館
「それってホントなんですか!?」
少しの間ムンク状態に陥っていた様子だが、すぐに我に返るとアスナは俺に鬼気迫る勢いで訊いてきた。
それを実証するために俺はその場で黒刀を出そうするが......何の反応を示さない。
「ほら、分かっただろ。魔力はこの館には存在しない、というよりも使えないらしいな」
魔力の流れは感じ取ることができるが肝心の魔力が出すことができないのだが、まあ大方この館全体に魔力を封じる何かがあってそれが阻害しているんだろう。
アスナも何か実験している様子だったがすぐに肩を落とすと俺の見解に納得したようだ。
すると突然天井から一枚の紙が落ちて来くるのが見えたので、なんでろうと思いながら目の前に来た時に手に取り見てみると、そこにはあることが書かれていた。
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”ここに迷い込んだ者にへ”
ここは化け物の館と呼ばれる館である。
ここを出たければこの館にある謎を解き、私のいるところまで来るがよい。
さすればここより出られるだろう。
注意事項
ここでは魔力は使用不可、加えてステータスも低下する。
モンスターの代わりに化け物が存在し、化け物に遭遇した際は逃げることを強くお勧めする。
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「だってさ。アスナ、お前化け物系って大丈夫だよな」
よく考えたら化け物系って何だろうな? B級映画に出てくるようなあの安っぽいモンスターなのか? それなら『トレマーズ』とか『メガ・シャーク』なら、迫力だけはあるから見ていても面白いだけどな......あぁここ水と土ねえわ、それによく考えたら獲物俺達だったな。
そんな俺とは違ってアスナはかなり深刻な顔をしながら考えている様子だ。
「ん~そうですね......見ないことには何とも言えませんが、魔力を使えないと考えるとかなり危険です」
俺の確認にアスナは微妙な顔をしながら答えた。
「だよなあ~よっぱ見た目が気になるよなあ~、ブルーベリーなのかなあ~」
「何ですか? ブルーベリーって、もしかして目が悪いんですか?」
たしかに少し目が悪いので家ではメガネを掛けてはいるが、学校ではコンタクトで通ってるんだよ。まあ付けなくても支障はあまりないがな。
「それはガチのブルーベリーだ、違うブルーベリーがいるんだよ」
そんな会話をしている時だった。
俺から向かって右側の通路から何者かの足音が聞こえ始めたのは。
本来なら、ヘイブラザー! 元気にしているかい! といった感じで近づき馴れ馴れしく肩に手を回したいところなのだが、馬鹿にすんじゃないわよ! そっちのせいなのよ! という台詞と共に飛んでくる無慈悲なるビンタ。そして突然の雨に濡れてしまう、そんなシチュエーションを以前、映画かCMでも見たことがあったからだ......あれ? なんで女性口調なのにブラザーなんだ? あぁ、そうか、そうか、彼らはそういう関係だったのか。
5年越しにその事実に気づいてうっかりアスナ同様エーミールになってしまったのだが。
てかそんな場合ではぁぁぁぁない! 先ほどから右側の通路から何者かの足音に続いて微かだが鼻歌のようなものまで聞こえて始めたからだ。
距離が結構離れているがまるで反響するかのように聞こえてくるのは、どうやらこの館の作りだろうな。
俺は小声ですぐにアスナに指示をする。
「おいアスナ、右の通路から何か来るから。俺に付いてこい」
「分かりました」
俺達はすぐに二階に上がると同時に手すりの端からその者の正体を見ようとして見張ることにした。
「なんかこれって聞いたことがあるんだけどなあ~。ん~やっぱダメだ、思い出せん」
先ほどのよりもその距離が縮まってきたのか、徐々にその鼻歌というよりもよくテレビドラマのあるワンシーンで使う曲だなあ、というところまで分かるのだがその曲が何かがどうやっても思い出せないのだ。
すると突然今まで黙っていたアスナが、
「たしかこれは......モーツァルトの曲ですね」
流石の俺でもその名前くらいは知っているが、ここって異世界だよな? なんで地球のそれもかなり昔のクラシックなんかが流れているんだ?
まあとにかくアスナは知っているようだし訊いてみるか。
「へ~それでどんな曲なんだ?」
「これは、『レクイエムニ短調K.626』という名前で彼が最期に残した曲と言われています。この他にもレクイエムという名前の曲が数多くありますが、その中でも最も有名な曲として認知されています。しかし彼は、これを作曲している最中に亡くなってしまったのですべては作曲することができなかったそうです。なのでその代わりの彼の弟子であった人物がその続きを書き完成させたそうです。ちなみに今聞こえてくるのはその曲の中でも特に海外でのお葬式であるミサの際に使用される部分です。たしか......ラクリモサと言い日本語で言い換えるなら、『涙の日』と言いますね」
「......なんでそんなに詳しいんだ? モーツァルトファンか何かか?」
いきなり怒涛の勢いで聞こえてくる曲の説明をし始めたアスナに俺はドン引きしてしまい、そちら系の人かなと思い訊いてみることした。
「別にそういう訳ではありませんね。ただ休日はよくこのようなクラシックを聞いていたからです。他にもメジャーな曲としてベートーヴェンの月光や悲愴、ヘンデルのサラバンド、ショパンならば別れの曲といったものは、聞いているだけでリラックスできる曲ですよ。まあこれらはすべて悲壮感漂う感じの曲なのですが」
そういえば......レクイエムって日本語で鎮魂歌だな、ということはこちらに近づいて来ている人物も大切な人が亡くなってしまい、その悲しみ口に出しているだけもかもしれないな。
「ふ~ん、そうなのか」
たしか俺も中学の音楽の授業の時になんかかなり印象的な曲習ったんだけどな。
あぁあれだ、マイ・ファーザー! マイファーザー! うんた~らかんたら! そんな感じで魔王とその娘と仲良くパーティーターイ&ボンバベッ! するシューベルト作曲の魔王のはずだ。
そんな変なことを心の中で父さんの腕に抱きかかえられている間叫びながらアスナの話を聞きつつ、俺は適当に相槌を打っているとこの曲を何かのアニメでも聞いたことがあるなあ~と思い出していた。
たしか『ハンターハンター』だったはずだ......名前出してもいいのか? まあいいや。
それの内容だと緋色の目をした俺間違ったクラピカさんに大事な仲間であるウヴォーさんが殺されて、そのことを旅団の皆様が嘆き悲しいんでアーメンする時に使用していた曲だったはずだ。
アーメンしている割にはその後ヨークシンの街で暴れまわっていたが......あぁあれが彼らにとってのレクイエムってわけか、まあすでに歌じゃないが、でもそんなの関係ねえ!
それは置いとくとしてこの声の主は救出対象かもしれないな、このままでは外で話していたことが実際に目の前で起こるかもしれないし。
だが一応どのような人物であるか判断しておきたいので、そのままの位置に留まることにしておくか。
......なんか距離が近づくにつれて人の鼻歌と一緒になんか別の音も聞こえてくるな。多分これは......線の細いオルゴールの音色のような気がする。
そして足音が徐々に大きくなり、発せられるその鼻歌のようなものがすでに人のモノではなく、オルゴールの音色と共に聞こえてくる機械音の鼻歌であると理解する。そして間もなく、確認することができるほどの距離まで来たところでとうとうその姿を現したのだが、それを見たアスナが叫ぼうとしたので俺はすぐにその口を押えた。
あんなもん俺でも怖いフォイ......うっかりマルフォイ症候群発症したフォイ。
はぁ~もういいフォイ! 薬! ゴクン! よしオーケー! 設定粗すぎだろ!
まあいい、そいつの見た目は身長2メートル強! だが体格はほっそりしている、しかし髪は腰付近まで伸び切っており、その巨大な体に着ているものは花柄の着物である。それは日本の爺ちゃん達の家に置いてあるのを見たことあるし、たいていの昔からある家の押入れや玄関に飾ってあるのを高確率で見ることができるだろう。
「なんで日本人形がいんだよ......」
全国のちびっ子達の恐怖の象徴である巨大な日本人形が歩いていた。
見た瞬間理解しましたよえぇ、彼女は救出対象ではないということをね。
爺ちゃん達の家に泊まりに行く際、いつも玄関やリビング、果ては寝室にまで奴らは存在していたんだからな。
当時の俺にとっては恐怖の対象だったかな、よく爺ちゃんか婆ちゃんに撤去するように申し出たものだ。
するか二人はそれぞれこんなことを言っていた。
「ユウちゃんはあの子が怖いのかい?」
俺は婆ちゃんの目線の先にある約30センチの日本人形をあまり直視しせずに横目でみながら強く肯定する。
「うん怖い! な、なんか夜寝ている時にいつもこっちを見ているんだもん!」
「気のせいじゃないのかい? 人形さんの体は動かんのよ」
「か、体は動いてない! 目、目だけでこっちを見ていた!」
真っ暗な部屋の中で何故かこちらを奴が見ている、それだけは確信できたのだ。
「う~ん、爺さんや。ユウちゃんはこう言っているけど、ホントなのかね」
俺の申し出に婆ちゃんは唸なりがら考えて、先ほどから隣に座っているがずっと黙っていた爺ちゃんに俺の疑問を投げかけた
「......ホントじゃ。たしかにこあの人形はユウ坊を見ておる......加えて体も動く」
「えっ? 目だけじゃなくて体も動くの!?」
爺ちゃんはいつも見せる柔和な表情ではなく、見たことないくらい真剣に顔付きになると俺にそうカミングアウトしてきて、その内容に俺は驚いてしまった。
今の俺なら、なんで動くの!? それって人形じゃなくてペッパー君みたなものじゃん! と思ったものだが、この頃の俺からすればただの恐怖対象の恐怖レベルが上がっただけだ。
そんな俺の気持ちを読んだのか、爺ちゃんはいつもの優しい顔になると、
「気にせんでもえい。この人形は悪い人形ではないからな」
悪い人形ではないかもしれないが、子供にとってはただの怖い人形だからね爺ちゃん。
「それじゃあの人形はいい人形なの?」
問題はそれだなんだよ、いい人形だからといってすべてにおいていいとは限らないのだ。
その人形の恩恵は、爺ちゃん達と俺とではその受け取り方の価値観があるからな。
「あぁいい人形だよ。ユウ坊はその前に寝るから分からないが、あの人形は深夜になるといつも何か悪いものがいないかどうか家の中を歩き回っているんだよ」
俺はその光景を脳内で再生する間もなく、それ以来俺は爺ちゃん達の家に自主的に泊りに行くことはなかった......のだが正月とかなんかで帰郷する時は、泊りがけになるのでその時は仕方なく滞在することもあった。
これは中二の正月の時の話だ。
正月という理由で爺ちゃん達の家に親戚達が集まれるだけ集まり、その日は宴会のようなものを行ったことになった。
そんな宴会の最中、俺は少し酒を飲んでいる爺ちゃんに近づいてあのことを訊いてみたのだ。
「ねえ爺ちゃん。あの人形ってまだ動いているの?」
「ん? あぁここ数年は歩き回っているのは見とらんな。大方悪いものの気配とかがせんからだろうな」
それを聞いて俺は安心して夜を明かせると思っていたのだが、事件は皆が寝静まった真夜中に起きてしまった。
深夜突然トイレに行きたくなるという、怖い話ではテンプレのような現象が起きてしまい、流石にこの年でおもらしはありえないので俺はそのまま部屋を抜け出し、トイレに向かうためにリビングの前を通りかけた時にあることに気が付いたのだ。
......イナイ......オニンジョサンガイナイ......リビングニイタハズナノニ......モシカシテタビニデタノカナァ~?
俺はダッシュ! セリヌンティウスを助けるために! ではなく俺の名誉を失わないためにだ。すでに崩壊寸前のダムをなんとか抑えながら目的地に向かって駆け足で向かい、なんとか崩壊は免れ無事目的は果たしたので帰還しようとした時だ。
「トン、トン、トン......」
後ろの曲がり角から誰かの歩き音が聞こえたのだ。
当初は、なんだよいとこ達かよと思っていたのだが、それにしては息遣いや声が聞こえず、そしてなにより足音が小さい。
それはまるで小さな子供が歩いているようなほどの音だったからだ。
すぐに逃げようとしたが、その時俺は人生初の金縛りに遭い、まったく動くことができなくなってしまったのだ。
そして曲がり角からそれが姿を見せた時、俺は意識をここではないどこか遠いところにトリップさせるはめになったのだ。
次の日爺ちゃんが俺の亡骸を発見して何があったか訊いてきたので俺は、
「まだ、お人形さん、散歩してた......よ」
その時曲がり角からリビングにある棚の一番上でこちらを見て微笑んでいる、あの日本人形が見えた直後、まだ親戚がまだ寝ているが俺の絶叫が響き渡るのであった......。
「ぽぎゃぁぁぁぁぁぁ!!」
そんな日本人形とは比べ物にならないほどの大きさと異様さを兼ね備えているあの日本人形は、俺達に気が付いていないのかそのまま左の通路に音色と共に消えていった。
俺はアスナの口から手を離した瞬間、
「ヤバイですよ! あんなの絶対追いかけられたくありません!」
ダンジョンでレイスを見た時の表情以上の顔をしながら俺にそう訴えかけてくる。
「ホントそれな......」
俺はかなりげんなりした顔でそう答えた。
どうやら俺とアスナは満場一致で日本人形が嫌いなようだある。
「とりあえずはあれは左の通路に行っているから、今のうちに右から攻めようぜ。二階はその後だ」
「わ、分かりました」
アスナは涙目だったが俺も泣きたいぐらい怖いわ。
逆にあんなものが好きな奴とかいんのかよ、いるなら俺みたいな悲劇に遭ってから好きって言いやがれ。
そんなことを考えながら一階の右の通路のドアを一室一室開けながら探索することにした。部屋の間取りとしては、ベットもねえ! 風呂もねえ! そもそもここってどこなんだ! そんな感じだ。それにしてもこの館の廊下は木製なんだろうな、時々歩いている場所以外からも音が聞こえてくるたびに後ろを見てしまう。
音がなったら後ろ向き、ならなかったら前を向く、そんな風に探索しているとある部屋の机の引き出しの中から二つのアイテムが出現する。
「ん? これは何かのカギと真っ白い紙だな」
鍵はゲームで出てきそうな形状をしており、紙については習字紙と同じぐらい大きさと思って差し支えない。
「カギは分かりますけど、紙は何に使うんですかね?」
「まあそのうちアイテムが揃えば分かってくるだろ」
再度探索を開始して歩き回ってうちに俺は、あるだろなあ~と想定していたあれを発見する。
「......やはりあったか」
「え? タンスのどこに思い入れがあるんですか?」
俺がタンスを見て突然感慨深い表情で頷き始めたので、その様子を見ていたアスナは不思議そうな顔でそう訊いてきたので、俺はこれについて彼女にしっかり注意しようと思ったのだ......彼のような悲惨な運命を向かえないように。
「これはな、『たけしボックス』と呼ばれるものなんだよ」
ただし正式名称ではない、ある一定層の者達からそう揶揄されているだけだからな。
「もし、さっきの奴に追いかけられてここに逃げ込むときは、奴が部屋に入る前にこのたけしボックスにはいるんだぞ。さもないと......」
「な、なんですか? さもないと」
俺がその先を話さずにジッとアスナの顔を見ていたのでアスナが怯えながら訊いてくる。
だから俺はここではないどこか遠いところに旅立った彼のことを思い出しながら、
「たけしと同じ運命を辿ってしまうんだ......」
「......そのたけしさんとは何者ですか?」
アスナは訝しそうな表情をしながら尋ねる。
主人公の友達だった奴だよ、ボックスの中じゃいつもマルフォイみたくガクガク震えていたがな。
それに他にも友達はいたが、みんなブルーベリーとフュージョン! してベクウになっちまったんだよ......あっ、あれ失敗じゃねえわ。ブルーベリーの方が癖が強いからか。
てかこの世界に来てマルフォイ出てき過ぎだろマジで。原作も映画も終わったのにまだマルフォイだけ生き残ってるんじゃないのか? 逆にマルフォイがトレンディーなのかもしれないな。つまり時代の申し子はマルフォイ! をネタにしている俺になるのだろう。
「気にすんな、ただのゲームの話さ」
禿げていないバージョンのトレンディーエンジェル竜胆さんになってしまった俺は、かっこよくそう一言言うと再度探索に向かうのだった。




