29話 魔王、浮気をしかける
獣人たちは現在、共同生活を行っているはずだが、再び山賊に襲われたりして、人買いに商品にされるということも絶対にないとは言えない。
なので、早いうちにもっと安全なところに移り住まわせたいという意識はあった。
城の近くなら俺の目が光る範囲だし、獣人にとってもはるかに安全だとは思う。
「もちろん、今住んでいる場所のほうがいいって言われたら、それは尊重しようと思うんだけどさ。ピョンタン的にはどうだろ」
獣人が来ないとしても荒地の開拓はどのみち必要なので問題はない。
「みんな、喜ぶと思うウサ! きっと心からご主人様にお仕えするはずウサ」
ピョンタンが何度も俺に抱きついてきた。
ていうか、顔にキスまでしてきた。
「愛してるウサ!」
「待て、待て! キスまではいいって!」
まあ、キスが軽い人ってたまにいるけど、それはちょっとまずい!
俺は周囲にザフィーラがいないか確認した。
今、あっちは城の模様替えなどを行っているのでいないはずだ。
ピョンタンの趣味でお城全体をピンク色にされたりしたら困るということで、自分で内装を管理していくらしい。
よかった、セーフ……。
「ピョンタンはご主人様の奴隷ウサ。これぐらい、当たり前のことウサ」
「お前はよくてもダメな奴もいるんだ……。ザフィーラにばれたらややこしいことになる……」
おそらくだけど、ザフィーラは俺を攻撃するんじゃなくて、ピョンタンを狙うだろう。
「もっと、ややこしくなってもいいウサよ?」
どこか妖艶な声でピョンタンが言った。
そういえば、その顔もどこか妖しい雰囲気がある。
「ピョンタンはご主人様になら何をされてもかまわないウサよ。もともとピョンタンは奴隷だったんウサ」
ああ、今までずっと気づいてなかったんだな。
ピョンタンがペットの扱いで長らく生きてきたので意識してなかったが、ピョンタン自身はペットでも何でもなく普通の女の子なんだ。
だから、こんな誘惑めいたことを言う可能性があってもおかしくはない。
「ご主人様は城が手に入って、いよいよ本当に王様になるウサ。王様が妾の一人も持たないほうがおかしいウサ」
論理は間違ってはいない。
王には何人も妻がいて当然だ。
それに――
あらためて見ると、ピョンタンの体つきは実に女らしいのだ。
とくに胸なんて握るためにあるんじゃないかと思えるほどに大きいのが二つ揺れている。
ザフィーラはどちらかというと、幼児体型だったからな。
全然らぶらぶではあるけれど。
「それにピョンタン、恩をこんな形でしか返せないウサ……」
少し切ないようなピョンタンの声。
「自分も獣人も救われたのはご主人様のおかげウサ。でも、ピョンタンができることなんてほとんどないウサ……」
ぽん。
ピョンタンの頭に手を置く。
「考えすぎだ。お前が楽しく生きることだけを考えろ」
だいたい獣人を助けようと行動してたのはピョンタンが先だ。
「ありがとうウサ……」
今度は妙にしんみりするピョンタン。
今日はピョンタンのいろんな表情が見えるな。
「それで浮気はするウサ?」
「え、ええと…………」
ずばり聞かれてしまった。
「ここならザフィーラもわからないウサ」
ピョンタン、すべて確信犯だな。
い、いいかな……。
一回ぐらい浮気しても……。
ザフィーラへの愛は変わらないわけだし……愛が減るもんじゃないし……。
と、何かがすごい勢いで森に飛んできた。
――ズゴゴゴッ!
それは近くの地面をえぐるようにしてようやく止まった。
ていうか、何? 何か攻撃でもされた?
穴が空いたようになった地面から出てきたのはザフィーラだった。
地面をえぐったので、ちょっと土で汚れている。
「すいません、何かすごく不吉なことが起こる気がしたので、ルシアさんを探しました……」
女の勘ってすげー!
「な、なんでもないウサよー?」
「ピョンタンには聞いてないわよ」
「本当に何もない……からな……?」
やっぱり浮気なんてダメだなと思った。
あと、俺じゃなくて浮気相手の命が奪われかねん。
むしろザフィーラは殺しにいくだろう、ほぼ確実に。
浮気、ダメ絶対(ドラッグ、ダメ絶対的なノリで)。
一回だけなら……。その心が(浮気相手の)命を奪います。
その日から城のほうで住んでみることになったのだが――
「ザフィーラ、今晩はお前がほしい……」
「あぁ、ルシアさんの変わらぬ愛がうれしいです……」
罪悪感もあって、いつも以上にザフィーラをかわいがることにした。




