湖の黒煙
「爛助かったよ」
謝砂は安堵してふぅと息を吐くと体の力が抜けた。
「間に合ってよかった」
爛は謝砂がへたり込むまえに腕を掴んで支えた。
爛は謝砂の腕を掴んで湖の淵へと移動する。
「妖龍は湖の中に戻ったのか?」
謝砂は爛に確かめた。
「身を潜めてるだけだ」
剣は持ち主の元に戻ってきて鞘のなかにひとりでにおさまる。
爛の指先に血が筋のように残っていた。
謝砂は爛の手をとり手相を調べるようにベタベタと触る。
爛は黙ったままじっとしていた。
「自分の血で術を飛ばしたの?」
「呪符を飛ばすよりも早くて強い」
爛は淡々としてるが自分で血は流せない。
刃物を扱えないが力加減もできない。
「痛くない?」
謝砂は紙で切ったときの地味な痛さを思い出して聞いた。
「こんなのは傷にも入らない。いつものことだ気にするな」
「買った小瓶は持ってる?」
「ある。はい」
爛は薬茶屋で買った袋ごと謝砂に渡した。
謝砂は小瓶を取り出して栓を抜いた。
「これは飲むんじゃないからな」
突っ込まれないように前もって否定する。
謝砂は小瓶の水を爛の指に流して傷口を洗った。
「この湖の水は傷口を悪化させそうだから」
「大丈夫。残りはとっといて」
謝砂はまだ残っている小瓶に栓をさしてしまう。
水面が揺れた。
「地震?」
妖龍が湖に姿を隠すと波打つように振動で地面が揺れた。
「違う。上を見てみろ」
月が差し込む天井を見上げると洞窟が揺れているわけでない。
湖の中で憂さ晴らしをして当たり散らしているようにも思える。
桃常と桃展も祠があった場所からぴょんと飛んできた。
桃展は謝砂に話しかけてくる。
「謝宗主は妖龍に好かれてますね」
「笑えない冗談はやめてくれないか」
「真剣ですよ。爛様は妖龍に嫌われてます。好き嫌いは妖龍にもあるんですね」
(そうだろう。爛がくるなり隠れたんだから)
「柚苑と雪児は?」
謝砂が聞くとすぐに二人も現れた。
手にはまだ呪符を準備して持っている。
「「はい。ここに」」
声を揃えて返事をする。
「君たちも無事ならよかった」
揺れがおさまると湖から漂い黒煙がボコボコと沸いてくる。
煙は湖の底から水面に浮かんで消えると影が人が浮かんできたように見えた。
「人?」
湖から出てきた人は淵にたどりつき這いながら出てくる。
「ぎゃあああああ!」
謝砂は叫びながらぞわっとした恐怖が襲う。
頭のてっぺんからビリビリと痺れる。
ボロボロの衣服に口は開き道中追いかけてきた鬼と同じ姿だった。
目の色は妖龍と同じ色をしている。
不思議なのは湖の中から出てきたのに着ている衣も髪も濡れていないことだ。
(お亡くなりになってるなら悪霊とか怨霊とかにならずに成仏してくれよ)




