33話 魔王、身バレする
「う~む」
召還命令の書状を前に俺はうなっていた。
「これってさ、行ったら殺される系なのかな?」
呼び出して殺すとか、殺さないにしても投獄するとか、よくあるやつである。
いや、魔王だから殺されることはないけどね。
「そこまでひどいことはないと思いたいですが、なんともわかりませんね」
ベルクも王国の人間じゃないから明確に答えようがない。しょうがない。
「行かなくていいですよ。ルシアさんのほうから出向かずに向こうから来させればいいんです!」
「ザフィーラ、それはさすがに無理筋だ……。俺も立場上は伯爵っていう王の家臣だから……」
「じゃあ、行くしかないってことですか……?」
こうザフィーラに問われて逆にはっきりとわかった。
「だな。行くしかない」
俺も覚悟を決めた。
といっても、今の俺に問題となっているのはだらだらできなくなるかもってことだけだ。
命の危険のほうは魔王である時点でほぼないと言っていい。
できるだけ規模が大きくならないように火消しをしよう。
とはいえ、絶対にバレないと言い切ることもできないから――
「ザフィーラとベルクは俺についてきてくれ。あと、ピョンタンも暇だったら来い」
一応、メンバーは揃えておこう。
その間の管理は獣人たちに任せておこう。
元侯国だった土地との折衝もそちらに任せておけばいい。
レヴィテーションでアクラウス王国の王都アクラウスに向かった。
事前に到着日程は伝えているのでスムーズに王と会うことができた。家臣もまとめて連れていくことも了承を得た。離ればなれだと何かあった時、面倒だ。
そういえば、これが初顔合わせだ。
王は見た目20代のかなり若い人間だった。
見た感じ、暗愚って感じはしない。
まあ、暗愚じゃないことといい人ってことはイコールじゃないけどな。たとえば、独裁者って悪い法に知恵がまわる人間だと思うし。
「伯爵よ、遠路はるばるよく来てくれた。まずはそのことに礼を言う」
「いえ、こちらこそ王とお会いできて光栄です」
ザフィーラが「ルシアさんが下手に出るなんて……」と小声で不満を表明しているが無視。
俺は魔王だからお前と同格だなどとは言えない。
「実は伯爵が魔王なのではないかという噂が立っていてな。おそらく、冒険者の身から一気に成り上がったことへのひがみであると思うのだが」
「そうですね。私としてはむしろ王国の領土を広げるためにサイラッド城の奪還も行ったので、このような噂はとても不本意です」
噂がひがみから出たということ自体は事実と見ていいだろう。
問題は噂の内容まで事実ということだ……。
「私はこれからも伯爵として王家に忠誠を尽くすつもりであります、ご安心ください!」
これは本音なので気楽に言えた。
伯爵としてだらだら暮らすのが至高だ。人間を滅ぼす気もない。
「うむ。ありがたい。なので、一つだけ調べさせてほしい。それですべては済む」
いったい何をする気だ?
「その調査のためにどうしても伯爵に直接来てもらうしかなかったのだ。少しだけお時間をとらせてくれ」
少なくとも有罪前提の茶番劇めいた裁判をさせられるわけじゃない分、マシとしよう。
「では、そなたら、入ってきてくれ!」
いったい誰が来るのだろう。
せいぜい高位の神官か何かだろう。
甘かった。
五人組の若い男女が入ってきた。
おそらく平均年齢20歳ぐらいだろう。
その中に見知った顔があったのだ。
シャンファ。
魔法使いとして勇者のパーティーにいた人間だ。
「まさか、こうしてあなたたちに会うとは思っていなかった――いや、むしろ必然であったのかもしれんな」
シャンファがまず口を開いた。
「神官殿とは一度対戦したが恥ずかしながらまったくかなわなかった。自分で言うのもなんだが、勇者パーティーにいた私が何もできないほどの実力者を含む集まりなら、妙な疑いをかけられるのもやむをえない」
「つまり、そちらの五人組は勇者の――」
「魔王を封印した勇者のアシュハルトです」
長身の男が胸に手を置いて言った。
「伯爵、僕の持つアイテム『聖泉』ですぐに結果は出ます」
たしかに勇者は何か箱のようなものを持っている。
そこには水が浮かべてあった。
「ここに手を入れてくれれば魔の力を持つ者は水が濁ります。そうでなければ、まったく色は変わりません」
なるほど、リトマス試験紙か。
「……ちなみに聞きたいんですが」
「何でしょうか?」
「魔族とわかったらどうするんですか?」
「ここにいるパーティーで討伐します」
くいくい。
ザフィーラが俺の服を引っ張る。
どうするんですか、ということだろう。
いや、これ、どうしようもないんじゃないかな……。
しかし、アクシデントが起こった。
「なっ、どういうことだ!」
勇者アシュハルトが叫んだ。
「誰かが手を入れる前から水が黒くなっている!」




