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18話無意識

 謝砂が厨房から出ていくのを爛は背中で見送った。

 羅衛は手から妖気に近い邪念が込められた毒のような黒い煙を放つ。

 謝砂を追いかけて出ていこうとする煙を爛は白く煌めく刃で吹き払う。

 ぶつかり合う衝撃で棚の中身がガシャンと倒れた。

 次々に繰り返される羅衛の黒い煙を爛の剣はすべて払って防いだ。

 黒い煙は厨房のものをすべてひっくり返すように暴れた。

 皿や小鉢が割れる音と剣の音が響く。

 耳を澄ませ謝砂の足音が小さくなり離れたのを確認し爛は羅衛の喉めがけて刃を突きつける。

 とどめを刺す前に羅衛は黒い煙になり窓から外に逃げた。

「しまった」

爛はすぐに謝砂を追いかけた。

謝砂は柳花に気を取られたまま走っていて敷居の段差を忘れていた。

門は跨いで通れと誰も一言教えてくれなかった。

見上げたままで足元を見なかったせいもある。 

 柳花は謝砂の声に気づいて屋根から立ち上がる。

「謝砂様危ない!」

「うん?」

 言われたときには遅い。歩幅を間違え勢いをつけた足は敷居のわずかな段差を踏み外す。

(バリアフリーにしといてよ)

 仰け反ったままもつれた足をくじいた。

 謝砂のもつれた足は庭の砂利にそのまま滑りこむように尻をつく。

 柳花は慌てて庭に降りた。

「謝砂様大丈夫ですか?」

「いたたた」

 躓いたつま先のじーんとした痛さとお尻の打ち身ですぐには立ち上がれない。

 走ってくる柳花を見ると黒い煙が塀を超えて庭に飛んできたのを目にした。

 立ち止まった柳花に謝砂は大丈夫と手で合図するとうなづいた。

 柳花は頭上の黒い煙に警戒し傀儡を閉じ込めている陣の前に戻って剣を構えた。

 煙は庭に降り立つと羅衛の姿に戻る。

 羅衛は傀儡の山を見張っていた柳花に煙を飛ばした。

「あぶない!」

 謝砂は叫んだが柳花は羅衛に突き飛ばされて剣で防いだが柳花の胸に衝撃が伝わった。

「--ごぼっ」

 胸に受けた一撃で柳花の血を吐いた。

 その血は陣の上に飛ぶことまで計算していた羅衛の思惑通り陣が破られた。

 柳花は吹き飛ばされて膝をつき片手で胸を押さえ剣で自分の体を支えていた。

 傀儡を中心に煙が起こした旋風で呪符を剥がし燃やされて黒い灰となる。

「取り返せ」 

 羅衛の腕輪が光った。

 羅衛が命令すると傀儡は身を起こし謝砂をめがけて襲いにかかる。

 切られている足や手を引きづったままで謝砂に近づく。鋭く尖った爪をちらつかせた。 

 威嚇するような雄たけびが庭に響く。

 謝砂は恐怖で何も考えられなくなった。

 歩く屍に囲まれている恐怖なのか、柳花が血を吐いた衝撃か、命を狙われている恐怖なのか頭では考えられず魂魄が飛んだ飛んだ。

 体は意思とは関係なく無意識で勝手に動く。

 剣を掴もうとした手にぐっと力が入り無意識に謝砂の自我は血も剣は恐ろしいと拒否した。

 謝砂は無意識の中で剣ではなく筆を選んだ。仙噐である筆を飛ばす。

  筆は宙に飛び出ると浮かんだまま円形の陣を呼び発動させた。霊力を指に込めて筆を操る。

 その陣の中心に崩し字のように数本の線を描くと陣は光って発動した。

 襲ってきた傀儡を起き上がれないよう術で鎮める。

 怖さをあまり術を乱射させ目に入る屍の動きを鎮めて止めた。

 爛の剣が飛んできて謝砂を援護する。

ほとんどの傀儡は術で動きを封じられて襲えないが謝砂は筆に霊力を込めたままで陣を出現させたままでいた。

ビリビリとした痺れが指先から腕に伝わり感電したように痛みを感じた。

 筆を持つ手の肘をもう片手を添えたがどうすれば引っ込めることができるのか分からずにいた。

(このままじゃ腕が持たない……)

背中から気配を感じ筆を持つ手を掴まれる。

 憶えのある柑橘の香りに落ち着きを取り戻す。

 家出するように飛び出していた意識が少し戻ってきた。

「大丈夫。私がいる」

 耳元で声が聞こえた。

「爛?」

 謝砂は分かっているがききなおした。

「そうだ」

「どうすればいい?」

「教えるから真似て」

 謝砂は爛に小さい子に文字をに教えられるように手を重ね操られるように真似る。

「先に陣をしまう。掴んで回収」

 陣を掴むようにしまうと陣を消せた。すっと中に入ったような感覚だ。

 そして筆は両手で空間にしまうように手首を捻って筆をしまえた。

「仙噐や法器、神噐類は持ち主の霊気の一部になっていたら霊気としてしまえる」

(なんでもボックスのようで便利だな……)

「巾着の中や、袖の中に入れて持ち歩くことも多い」

「助かったよ。ありがとう」



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