレを見つけてしまったのだ。
「......これはたけしボックス......ちっ仕方ないか」
俺は舌打ちをすると、たけしのようになりませんように! と祈りながらその中に入った瞬間、それと入れ替わるかのようにこの部屋の扉がゆっくりと開く音が聞こえた。
「どこ......どこにいるの?」
そんなことを言いながら、床が軋む音を出しながら奴が部屋の中に入って来たのがなんとなくだが分かる。
その間俺は内心で、神様仏様どうか俺をお救いください! 間違った死神様だ! そんなフラグを立ってしまっていたのだ。
すると案の定先ほどまで鳴っていた床の軋む音が消えて、
「そこ......そこにいるの?」
声がゆっくりとだが確実に俺に方に近づいて来くるのを感じ取る。これはもうダメだ......俺の命運はもう尽きたんだ......アスナ後全部よろしく......それと平和賞だけは俺の墓石に持って来てくれ、そんなこと考えながらも俺は人形をからマウントを取るために構えのポーズをたけボ(たけしボックスの略)の中で取ることにした。
本来なら誰か人がいる前でしたかったんだけどな。その決めゼリフは「ここはいいから先に行け! 俺がなんとしてでも食い止めてみせる!......アァァァァァァァ♂!!」みたいな感じだな。ポーズについては両手を広げるってイメージでいいが、このセリフだと完全にヤられているじゃねえか。俺の純潔のア〇ルが汚されてしまった......まだ父さんにヤられって違う! そこアムロ! 野獣じゃない! てかなんかアスナがいないといろいろヤバイ方向に考えてしまうな。つまりアスナは俺にとってのストッパーといことか。生きて出会うができたなら、なんかプレゼントでもしようかな......俺を、なんつっててへ♪
それにしてもこのたけボの中って結構狭いんだよな、マウントの構えを取りにくいのだが......だが狭いので安らぎのひと時を過ごすこと可能である。これならたけしも安心しながら逝ったんだろなってか、たけしは首吊りだから関係ねえな......つまり全然安心できない。
こんなに考えているのだが、今現在俺の脳内はこれらのことを並列思考をしているので現実世界では約10秒しか経っていないのだ。なんか地味に長い!
そしてとうとうあの人形がたけボの目の前まで来ていることが分かった。たけボの扉の隙間から入ってくるロウソクの光が消えた体からだ。隙間から人形の白い手がゆっくりと扉の取ってに手を掛けようとする。俺はなんとしてでも尻だけは守るために構えを取りつつも、尻に最大限の力を篭めたので危うく屁が出そうになった、というか出てしまった。『*ただしすかしっぺ』
これならあいつも「あっくっせー!」とか言ってどこかに行ってくれるかな? 俺は恥を覚悟して屁の構えを取ろうとしたが、その瞬間......奇跡が起きる。『*ただし屁ではない』
「ギィ......」
通路の方から床の軋む音が聞こえてきたのだ。案の定奴は対象をそっちに変えて猛然と走り出してくれた。
その時隙間から奴の後ろ姿を見たのだが、首が左右に振って手足をばたつかせながら走っているという、なんとも形容し難い動きをしながら部屋から出ようとしていた。
アカン......これは後で夢に出る奴だわ。そんな風に諦めてながら人形を見送くることにしたのだ。
そして奴の足音がこの部屋から離れたことを確認してから、俺はたけボから出ることにしたのだが、
「まったくステータスが高くてもあんなのと戦いたくないだろ。あんなのを鳥(人形)に睨まれた虫(俺)って言うんだ。ぜってぇ敵わねよ」
出たと同時に俺は一人ブツブツとあの人形に対する愚痴を言いながらこの部屋の中を探索することにした。
ぱっと見何もなさそうに見えるけどな......ん? あれは......?
「......部屋の中に扉があるな」
部屋の隅のほうに壁の色と同化している扉が見えたのだ。大きさとしては、腰を屈めれば入れるくらいの小さな扉であり、よく見ると鍵穴があったのでその鍵穴に一階で見つけた鍵を差し込んで回してみると案の定簡単に扉は開いてくれた。
よし、やっと話が進む。ならさっきのはフラグみたいなもんだっていう認識でいいのか。まあ次は俺じゃなくてアスナに代わってもらうがな。てかアスナは生きてんのか? もう手遅れとかそんなんじゃないよな?
相棒の心配をしながらも腰を屈めて扉から中に入ってみると、その道はどうやら地下に続いているように螺旋階段のような作りである。全部石でできているようだな、だが所々に苔みたいなものが生えている。長い間誰も使ってないからなのか、地面にはホコリが積もっている。なんか歩くたびにホコリが舞うからくしゃみをしてしまう。
くしゃみを10秒に一回するという驚異的な記録を出しながら階段を下りること約10分。
ここまで計36回くしゃみしたなあ~と思っていると、とうとう目的地だと思われる場所に到着したようだ。俺の目の前には扉があるのだが、それには何かしらの絵が施されいたかのように見える。しかし時間の流れのせいなのか、それはすでに絵としては見えないほど掠れている。
なんとなくそれが気になったのでよく見てみると、真ん中に何か文字のようなものが書かれているのを発見した。この世界に来てまっすぐに図書館で本を読み行くのを習慣にしていたので一応この大陸の文字は読めるはずだ。なので近づいてその書かれている文字を見てみると......?
「なんだこれ......文字なのか?」
そこには文字というよりもなんかハングル文字のような象形文字のようなが書かれていたのだ。
なんか歴史の教科書でも見たことがあるけど、こういうのを神代文字っていうんだっけか。なんか気になるんだけどなあ~、なんか方法ねえかなあ~......そういえばスキルに言語理解があったよな。
そのスキルを意識しながらその神代文字のようなものを読んでみると......?
「いと......る......へ......れなく......んな?」
絵同様に文字も掠れていたのでそれぐらいしか解読することができなかった。その下を見てみると更に文字が続いていると思られる跡があるが、そのほとんどが解読できるほどの情報量を保有していなかったので、仕方がないので諦める以外方法がなかったのだ。
「まあとにかく、ここが目的地のようだな」
俺は一旦あの文字のことは忘れることにして、今最優先事項であるこの館から出る可能性のある部屋に進むことに決め、そのドアノブを慎重に回して中の様子を確認する。
内部の作りとしては、セスと戦った場所と同じように石でできているし、壁にはロウソクが備え付けられているな。なんでロウソクに火が付いているんだ? ここって長年人がいた形跡がないんだが......まあそのぐらいのことでいちいち気にしていたら異世界では生きてはいけんわな。異世界は不思議♪ であふれているんだからな。とにかく大きさとしてはオーブリー達がいた会議室と同じぐらいの大きさだ。それとセスって元気にしているんだろうか、ダンジョンも攻略されたんだから無職になっているはずだからな。だがリアムは何も言わなかったし、ワンチャン『あの人は今!?』で出て来るかもしれん。それに期待する以外安否の確認のしようがないからな......てかまた考える葦になってたわ。
そのことに気づいて俺は、気を取り直してこの部屋に入ることにした。
内部も階段同様にホコリが積もっており、少しくしゃみが出そうだ。このままだとギネスブックに載るかもしれん、そんなことを考えてるとある場所に目が留まってしまった。
「これは......変わった剣だな」
そこには石板の机があるのだが、その上になんとも変わった剣みたいなものだが置かれていたのだ。
その剣身の左右に段違いに3本ずつの枝刃を持つ両刃の作りであるように見える。
以前と言ってもこれは地球にいた時の話だが、学校の図書館の本で一度だけこの刀を同じものを見たことがある。それはかなり昔に韓国がある場所に存在したある国が、当時はまだ倭と名乗っていた日本に何かの縁で献上したものであり、その使用法は武器というよりも祭祀的な象徴として使われていたと書いてあった。それに今の日本じゃ国宝に認定されているとも書いてあったよな。たしかその名は......。
「ん? おーよく来たなここまで、待っていたよ」
考え事をしていたら突然その剣が喋りかけてきた。
それにしても年寄りのおじいさんって感じの声だな。てか喋る剣とか初めて見た、かなりシュールである。
何故か俺は、呑気にそんなことを考えるぐらいこの剣に対してあまり注意を払おうとはしなかったのだ。
なんか年寄りの声って安心するんだよな......もちろん第一候補が海老沢先生である。あの人もセスみたくいつか紹介されるかもな。
とにかく今のセリフから、ある明らかな事実が判明したので俺は彼に訊くことにした。
「その言い方だと、あの手紙はあんたが寄越したものか」
「あぁその通りだ」
どうやって書いてんだその体で、手が生えてくんのか? それはかなりヴュジュアル的にヤバイし、ワンチャン見世物小屋行きになるな。
俺の偏見的考えを読んだのか、彼の体が突然光始めた。
まさか怒ったのか!? ごめんなさい! 研磨剤とか用意してその剣身を磨いて差し上げますからどうか! 俺は土下座をしながら心の中で謝罪していると、
「手紙はこのようにして書いたんだ」
俺の土下座を無視してというよりも見えていないのか、彼は俺の疑問についてこの場で説明しようとして思っているようだ。
なんだよいい剣じゃねえか、だから国宝とかになるんだよな。おめでとう! まるで政治家のような早変わりで態度を一変させた俺は、気になる手紙の書き方について彼に説明を見ることにした。
するといきなり空中に一枚の紙が出現する同時に彼が念じているのか、それに文字が一文字ずつ丁寧にペン無しで書かれていくのを見ることができる。そしてすべて書き終わると突然その紙が空中で消えると同時に俺の手元に届いていた。つまり念動力みたいなものっていう認識でいいだろうな。
俺は手元にある手紙を見てみるとそこにはある名が書かれていた。
「......自己紹介でいいのか?」
「あぁそれで構わいよ」
そこには図書館で書かれてあった名が綺麗な字で書かれているが、あの時も思ったがこれってなんか読み方がムズイんだよな。
「それは七支刀と読むんだ」
俺の気持ちを察したのか、彼が自身の読み方を教えてくれた。
だがこれよりも違う読み方あり、そちらのほうがなんか馴染みやすかったのだが......何だけ? たしかそれはその形からもじったと言われているらしいからな。
「私にはもう一つの名が存在する。そしてその名はこの作りから付けられてそうだ」
彼がそう言ったので、俺は彼を一度じっくり剣身の三本ずつの枝刃をよく見る。そこでようやくその名を思い出すことができた。『君の名は。』ではなく『剣の名は。』をだ。
そうだこの剣の名はーー。
「その名は......」
そう俺は言う前にその先を彼が引き継ぎ、その自身のもう一つの名を口にした。
「妖刀、ナナツサヤノタチ」




