殲滅対象
ここはある会議室。部屋の中心に長方形の大きな机があり、入り口から等間隔で下座から上座に向かって椅子が五席並んである。そんな席には様々な容貌をしている者達が座っている。
ある者はこの世の者とは思えないほどの美貌を持ち、またある者は人間と何かかの混血である亜人のような者とその容貌はさまざまである。
そのような者達が座っている席よりもさらに奥、つまり入り口よりも遠い席に地球でいうところの神主の恰好をしている老人と思われる者が座っている。つまりこの中でのリーダー的存在であるということは明白であった。
しかしそんな中、一つだけ誰も座っていない席がある。だがその場にいる者全員、誰一人としてそのことに触れない。なぜならそれがいつもの風景のようなものであり、その席に座る者はいつもこの場所には来ないということを知っているからだ。その人物が最後に座ったのはもう数千年程前昔のことであった。だから誰も気にしない......それが当たり前だから。
「どうやら彼らは最後の試練に打ち勝ったようじゃな」
「やはり私の見立て通りのようね」
神主の姿をしている者がその結果に満足するように顔を緩めながらそう言うと、それに追随して美しい女性のような者があたかも自分の手柄のような喜びながら賛同する。
「何言ってんだ......お前彼に加護与えなかったじゃないか」
しかしそんな彼女の言葉を聞きすぐに亜人のような者が訝しむようにして反論するが、彼女はあまり気にしていない様子で、
「まあいいじゃない。結果もっといい加護が貰えたんだから」
「......はぁー、もういい」
それ以上の言っても意味がないと悟った彼は、諦めるかのように溜息をしながら吐き捨てるそう言っていた。しかし、そんな会話に参加していない色白の男性が口を開く。
「......どうでもいいが、彼ら、もう時期ここに来るぞ」
彼に言葉にリーダーである神主の者もそのことに気が付いたのか、その場にいる全員を見回しながら、
「そのようじゃな。では皆、持ち場に着くのじゃ」
彼の一言でその場にいた者達が瞬時に消える......そして後に残されたのは机と五席の椅子だけだった......。
俺は内心驚いている。
上司達とか言ってたけど、最後はもっとゴージャスな部屋で攻略おめでとう! とか言われるかと思ってたけど、テレビで見るようなガチの会議室だ。
加えて上司達もいねえなおい、どういうことだこれは? そう思ってリアムを見ると平然とした様子だ。
これが普通なのか? まあだから燕尾服なんか着てんのか、それってサラリーマンの恰好みたいなもんだからな。
とにかくこのままじゃ埒が明かない、一旦リアムに訊いてみるか。
「なあリアム。部屋はことは気にしないが、肝心の上司達はどこにいるんだ?」
「そうだな......多分そろそろいらっしゃるはずだ」
俺の質問に対して彼は手首を見ながら何かを確認するかのようにしてそう答える。
なんで手首なんて確認するんだ? 腕時計も付いてないし、まさかふりでもしてんのか? まあ竜モードがかっこいいって言ってたし、そう考えると何ら不思議ではないわな。
その間もずっと手首を見てるリアム......その姿を見る俺......爪を確認するアスナ。そんな構造が馴染み始めた頃に突然、リアムが手首から目線を机の方に向けた。
「どうやらいらっしゃったようだ」
その瞬間会議室にあった各椅子に光の粒が集まり、人のような姿を形成していく様子を見ながら俺は、なんかアスナの時と同じ感じに見えるな、といった感想を抱いていた。
そしてそれが終わったのか、机の椅子にさまざまな風貌をしている四人の人物達が座っていた。
彼らを代表するかのようにして神主の恰好をした爺さんが俺達に嬉しそうな顔をしながら、
「ようこそ。攻略者よ、そしてダンジョン攻略おめでとう」
俺は一瞬だけリアムの方を見ると、彼はネクタイを真っ直ぐ綺麗にしていた。どうやら上司達っていうのは、この場に瞬間移動してきた彼らでいいのか。
「では初めに自己紹介から始めよう」
リアムの上司の一人であり、たった今祝福を言ってくれた神主さんが残りの上司達に言い聞かせるようにしてそう言うと、彼らはそれに対して納得するかのように頷いている。
俺もアスナもいきなりの登場だったのであまりそれには反応しないで事の成り行き身を任せることしていた。
初めは神主さんからのようだな。ぱっと見神主のみたいな恰好しているから神主と呼ぶことにしたのだ。てか神主と宮司の区別が分からん。そんなことを呆然としながら眺めていると、その神主さんが驚きの発言をする。
「儂は天神、名はオーブリーじゃ」
ん? 天神? 神社ぁぁぁぁぁl!
次に一言で言うなら女神のような美しい容貌と煌めく金色の髪を持っていますね......その纏っている服は、かなり露出度が高く艶めかしいでっおっと危ないですね......鼻ではなく、アスナさんからの視線がです。そんなことを考えながら俺はあること頭の中で考えていた。しかしそれに気づかないのだろう、その女性がその流れに合わせて自己紹介をする。
「私は女神、名はアリアナよ」
ん? 女神? あっビンゴビンゴ!
それに続くのはまるで人間ではなく、何て言えばいいのか......人間と他の生き物との混血である亜人のように見えるな、ついでに体格もいい。まあ亜人っていってもあの『死ねばわかる』のほうではないからな。そんな亜人の姿をしている男性も同様に自己紹介をする。
「俺は亜神、名はテオだ」
ん? 亜神? おしい! だがなんで同じ読み方をした「人」と「神」をその場で区別することができたのだろうか? 不思議である
そして最後は紫色の髪をしているが、その肌は色白な顔立ちの整っており何とも判断の迷う人物である。そうだなあ~、ワンチャンホストに賭けるぜ! その結果は......?
「俺は邪神、名はオズウェル」
ん? 邪神? アウトッ!
俺は心の中で意味の分からないことを考えながら、彼らの自己紹介を聞き終えると、一度リアムを見てみると彼はかなり緊張しているのか、額に汗をかいている。
どうやら本物の神様達のようだ。
だが俺はしっかりと順序に則って行動するタイプの人間である、なのでちゃんと本人達に確認することを怠らない。
「なあ、あんたらホントに神様なんだよな?」
タメ語で加えて少しガンを飛ばしながらそう言って、なんとなくリアムを見ると汗が冷汗に変わっているが、残念ながら俺には汗と冷汗の区別は付かない。それによく見ると若干顔が青くなっているような気がするな。
「うむ、その通りじゃ」
しかしそんなリアムの様子に気が付いていない天神は大きく頷いて自分達は神であること認めてくれたのだ。
よし! 本人確認完了! 後は......。
「あんたらが......」
「ん? なんじゃ?」
俺の声が聞こえないのかこちらに耳を傾けてくる。どうやらご老人の耳には俺の声が聞こえにくいようだな、そう思って俺は聞きやすいようにその耳の向かって大音量で言ってあげることにした。
「あんたらが!!」
「うおっ! なんじゃいきなり大声出して!?」
彼は大音量の声に天神だけでなくその場にいた者全員驚いていたが、それを無視し俺は声高らかに言ってやったのだ。
「あんたらがイケメンなんてもん作ったから俺みたいな奴が被害を被る格差社会になったこと! どう落とし前つけんだ!?」
俺を除くその場にいた全員が口を開けていた。
その光景はまるで家にあるカエルの口をしたごみ箱ようで、つい紙くずを入れたくなる衝動に駆られてしまうな。
だがすぐに天神が復活したのか俺を制しさせるかのように手を突き出しながら、
「ちょっと待ってくれ! 何を言っているか意味が分からんのじゃが!?」
......この野郎まだ言うか。ホント無自覚ってのは怖いものだな。
「とぼけるんじゃねえ! お前達のせいで外見至上主義社会が生まれたんだぞ!」
漫画見たことないのか? まあ俺もあそこまで酷くはないし、加えて体チェンジはできんがな。
するとようやく俺の訴えを理解したか天神が頷ている。
「なるほど、君の言いたいことは理解した」
だから俺は、「あの世で俺にわび続けろオーブリーーーーッ!!!」とあの名言を吐こうとする前に、それを否定するかのようにオーブリがゆっくりと首を縦ではなく横に振ったのだ。
「しかし、それは儂らのせいではないぞ」
「なんで言い切れるんだ!?」
そのことが100%自分達のせいではないと確信するかのように言ったので俺は問い詰めるようにしていったのだが......俺はこの時あることを思い出していたのだ。そういえばここに来る前、なんか建築していたような気がする。しかしそれに気づく前にオーブリーその根拠を言おうと口を開いたが、
「それはーー」
「ユウト様、あなたは学校の保健の授業で習わなかったのですか?」
その前にアスナがそれを遮って俺にそう尋ねてきた。失敬な奴だな、俺は案外記憶力がいいんだと自負しているんだ。アスナのその言葉に従って俺は、意識を小学校の頃の純粋な俺に送ってみることにしたのだ。
「なあ悠斗。子供の作り方って知っているか?」
「そんなの当たり前だろ。キスをしたらできるんだよ」
俺の親友である正人がそう尋ねてきたので、純粋だった俺は指を振りながらそう教えてあげる。
当時、母さんに正人同様にそう質問して時、俺に対してそう答えてくれたからだ。
「へ~そうなのか。なら案外簡単に子供って作れるんだな」
正人は俺の答えを聞いて、感心するかのような目をしながらそう言っていた。
それから数日したある日、その日は保健の授業があり、俺達はそれぞれ男子と女子とで別れてその授業を受けた。
「なんで男女別なんだろうな?」
「さぁ何かあるんじゃないのか。知らんけど」
正人の質問にそれについての理由を知らない俺も彼同様首をひねってそう言うしかなかった。
ホントあれってなんで男女別でやるんだろうな。今では俺史の中で学校の七不思議の1つに入ってしまっているんだぞ。
そして授業が始まり俺達は、当時保健の授業担任であった花先生の話を聞いていたのだが、そのほとんどが常識のような話だったので、俺は窓の外を見ながら先日授業で聞いた話を思い出していたのだ。ウォー・ギルト・インフォメーション・プログラムってヤバイよなあ~、日本人洗脳しようとしていたんだからなあ~、つまりこういう授業でもその可能性があるんじゃないのかなあ~、そんなことを考えていると花先生が黒板をあの授業の時に使用する指摘棒で数回ノックする要領で男子全員の注目を集め、それを確認すると彼女があることを話し始めた。
「皆さんいいですか、赤ちゃんはコウノトリが持ってきたりしませんし、キャベツ畑でもありません」
先日正人と話していた話題であることに俺はすぐに気が付き、更にその情報に誤りがあることに気が付くことにも成功した。当時から心優しかった俺はそこで先生に教えてあげようと思い手を挙げる。
「先生。子供の作り方はキスをしたらできると、母さんが言っていました」
俺のそのセリフに先生はまるで微笑ましいものを見るかのような目で俺のことを見つめてきたのだ。普通に美人なので俺は緊張してしまう。そんなシャイボーイだが好奇心旺盛も兼ね備えている俺は彼女にも年齢を訊いたことがある。その時は23歳と言っていた。つまり出来立てほやほやの新米教師である。
そんな若くて綺麗な花先生に見つめられた俺は、訂正の返事を顔を可愛らしく赤く染めて待っていたのだ。この構図だとなんか告白の返事を待っているみたいだな。
その彼女からの返事は......?
「なるほど。悠斗君のお母さんは面白いことを言う人なんですね」
「? どういうことですか?」
否定する訳でもなく肯定する訳でもないようなその返事に俺は思わず訊き返してしまったのだが、それに花先生は答えずにその場にいる全員を見回す。この後俺の人生において初めて知るあることを耳にするのだ。
「いいですか皆さん。今悠斗君が言ったキスをしても赤ちゃんはできません。本当の子供の作り方、それはーー」
それを聞いたせいで、当時まだ純粋だった俺の心は、その日を境に不純になってしまったのだ......。
そこで俺の意識は保健の授業から現在に戻って来た。
そして大きく深呼吸する。どうやらあの時のフラグはこれのようだな、そんな風に悟るのも束の間である。
「どうやら思い出したようですね」
俺はこの時、あることを神にではなく星に願うのだ......。
「あなたが責めるべき相手それは......」
もし願いが叶うのなら......。
「あなたの両親です」
穴があったら入りたいと......。




