計画
城のある一室。
私、フユジマ ユキは今現在、お姫様であり友達のアリシアと彼女の自室である計画を立てている。
「それでどうするの、アリシア?」
「やはり私自身が父を説得するしかありませんが......」
彼女は眉間に皺を寄せて厳しい表情を作る。
「もしそれでもだめならその時は強行突破するしかありません」
「......つまり脱走ということね」
会話の流れから分かるように、先日アリシアと約束した、この世界について自分自身で知るために私は旅に出ることにしたのだが......。
「私一人ではさすがにキツイわね」
これが問題となって、うまく計画がまとまらないのだ。
私の天職は聖女。
これは非戦闘系の天職であり、戦闘系の天職が組み合わさることによって初めてその真価を発揮するからだ。
そして問題となっていることが......。
「それで誰か信用のできる人はいますか? 戦闘系の勇者様の中で」
アリシアの言う通り、私は今この旅のことをクラスメイト達に話しておらず、言ってみれば旅をする仲間がいないのだ。
私は一度深く考え込むことにした。
初めに思い浮かんだのは親友である由衣だったが、彼女にはカミタニ君のストッパーの役割があるから頼めない。
次に浮かんだのは男子で一番仲の良かったマサト君だったが、彼は魔族に復讐を誓っているのでやはりだめだ。
最後に思い浮かんでしまったのは一番付いて来てくれる可能性が高くて、一番信用できない須藤君だ。
彼はあの事件以降よく訓練に誘っていたのだが、ここ最近はあまり誘ってこないので安心している。
もちろん彼は論外だ。
「ん~信用できる人はいるんだけど、その人達にもやることがあるから頼めないかな」
「そうですか......なら仕方ないですね。その問題は私がどうにか解決しときますね」
私の結論に彼女は少し残念そうにしたが、すぐに明るい表情に戻った。
「ごめんなさい、任せっきりにしてしまって......」
彼女には王族として仕事もあるだろうし、あまり任せっきりにしたくはないのだが......こればっかりは安全上の問題が起きる可能性があるので安易に決めることができない。
私は彼女の身分を考えて真摯に謝った。
だがアリシアは気にしていないかのようにゆっくりと首を振る。
「気にしないでください。私達は友達になのですから」
「......うん、ありがとう」
私はそんなありふれた言葉に涙を覚えつい流しそうになったのだが、突然外の方が騒がしくなってきたの気が付く。
「どうしたのでしょうか?」
私はアリシアに気づかれぬよう急いで目の辺りを裾で擦る。
「とりあえずここにいても仕方ないから、一度外に行ってみましょう」
そう言って私達は外に出ることにしたのだ。
城の外に出て、先ほどの騒ぎ声を出していると思われる兵士の人に訊くことにした。
「あの何か起こったのでしょうか?」
私の存在に気が付いたが、勇者だと判断できないほどの焦っているのか口調を気にしない様子で口を開く。
「起こったどころの騒ぎじゃない!」
そして私の想定を上回ることを口にする。
「今まで攻略されなかったダンジョンである神の箱庭が攻略されたという報告が入ったんだ!」
あの後急遽私達勇者は、王様に呼ばれることになった。
「本当なんですか王様!? あのダンジョンが攻略されたという話は!」
自分の耳を疑うかのような表情で王様に質問しているのは元委員長のカミタニ君だ。
「王様に向かった失礼だぞ貴様!」
護衛に付いていた兵士がカミタニ君の言動を注意した。
「別に構わん。彼らの気持ちも分からんではないからな」
そう王様に言われてその兵士は渋々引き下がる。
「それでさっきの話だが......本当だ。たしかにダンジョンは攻略された」
「なぜ攻略されたと分かったのですか?」
それは私も思った疑問だ。
攻略したのであればその攻略者がダンジョンのあるこの国の王様に挨拶くらいは来ると思うのだが。
「詳しくは言えないんが、ダンジョンは大きな魔石という言わば魔力の塊のおかげでダンジョン自身が生きいると言われている」
なるほど......ということは。
「その魔石の消失が確認された......つまりダンジョンが攻略されたということだ」
それならば。
「誰が攻略したのですか!?」
この場にいる人全員の疑問をカミタニ君が口にする。
しかしその質問に王様は目を閉じて考える。
「......それが分からないのだ」
「どういうことですか?」
「以前ダンジョンを攻略した者達がいたのだが......その者達が言うには、ダンジョン攻略後はランダムでこの大陸のどこかに飛ばされるそうだ」
なるほど、だから攻略者の姿が見えないのか。
「我々には、その者またはその者達が進言しなければ分からないのだ」
つまり自己申告しない限りその攻略者がどこの誰かというのは分からないわけだ。
これを聞いた私は心の奥に嬉しさを感じながら隣にいたマサト君にあることを訊こうと思った。
「ねえマサト君、もしかしてーー」
「ユウトじゃないのかってか?」
彼私の言葉を引き継ぎ、面倒くさそうに口にする。
「う、うん......」
「いいかフユジマ、仮に、もし仮にだ、ユウトが生きていたとしよう。その場合......」
次に私の目を見ながら言った。
「お前は、何をしたいんだ?」
彼のセリフに私は首を掴まれたような気持ちになる。
「そ、それは、ユウ君にあやーー」
「お前さ、よく考えてみろよ」
マサト君がまるで子供に教えてるかのように私を諭し始める。
「あいつはお前達のチームに裏切られたんだぜ。まあお前らの意思ではなかったが」
「なら」
「でもあいつはそれを知らない......それに知ったとしても許さないだろうなあ」
なんで分かるの? そう言うおうしたがその前に彼がその理由を口にする。
「それはお前が、被害者の気持ちになっていないからだ」
「......どういうこと?」
「いいかよく考えてみろ。お前も以前いじめられていた時、加害者のことどう思っていた?」
「どうってそれは......」
私は小学校の頃のことを思い出した......当時の私が彼らに思っていたこと、それは......。
「恨んでいただろ、そいつらのこと。それと一緒さ」
それが真実だから何も言い返せない、そんな私を見てマサト君はどこか遠くを見るかのようにして、
「あいつも恨んだろうさ......なんで俺なんだってな」
たしかにそうだった......なんで私だけなんだろうって。その時は自分のせいでもあったが、今回の場合は......。
「まあそれは仮定の話であって、本当の話ではない」
そして煮えたぎったような熱い感情を出しながら、
「だから俺は、あいつを殺した魔族達に復讐する......絶対にだ」
話を終えたと思ったのかマサト君は視線を前に戻した。
私は考えた。
この仮の話が......もし本当の話だったとすれば、私はどうすればよいのかと。
私は糸をたぐるかのようにユウ君との過去の出来事を思い出そうとする。
しかし出てくるのは......ダンジョンでの彼の表情だけだ。
その後の王様達の話は当然私の耳に入ってこなかった。