21話
爛はすぐに謝砂の元に走ってきた.
「怪我は?」
「足を捻った」
爛には勘違いを言わなくて済んだのは柳花のおかけだ。
堂々と足の痛みだけを訴えた。
爛は謝砂から目をそらさずに隣にいた柳花に命じた。
「柳花、腕輪は呪符で包んだが邪気が強い」
「はい」
「隙間から漏れないように呪符の上から包んで鎮めて」
爛は自分の羽織を脱いで手渡した。
「直接触れないように気を付けて」
「分かりました」
柳花は羽織を二つに畳んで腕にかけて持った。
爛は謝砂を担いで持ち上げると屋根の上に飛んだ。
「ぎゃあ! 地面がいい! 降ろして」
悲鳴をあげる謝砂を降ろし屋根の上に座らせた。
爛は向かい合うようにちょっと斜め下に座った。
「下を見るな」
下を見るなと言われて上を見上げたが見慣れない高さで慌てる。
「空が近い。お願い、降ろして」
「何も見るな。下は血が飛び散っているから座れない」
「血も怖いしだからって高いところも怖い」
手が震えて心臓がバクバクと音が大きくなる。
謝砂の足を持ち膝の上に乗せて靴を脱がせた。
足袋をめくると足首は骨がでっぱり部分が擦り剝けている。
足首を持たれると痛みが走った。
「痛いからそっとして。できれば触らないで」
「捻挫でよかった。鞭は避けれたんだな」
「捻挫は初めてなんだ。怪我が怖くて危険なことはしたことなかったのに」
「それはおめでとう」
爛は素直に祝われたが喜ばしくない。
「祝いたくない」
「霊力を使って術を連発したんだから休んでて」
爛は降りようと腰を浮かせた。
「ここに一人で残すな。せめて柳花と呼んでからにして」
置いて行かれると感じて立ち上がる爛の襟をとっさに掴んだ。
「お願いだ」
近づいた顔に同時ぐらいにひゅんと目の前を矢が通り過ぎた。
謝砂は見間違えたのかと思ったが目は矢を追った。
爛と謝砂の顔の隙間を通って後ろから飛んできた矢は勢いを増した。
そのまま庭の中の羅衛の背中に深く突き刺ささる。
「がはっ」
羅衛は咳をするように血を口からも吐く。
一歩で距離を縮めてしかし羅衛は残された腕を上げ柳花に向けて爪で襲おうとする。
3本同時に矢が放たれた矢は別々に刺さった。
羅衛の肩と片方の腕、そして血だまりの中にある切られた羅衛の手。
声がした後ろを振り返り見上げると柳鳳が弓を手に持ち立っていた。
「待ちくたびれました」
視線は謝砂に向けられて爛を掴んでいた手を離した。
手が離れると爛は剣を鞘から抜いて屋根から飛び降りた。
謝砂はとっさに手を伸ばしたが爛を掴めなかった。
「爛!」
爛は空中で剣を握り舞うように羅衛を切りつけた。
地面にふわっと着地するときには羅衛は膝から崩れる。
叫び声もなく水溜まりに落ちるようにバシャッと音を立てて地面に倒れた。
「どうなった?」
倒れる音のあと物音が聞こえなくなった。
気になって屋根の思わず覗きこみ地面を見てしまったせいか、
爛が見せないようにしていた庭の血だまりを見たせいかクラクラとめまいがした。
「世話が焼ける」
ぐらっと重心が傾いた謝砂の襟首を柳鳳がぐっと掴んだおかげで落ちる寸前で引き戻された。
柳鳳は力が抜けて深呼吸を繰り返す謝砂を引きづって屋根に寝そべらせた。
謝砂はそのまま大の字で寝っ転がったまま空を見上げた。
(あっぶな。心臓が止まるかと思った)
「謝砂終わったぞ」
爛から返答が告げられた。
恐怖で張りつめていた糸がやっと緩んでほっと安心した。
辺りは明るくなりかけ星は姿を消し代わりに青い空と薄っすらとした雲が見えた。
月は雲と同じように薄くなり太陽が出ようとしていた。
「長かった」
今までで切実に待ち望んだ夜明けは涙で滲んだ。




