32話 魔王、隣国を滅ぼす
近隣の町に偵察の者だけ放っておいた。
あと、獣人は念のため、城に入れて守ることにした。
いきなり獣人の集落を攻撃されるおそれもあるからだ。
そして、侯爵の軍が攻めてきたという一報が入った。
ちなみに侯爵も軍隊の中に入っているということだった。
「よし、きた!」
すべてが上手い具合にいっている。
「ルシアさん、ここは暴れさせてください!」
「魔王様、どうかあいつらに邪神神官として死の恐怖を!」
「ウサウサウサ!」
「ドラゴンとしてまったく戦わないのもまずいので、少しやらせてください」
「ええとな、まず、ドラゴンはさすがにモンスター扱いされるのでまずいけど、ほかは大丈夫」
今日ぐらいはいいよな。悪いのは向こうだし。
「徹底的にぶっつぶしてやれ。ただし、命乞いしてる奴までは殺すなよ」
俺も戦場に出ていったが、まあ、これを戦場と呼ぶかは怪しいな。
「全員吹き飛べ! ヘルファイア!」
いつも以上に威力のデカい炎が侯爵軍を焼き払う。
それだけでもう空気は変わっていた。
前進していた部隊がいきなりほぼ全滅したのだ。何かがおかしいということに気づきだす。
「ま、魔法使いはこちらの軍におらんのか! あの魔法を防げ!」
遠くで怒鳴っているのは隊長か何かだろうか。
はっきり言って、ザコの魔法使いぐらいで防げるほど、ザフィーラは弱くない。
「全然怖くないわよ! ヘルファイア!」
ザフィーラは対応しようとした魔法使いごと吹き飛ばした。
隊長は馬を引くかどうか迷ったようだったが――
「死と踊るがいい! エディクト・オブ・デス!」
ピンポイントでベルクの魔法で絶命した。
前にいた部分が全滅したから、もうこれでこっちの勝ちだと思うが、別にこれは防衛する戦争じゃない。
侵略戦なのだ。
「よーし、ピョンタン、掃討していくぞ! 追いかけろ!」
「わかったウサ!」
ピョンタンの身体能力は並みの馬より速い。
すぐに馬に追いついて――
「転ぶウサ」
足をとって、片っ端から転倒させていく。
次々に倒れていく馬。
前のほうの連中もパニックになっていく。
「我々は侯爵によって無慈悲な侵略を受けた! この代償は必ず支払ってもらう!」
わざとらしく俺も叫ぶ。
とはいえ、多分誰も聞いてないだろうけどな。
途中、休憩したりもしながら俺たちは侯爵領に進む。
連中は領内の砦に入っていた。
どうにか籠城して持ちこたえようとしているわけか。
小さな丘の上に建物がいくつか建っている。
「じゃあ、ここは俺がやるか」
レヴィテーションで飛び上がって――
「はい、ヘルファイア」
上空から焼き尽くす。
「これで砦は落ちたな。厳密には焼け落ちたんだけど」
「ルシアさん、さすがです! 惚れ惚れするような炎です!」
「まあ、魔王だからな」
同じ要領で砦を焼き払っていって、そのままトラフ侯国の都まで行った。
家臣が青ざめた顔でやってきて、講和を結びたいと言ってきた。
「降伏の間違いだろ。侯爵の領土はすべていただく。嫌だったら戦争してくれてけっこう。このまま焼き尽くしてやってもいいぞ」
「あなた方はまるで魔王のようだ……」と家臣に言われた。
「いや、まあ、そう思われるのも当然かもしれんな……」
魔王だからね。
結局、侯爵は退位して、トラフ侯国は俺の北部辺境伯領に併合された。
領土だけだと30倍ぐらいに広がった。
というかもともと城の近くの土地ぐらいしかなかったからな。
国の王様には先に敵が攻めこんできたので報復でこれを滅ぼした旨のことを事細かに説明した。
まあ、周縁部の話だからどうでもいいのか了承したという書状が来た。
そこまでは何の問題もなかった。
これで税金もちゃんと入ってくるし、だらだらしてもやっていけるはずだ。
侯爵領のほうはもともとそちらの家臣だった連中に政治を任せればいい。
しかし、一つだけ問題があった。
侯国の攻め方がえげつなさすぎた。
「あの、よくない噂が出回っているようです……」
侯国を滅ぼして一か月後、城でだらだらしているところにベルクが入ってきた。
「いったい、何だ? 魔王ってことがばれたか?」
「…………ぶっちゃけ、それに近いことです」
「え! どこでばれた!」
まさかスパイみたいなのでも城に入りこんでたか?
「侯国の砦を次々に炎で滅ぼしましたよね。あれは過去にヒエナの村を焼き尽くした魔王と同一犯だという噂が立っています……」
「だから、ヒエナの村は村民の火の不始末なんだって!」
とはいえ、今回の件を魔王がやったという話は事実だ。
「まあ、たんなる噂だろう。そんなにあっさりとはばれんさ」
その時は気楽に考えていた。
だが噂はどんどん広がったらしく――
王都への召還命令が来た。




