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34話 魔王、勇者を倒す

 そうか!

 魔王という魔族の中の魔族がいるから『聖泉』の色が手を入れる前から変わってしまったのだ。


「おや、これでは誰が魔族かわかりませんな。いやあ、困りましたなあ」

 他人事のように言った。

「まあ、道具の不具合というのはよくあるものです」

 本番で機材トラブルがあったことなんて何度もありましたよ……。

「またそちらが解決したら呼んでください。では、我々はこれにて失礼しま――」


「いえ、ちょっとお待ちください」

 声を勇者アシュハルトにさえぎられた。

「ここに『聖泉』を持ってきて色が変わったということは、やはりこの空間の誰かが魔族ということかと思います」

 くそっ! ばれたか!


「あと、まだ水は真っ黒ではありません。これで誰に近づけたら濃くなるかがわかれば――」

 ああ、もう、わかったよ。

 これ、言い逃れできないから、はっきり示そう。

 近づいて、『聖泉』に手を入れた。


 墨汁かというぐらい真っ黒になった。


「や、やはり! 伯爵、お前は魔族か!」


 ばれちゃった以上はしょうがない。


「ザフィーラ、思いきり宣伝しろ!」


「はい、わかりました、魔王様!」


 はっきり魔王と宣言するザフィーラ。


「いいか、人間ども! ここにおわしますのは魔王ルシア様よ! ルシア様は前代の魔王様をはるかに超える力を持つ魔王の中の魔王様なの! 今すぐ跪いて命乞いをしなさい! お前らは絶対に勝てないのよ!」


 その時のザフィーラはすごく輝いていた。

 こういうこと言いたくてしょうがなかったんだろうな。


「そして私は前魔王の第7軍団長の魔女ザフィーラよ! あなたたち人間を滅ぼしてやるわ!」


「あ、いや、滅ぼすとまでは言うな。滅ぼす気はないから」

 一応訂正しておく。

「え、そうなんですか……」

 残念そうな顔をされても困る。


「同じく魔王ルシア様に仕える元第11軍団長だった邪神神官ベルクである!」


 続いてベルクも叫んだ。


「お前たち人間は魔王ルシア様が根絶やしにしてくれようぞ!」


「いいや、根絶やしにはしない。戦争する気はないから」

 また訂正した。

「魔王様、人間どもに慈悲をかけずとも!」

 いや、滅ぼすメリットなんてないし……。


「ウサウサウサ! 元魔王様のペットだったピョンタンウサ!」


 名前のせいでピョンタンは締まらないな……。


「お前たち人間は全員ぶっ殺してやるウサ! 滅ぼしてやるウサ!」


「だから、人間は滅ぼさないんだよ! 俺のこと聞けよ!」


 このチームとしての結束力のなさ!


「どっちなんだ……。人間を滅ぼすつもりなのか、そうでないのか……」

 勇者も混乱していた。

 すまんな。魔族も一枚岩ではないのだ。


「ルシア殿、このような結果になって悲しいぞ」

 唯一面識のあった魔法使いシャンファが言った。

 そうか、こいつならまだ理解してくれるかもしれん。


「なあ、俺はお前を泊めてやっただろ? つまり、人間に害をなしたりする存在じゃないんだ! のんびり生かしてやってくれ! 俺はのんびりしたいだけなんだ!」


「一宿一飯の恩義があるとはいえ、魔王がいれば倒すしかない!」


 まあ、そうなるよな! しょうがないよな!


 あと、向こうのリーダーも明らかにる気だ。


「いいか、みんな! 再び力を合わせて立ち向かおう! 僕たちの力を合わせればあの時みたいにきっと魔王を倒せる!」

「おお!」「やるぜ!」「任せて!」「いざ!」


 勇者アシュハルトが剣を高々と振り上げる。

 それに呼応するパーティーの面々。


 そうか、今こそ最終決戦がはじまるんだな。

 他人事っぽくそう思った。


 いや、他人事じゃないんだけど。

 まあ。

 ぶっちゃけ。


 こっちが勝つからなあ。


 15秒後。


 勇者パーティーは全滅していた。


 あっ、命を奪ってはないぞ。

 そこは空気を読んでいる。


「だって、シャンファが俺の部下のベルクに勝てなかったんだろ。その時点で推して知るべしじゃん……」


 ステータス的に単純にこっちが勝つわ。

 根性論だけでは覆らんところもあるわ。


 当たり前だが、王様は腰を抜かして青ざめていた。

 この場合、決定権あるのは勇者より王様だな。


「あの王様、魔王ではなく伯爵としてお願いがあります。魔王ではなく伯爵として」

 大事なことなので二回言おう。

「な、なんだ……魔王よ……」

 だから伯爵だって言ったじゃん! 魔王としての発言じゃねえよ!

「魔王? 何のことですかな。というか私が魔王だとして、それで伯爵という身分に何か変化が?」

「そ、そうだな、そなたは伯爵だ……」


 やっとわかってもらえた。


「現在、魔族は大変静かに暮らしております。どうか、魔族の存在を認めてやっていただけないでしょうか?」

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