祠の妖気
謝砂は石像が動いていないことにほっとした。
「龍でよかったよ」
「なんでだ?」
爛が聞いた。
「龍は人を襲わないだろ」
龍といえば球を集めて願いを叶える存在で神様と同じなはず。
人を食べたり襲ったり怖い存在ではなかったはずだ。
「龍仙や龍神だったら人は襲わないけど……」
「けどなに?」
「妖龍、邪龍なら人を襲う」
龍に襲われたらと考えるのは止めておこう。戦うことはないはずだ。
少しでも想像してしまったら戦う羽目になりそうだと嫌な予感がした。
「聞きたくなかった。聞かなかったことにする。これは石像だろ。動かないならいいじゃないか」
謝砂から言わせると石像と言っても神秘的なものとは思えない。
長くてくねった海辺のカフェに飾られていそうな流木に見えてきた。
目線がやや上で高さはあるが大きくどっしりとしていて動く気配がまったくない。
「勝手に龍だと決めつけるのもどうかと思わないか? 単なる岩だったんだだろ」
謝砂はだんだんと理解できなくなってきた。
石像といえば神社の狛犬じゃないか。
でもそれは最初から石を削った石像として存在している。
「はじめは単なる岩であっても龍だと人々が信じ続けていたら力を持つこともある」
「この石像は隕鉄なのか? 腕輪と一緒の」
「右側の腕は盛り上がった筋があるんだが左はないように見える」
爛は石像を注意深く眺めて観察していた。
謝砂は石像に手を伸ばすが触れる前に手をぺしっと叩かれる。
「触らないで。素手なんて危ないだろ」
謝砂は爛に邪魔扱いされてふんっと拗ねた。
すでに水の中に入ってしまっているし、多少濡れていてもすぐに乾きそうだ。
爛から少し離れて奥を見ていた。
後ろに通り道はなく出入口は入ってきた扉の一つだけ。
横にも人が通れそうな抜け道も見当たらない。
すれ違わなかったのは御剣して外に出たのかと考えていた。
鬼に襲われて逃げてきたとしても祠に助けてくれと願い夜を過ごすだけだ。
昔は参拝する人もいなかったと言っていたから薄暗かったはずだ。
謝砂は自分みたいな旅人が恐怖のあまり心臓発作を起こして死んでしまったんだろうと思った。
「爛様! 奥に行くと底は深そうですが行き止まりです」
桃常が報告した。
石像から奥に進んでちょうど半分ぐらいの距離だ。
桃常と柚苑は腰のあたりまで水に浸かってる。
「何もありません」
柚苑も続いて報告する。
「分かった。展、雪児は祠を調べなさい」
まだ水に足元しか浸かっていない展と雪児は返事をした。
「「はい」」
祠へと桃展と雪児は引き返した。
桃展と雪児は並んでぐるぐると祠を調べるが異変はない。
妖気や邪気も感じられない。
手前にあった祭壇には酒や水が入った器と塩が盛られた小皿に果物がある。
線香を焚く器に鼎も置かれていた。
空の大皿が三枚並んでいた。
備えたものは持ちことになっているのかこざっぱりしている。
「塵家の人はどこにいると思う?」
雪児と桃展は祠にむかって並んで会話をしていた。
「姿が見えないな。入れ違いになったんじゃない」
「僕たち以外にはいないのかな?」
桃展が聞く。
「いるなら姿を見せるはずだよ。隠れる場所もないし」
「石像も動かない。僕たちにお姉さんが教えてくれた噂は嘘だったのか?」
二人で祠に向かって話していたが雪児が祠に顔を近づけて覗き込んだ。
「はっきりと確かめれたらいいのにね」
雪児が話していると濃く黒い煙が祠から出てくるのが展には見えた。
近くに寄りすぎて雪児には見えていない。
展は雪児の腕を掴み祠から数歩後ろに下がった。
「ど、どうしたの?」
「妖気だ」
展に言われて祠を見ると雪児の目にも黒い煙が見えた。
展が剣で切ろうと柄を握り鞘から剣を抜く。
切るよりすばやく黒い煙は避け龍の石像に向かった。




