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30話 魔王、Sランク冒険者および伯爵になる

 獣人の移住は無事に行われた。

 まだ以前に住んでいたところにいてから、そう時間も経ってないので、移住に抵抗を感じる者もいなかったようだ。


 建物も材料などを運んで持ってきて組み立てれば、そう大変じゃない。

 ここを支配していたのがドラゴンのガーゼルだっただけあって、ドラゴンとかドレイクとか空を飛べる奴がけっこう多いのだ。

 そういう連中に資材の運搬をお願いしている。


 猫耳獣人の村長からは魔王様に永遠の忠誠を誓いますと言われた。

 まあ、俺だけじゃなく、ピョンタンも讃えてやってくれ。

 すべてはピョンタンがみんなを助けたところからはじまったのだ。


 さて、そんな感じで住民も生まれて。城から一番近いマヌートの町への道もちゃんと整備していった。

 道がなければ獣人が買い物にもいけないからな。


 獣人差別があるかもしれないが、町の北が平和になったというプラスの面のほうが大きいから、まだ大丈夫だろう。

 本来ずっと手付かずのままを開拓して住んでるわけだし、誰かの権益を奪ったなんてことにはなってない。


 そして、仕事が一段落したなと思っているところに、アクラウス王からの使者が城にやってきた。


「王からの使者がお越しです」

 と、家臣役をやっているキツネ耳の獣人が連絡してきてくれた。

 なお、家臣団と呼べるようなものがないので、獣人にお願いしている。

 ドラゴンが部下ですというのはちょっとまずいからな。


 家臣役に応接用の部屋に案内させる。


 使者も城ががらんとしたからなのか、ちょっと面食らっているようだった。

「冒険者殿が手に入れた城というのは本当なのですな。働いている者もほとんどいない……」

「そうですな。王侯貴族になろうと思って手に入れたわけではないので、このほうが落ち着きますが」


 こほん、と横で同席しているザフィーラが空咳をした。

「妻としては王侯のようになってほしいんですがね」

 王侯というが魔王だろ。


「それで、そのことなんですが」

 使者が何か紙を出してくる。

「まず、こちらを。ルシア殿、それと奥方のザフィーラ殿、二人をSランク冒険者であることを示すものです。この城の奪還が評価されました」

「あ、そうか、ありがとうございます」

「あら、あなた、よかったですね」


「なんか、反応薄いですね……」

「冒険者の頂点を目指していたわけではないので」

「それで、Sランク冒険者はアクラウス王国の貴族階級と認めるという通例があります。お二人も今から貴族です」


「へえ、貴族なのか」

「あなた、よかったですね」

「あの、光栄なことなのに、そんなに感動薄いですか……?」

 別に貴族になって得することもないしな。

 お金が大量にもらえるならうれしいけど。

 城を維持するうえでの費用もばかにならんだろうし。


「あと、貴族といってもどのランクなんですか?」

「よくぞ、聞いてくれました」

 なぜか使者のテンションが上がる。


「王国では、上から順に公爵・侯爵・伯爵・子爵・男爵の5階級で貴族を決めております」

「なるほど」

「それで、これが叙任の証明書です」

 使者がほかの紙を出してきた。


 そこには「北部辺境伯に任ずる」と書いてある。


「あなたは本日から北部辺境伯です! おめでとうございます! このサイラッド城近辺の支配を正式に国王から認められたということです!」

「おお、なかなか偉くなったんだな」

「あなた、伯爵様ですね」

「もうちょっと喜びましょうよ!」

 ツッコミが入った。

 マジで興味ないんだよな。ザフィーラも王国の権威なんてありがたがるわけもないし。


「あと、ルシア殿、あなたの姓は何でしょうか? 伯爵で姓がないままというのも困るのですが……」

 そういえば、ずっと決めてなかった。

 庶民階級だとそういうの気にせずに生きてたりするのが普通だからな。

「ザフィーラ、お前、姓ってある?」

「ないので、あなたが決めてください」


 そうだな、俺はバンドのヴォーカルだったし……。

「じゃあ、バンド・ルシアと名のることにする」

「では、今からここはバンド北部辺境伯の土地ですね。素晴らしいわ」


 今度はザフィーラのテンションがちょっと上がった。

「もし、あなたが魔王を名のった時なんかも箔がつきそうです」

「ははは、ザフィーラ、そんな冗談は不謹慎だぞ」

 ザフィーラの言葉が怖いので、適当に流した。


 しかし――

 伯爵になったが、何をやればいいのかわからない。

「というわけで、ベルク、お前は詳しそうだから教えてくれ」

 この世界の知識全般に詳しそうだ。


「貴族は領主ですからこの土地を治めていただきます」

「でも、Sランク冒険者って騎士みたいなものなんだろ」

「騎士も領主たりえます。自分の土地を離れている場合は代官を派遣したりしますね」


「ふうん、城の財政ってどうなってるんだろ……」

「まず、税金を獣人たち国民から徴収しましょう。ほかに働いている人間がいないのが、この土地の問題ですね……」

 たしかにお金が入ってこないと破産してしまう。


「人口を増やすか、ほかの土地を手に入れるかしないとやっていけませんね……どうしましょうか……」

「たしかに形だけは伯爵だけど、治める民がほぼいない!」


「ほかの領主の土地を攻めて手にしてはどうでしょうか。魔族の攻撃がないということで人間の領主同士で戦争をよくやってるそうですよ」

「そうらしいな。まあ、この王国は王はいるけど連邦国家みたいなものだし」

 各領主の独立性が強いので、国王に害がない範囲なら領主同士の戦争も認められているのだ。


 と、そんなところに一通の書状が来た。


 隣国に当たるトラフ侯国というところからだった。


 内容は伯爵と一度お会いしたいので、是非いらっしゃってくださいというものだった。


 なんでだろう。

 すごく嫌な予感がするぞ……。

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