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14話掛け軸

「爛、灯りはないのか? せめて灯りでもあれば落ち着くんだけど」

 爛は床に落ちていた燭台を手に取り呪符で蝋燭に火を灯した。

「これを持って」

 爛から燭台を受け取ると風に揺らめく灯りに心が落ち着いた。

「落ち着くな。部屋の奥が怪しい」

「奥というと掛け軸?」

 部屋の入口から掛け軸の壁まで絨毯が敷いてある。絨毯は鶴の柄をしている。 

 掛け軸の前に置かれた机には酒と果物とお菓子が用意されている。

「焼き菓子はなんというんだ? これだけ大事そうに別の盆の上だ」

「巧果だ。菓子が怪しい? お腹が空いていても手を付けるな」

「子供じゃないんだから言われなくても怪しいものは食べないよ。怪しいと思うのはその掛け軸だ」

 謝砂は壁にかかった掛け軸を指さす。その後ろからは邪気のような重い空気が漂ってる。

「掛け軸の絵は白馬と黒牛の絵は七夕を指してる」

 爛は指さしながら説明してくれるが謝砂は首を傾げた。

「七夕って織姫と彦星? 短冊に願い事を書いて川に流すんじゃないのか?」

「なんだそれは。七夕は昔白馬に乗った神と黒牛を引く天女が出会い二人は結ばれて八人の子宝に恵まれたという話だろう。七夕というのは愛し合う者たちにとって大事な日だ。川に流してどうするんだ?」

(今までと違う世界だってこと忘れてた。ここは七夕の意味合いが違ってとっても大事な日なんだな。覚えとかないと)

 掛け軸を背にして爛の勢いに押され後ろに数歩下がった。

「ごめん。知らなくて。詳しくは知らないんだ」

 背中は壁に当たるはずが体は掛け軸をすり抜ける。

 謝砂は手を伸ばして爛を掴もうとしたが掴み損ねた。

 重心は後ろに傾いて倒れる衝撃に備えて体に力を入れてぎゅと目を瞑った。

「――い、痛くない」

「謝砂大丈夫か?」

 衝撃を吸収したのは穀物の入った麻袋だった。

 謝砂が倒れた重みで袋が倒れて散らばった。

 爛も掛け軸に足を入れて通り謝砂の手を掴んで立ち上がらせる。

 パンパンと服を叩いて払うと埃が舞った。

 掛け軸が掛かっていた客間を抜けて違う場所へと繋がっていた。

「見る限りは倉だな。穀物や瓶が保管されているし」

 荒らされているようで棚は破壊されて散らかっている。

「謝砂、あれ見て」

 言われてみると扉がある。

「あそこから出られる。ここから外にでよう」

「違う。もっと手前だ」

 否定されて手前を見ると蝋燭で四方に灯され白い呪符と紐で結界のように張られた大きな棺があった。

 爛に押されて近づき女性が横たわっているのを見てしまった。しかし見てきた中で一番綺麗だった。胸のあたりできちんと手を重ねているが袖からちらっと見える手はあざがある。。

 顔は青白く体は拭かれているが、服の所々には泥と踏まれたのか足跡のようなものが残っている。

「奥方か?」

「美玉?」

 爛と謝砂はほぼ同時に話した。推測は同じ人物を指す。

「踏むなよ。そこに子供の屍がある」

「どこに?」

 藁でできたすだれのようなものに巻かれていたものを爛が剣の先で転がすと生気も吸われてさらに干からびている小さいの屍が姿を現し床にも紙と陣のようなものが描かれているのが見えた。

 謝砂の目は見たくないのに夜に慣れているようでわずかな灯りでも周りがはっきり見えてしまう。

 棺の周りに同じものが7つありその一つが身じろいたように見えた。

「爛、あ、あ、あれ」

 謝砂は震える手でそれを指さした。爛がそれに近づいてめくると顔色はよくないが眠っているように見えた。

「この子も死んでるのか?」

 謝砂の問いに首を横に振った。爛は子供を腕に抱えて運び離れたところで寝かせた。

「死んでない。衰弱しているがこの子だけは生きてる」

「そうなのか」

 生きてると聞いてほっとし横に寝かせた子供の顔をよく見た。

「蘇若?」

 爛は不思議そうに謝砂を見る。

「八人目が蘇若?」

 謝砂はもう一度聞いた。

「分からない。この子は魂を喰われそうになったが、生まれながらに霊力があり魂を喰われずに済んだみたいだ」

「目を覚ますかな?」

「一旦喰われて邪気で魂に亀裂が入ったみたいだ。だから目が覚めないんだ」

「わかった。治してみる」

「簡単に言うが邪気で割れたものは難しい。霊気を注ぎ邪気を取り除くだけでも三年かかるんだ。助けられない」

「亀裂を修復できたら助けられるんだろ?」

「だが体が死んでない今修復しないといけないんだ」

 謝砂はその寝かせた子供の横に腰を落とし胡坐をかいた。

 子供と向き合って深く深呼吸をする。

「助ける」

 謝砂はゆっくりと目を閉じ指先で魂の場所を探った。

感じ取れるはずと胸、喉、口、鼻と滑らせる。

(ここだ!)

目を開けると額の上で止まり、額からピンポン玉ぐらいの大きさの魂が浮かびあがった。

謝砂は掴むと両手で包みこんだ。

姜から教えてもらった石を修復したときを思い出す。

細かい筋のような傷と亀裂をゆっくり埋めるように霊力を注ぐと手のひらが熱い。

 そして表面も透き通るよう細かな傷も治すと手を広げた。

 磨かれたように輝き亀裂は金でふさがれたその魂は再び元の体に戻る。

「ふぅ。爛、どうだ? これで修復できたかな?」

 黙ってじっと見ていた爛は目を丸くしていた。

「爛?」

 そのときその子供が謝砂の袖を引っ張った。 

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