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17話厨房

 物音がした棚を見ると影がさっと動いた。

 爛は素早く剣を飛ばし棚を壊すと這うように人が出てきた。

 謝砂の足にしがみつかれそうになり慌てて台に上り避難した。

「こ、ころ、殺さないでください」

「生きてるのか?」

 謝砂が尋ねると顔を上げた。

乱れた髪を手櫛で整えて顔を見せた。

頬はやつれて憔悴して見えるが瞳の色は黒く目鼻立ちが整った顔をしている女性だ。

手には玉でできた腕輪をはめている。

「私はこの驍家荘の使用人でりんと申します。世家のお方を見たとこはありませんがお二方は見るからに仙門のお方とお見受けします。どうか助けてください」

「何があったんだ?」

 爛が麟に聞いた。

「あの日は七夕の行事の準備をしていました。

 一人の子供が奥様が作られた菓子を盗んだのです。奥様が子供を庇われたのですがそのとき言い合いになり、羅瑛が怪しい術を使うと旦那様が死んだのです。それをみた者は皆逃げようと一斉に屋敷の門に走り出しましたが屋敷の門は閉ざされました。

 人が次々と倒れていくのを見て怖くなり嵐が過ぎるまで厨房の棚の隙間に入り身を隠していたのですが雷や大雨の中で叫ばれる悲鳴に気を失いました」

「怖すぎると恐怖で気絶する。分かるよ。一人で耐えられない」

 謝砂は麟の話に身震いして両腕を擦った。

「逃げようとしましたが屍が歩きまわっていてる姿は恐ろしく、出くわした屍に腕に嚙みつかれたのですが口が空いた瞬間に腕を抜き逃げました」

 血が乾いて黒くなった袖を見せ麟は話を続けた。

「羅衛は奥様の家僕なんです。この屋敷には家僕と雇人がいましたが皆殺されました。

「私は子供たちの世話をしていたのですが目を離した瞬間に子供を見失ってしまい屋敷中を探してまわっているときに蔵の近くの物陰から蘇若という子供の姿を見つけてたのですが、奥様と羅衛が言い合っていました」

「それから?」

「私も罰を受けると思いとっさに隠れたのです。羅衛は私が生きているので殺そうと狙っているのです。知っていることはお話しました。どうか助けてください」

「羅瑛の場所はどこ?」

「分かりません。子供と一緒に倉の中に入ってからは羅衛の姿は見ていないので倉のなかにいるのでしょう」

(おかしい。倉から出てきたのに顔を合わせなかった。息をひそめていたとしても絶対分かる)

「水はあるか?」

 隅に置かれた桶を指さすが入っていたその水も腐っていて飲めそうじゃない。

 水道があるわけないし井戸から水を汲んでいるなら飲める水は外にあるのだろう。

 麟が咳込んだようだ。爛は謝砂が持っている竹筒を麟に手渡した。

「飲むか?」

(おいしくはないと思う。爛が渡したのはわざとなのか。親切なのか分からない)

 首を傾げながら謝砂は一人で塩を探す。

 棚の中にはいろんな調味料が並べてあった。

 さすが広いお屋敷だ。

 調味料はほとんど揃っていて小瓶にはいっているのを開け指でつまんで確かめた。

 ハチミツはさすがに分かったが塩と砂糖が分かりづらい。はちみつが入っている瓶は脇で挟んで持ち塩を探す。

 棚の中にはなく竈の側に蓋があいたまま置かれていた。

(このどちらかは塩だろう。自分にも邪気払いに振っておこう)

 手前にあった白く粗めの粒を掴んで自分に振りかけた。

「用心して」

 爛の声に振り返ると竹筒は床に転がり麟は咽こんで苦しそうに喉を抑えている。

「ゲッホ、ゲッホ」

 麟は俯き口から血を吐き口元を雑に手で拭った。

「一体何を飲ませたんだ?」

 飲ませたのは爛なのに謝砂に矛先を向けられる。

「な、な、なんでもないよ。薄めた酒だ」

 謝砂は嘘は言っていない。

 麟は再び咳込み口から何かを吐き出した。コロコロと転がり謝砂が拾う。

 真珠のような石だった。真珠というよりも濁った白色に見えた。

魂霊丹こんれいたんだ」

 爛は謝砂の隣に飛んでくると手のひらサイズの巾着の中にいれ紐をきゅっと縛った。

(すごい脚力。真似できない)

 麟は吐き出した魂霊丹を取り返そうと襲ってくる。

 掴まれそうになったのを謝砂の膝の後ろを蹴られた。

なつかしいさがある膝カックン。おかげで麟の手を寸前で避けた。

 背中を押され前のめりになると手に持っていた塩を麟の顔めがけてぶちまけた。

 じゅぅっと肉が焼けるような音が聞えた。麟の顔はやけどの跡みたいにただれてる。

 パックしていたように顔皮をめくり捨てた。

「男だったのか」

「羅衛だな。魂を喰う妖人か」

「よく分かったな」

「様子を見て襲うなら屋根の上。封じていた倉を見張っているのなら厨房だ」

「そうなの?」

 謝砂は二人から無視される。

「矛盾がおおい。まず隠れて気を失っていたというのに見ていたように詳細を話せるのは当事者だからだ」

「馬鹿ではないのだな。倉を出たのなら中の棺を見ただろう。美玉様を目覚めさせるのにはそれが必要だ。それを返せ」

「術を出さないのは石が割れたら困るからだな」

 あっけに取られている謝砂の胸に押し付けた。

 謝砂はとっさに受け取ったがどうすればいいのかオロオロとひっこめたり出したりする。

「持って逃げて」

 爛に背中をおされ急いで巾着を懐にしまった。

「一人で?」

 聞き返したが頷かれた。

「庭には柳花がいるから見えたら呼べばいい」

「そのあとは?」

「謝砂は柳花に魂霊丹を封じてもらえ」

「爛は来ないのか?」

「奴を足止めする」

「逃がすか!」

 羅衛は謝砂をめがけて黒い煙を放ったが爛が遮った。



 謝砂は今までも逃げ足だけは早いほうで考えずに思いっきり走った。

 羅衛にすぐに追いかけてこられても困る。

10年ぐらい前かそれ以上前の学生以来久しぶりの全力疾走にも関わらず幸いにもこの体は息も上がらず軽く走れた。

足も速いとは最高なのだが今は喜んでいられない。

「柳花はどこだ!」

 途中にはもう屍はいないはずと信じていたのだが突当りを曲がり庭に通じる門が見えた。

 屋敷の門の上に座っていた柳花を見つけてぶんぶんと手を振った。

「柳花! こっちだ!」


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