ステータス測定
明朝。
エルフ中枢演算塔・外縁計測区画。
都市最奥ではない。
だが十分に異質な場所だった。
白い樹木を模した建築の内部。
壁も床も境界が曖昧。
光が流れている。
固定されていない空間。
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猫族が小さく呟く。
「きらい……ここ」
「落ち着かないね」
葵も同意する。
視界に基準点が少ない。
距離感が狂う。
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ジーナが淡々と報告。
「空間設計は認知干渉試験用」
「やっぱそういう施設か……」
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中央区画。
円形の透明床。
周囲に上位エルフ数名。
誰も歓迎しない。
誰も敵意も見せない。
純粋な観測者の視線。
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ひとりが告げる。
「計測を開始する」
前置きなし。
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最初の試験。
単純認知負荷。
光点が空間に浮かぶ。
無数。
規則的。
だが完全ではない。
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「違和を指摘せよ」
葵は一瞬だけ黙る。
考えない。
見る。
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「……三つ」
上位エルフが反応する。
「位置は」
「右奥」
「中央上」
「……あと左手前」
短い間。
光点配置が変化する。
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「正答率100%」
ざわめきなし。
ただ記録。
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リオの試験。
同じ光点。
結果。
「正答率100%」
当然。
エルフだから。
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猫族。
「正答率27%」
気にしない。
役割が違う。
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次の試験。
干渉反応。
床の光流が変化する。
重力感覚がわずかに揺れる。
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通常種族は補正できる。
自分の魔法で。
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葵は一歩よろめいた。
補正魔法がない。
だが転倒しない。
無意識に壁を見る。
足を置く。
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ジーナが静かに言う。
「姿勢制御補助を確認」
上位エルフ。
「外部補助か?」
「違います」
ジーナは即答。
「自律適応反応です」
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試験継続。
今度は集団相互作用。
ここが核心。
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葵・リオ・セラ・猫族。
四者同時配置。
空間条件が連続変化する。
光流。
音反射。
距離歪曲。
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通常、同期は崩れる。
各種族の最適化構造が干渉する。
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だが。
崩れない。
妙な安定。
揺れながら維持される。
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記録官が低く言う。
「……再計測」
条件強化。
さらに歪める。
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それでも。
大崩壊なし。
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ジーナが静かに告げる。
「総合干渉値を算出」
空間に初めて数値が浮かぶ。
極めて簡素。
ただの観測結果。
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リオ。
干渉値:10.0
予測通り。
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セラ。
干渉値:10.0
当然。
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猫族。
干渉値:10.0
役割最適。
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葵。
わずかな遅延。
演算再試行。
三度。
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表示。
干渉値:19.2
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空気が初めて揺れる。
極めて小さく。
だが明確に。
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上位エルフのひとり。
「……異常」
別の者。
「単体出力値は?」
再計測。
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単体戦闘値:2.8
沈黙。
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矛盾。
19.2という総合値。
だが個体戦闘性能は低水準。
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ジーナが淡々と補足する。
「葵の数値は単純加算ではありません」
「説明せよ」
「未分化干渉構造を確認」
エルフたちが一斉に静止する。
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「特化領域なし」
「全領域へ低強度接続」
「周辺個体の演算安定率へ影響」
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短く要約される。
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「この個体は」
わずかな間。
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「場を変質させている」
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葵はぽつりと言う。
「……高いの?」
誰も即答しない。
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やがて記録官が告げた。
「規格外」
感情のない言葉。
だが意味は重い。
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試験終了。
光が消える。
空間が静まる。
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ジーナが静かに呟く。
「計測完了」
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葵はまだ実感がない。
ただ一言。
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「なんか、嫌な数字だな」
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エルフ側はすでに理解していた。
この数値が意味するものを。




