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29話泰山の邪鬼

「必ず団体で行動すること」

 謝砂はこの泰山にいる間、謝家は団体行動を決めた。

 泣き面の謝砂に悪いことをした気分になり招功たちは黙ってきいた。

 爛の背中にへばりついたままで後ろに謝家の門弟に守らせて歩いた。

 カサカサと木の葉が風に揺れて擦れた。

「ぎゃぁぁ!」

 謝砂は叫びながら巣を木の間にポンポンと飛ばしていく。

「巣で仕掛けですか? 謝砂様いい考えですね」

 黒い煙が糸に絡んで張り付いた。

「女の邪鬼です」

「うおぉぉ」

 擦り切れた服を纏った邪鬼は白粉を塗ったようにやけに青白い。

 尖らせた爪で蜘蛛の糸を斬ろうとするが糸は弾くだけで切れない。

 口から生気を吸おうとする前に雪児は剣で斬り呪符で燃やした。

「ここは邪鬼の縄張りなのか黒い煙が次々に捕らえられますね」

 鬼の黒い煙は無造作に飛び糸が見えないのか謝砂が飛ばした巣にはりついていく。

 謝家の師弟も呪符と剣で邪鬼を斬り祓う。

 鬼の残骸が切り刻まれて一塊にまとめられている。

「なあ爛、ここに星星は呼べないのか?」

「泰山の中では契約した霊獣は出てこれない」

 爛は首を後ろに動かして謝砂に話した。

 べったりと背中にしがみつかれてため爛は身動きが取れない。

 泰山にいる邪鬼はかなり大勢の人の魂を食べているらしく斬ると魂霊丹を吐き出して倒れていく。

「招功殿この邪鬼はどうしますか?」

 雪児は斬り屍の塊となったが邪気がつよくて直接は触れれないため鞘で突いた。

「ここの土の中には埋めてやれないし放置もできない。屍を持ち替えるには下山しなければならないから燃やそう」

 招功が話しながら駆逐符を飛ばすと邪気に触れて一気に火がついた。

 屍は燃え上がり灰は散りとなって消えた。

 謝砂は黙ったまま爛に背中に張り付いていたが顔だけを覗かせてみていた。

「駆逐符で燃やすのか?」

「弔いの代わりだ。謝家は修復できなければ『祓う』のではなく『弔う』という教えだ。邪鬼には人だったから魂がある。邪鬼になり無差別に人を襲いだすと魂は邪気に満ちているから斬ると残っていた魂は散って消える」

「鬼には変わりないけど魂ぐらい救えたらいいのにな」

「謝砂ならできそうだな」

 爛はふっと笑ってしがみついている謝砂の手に触れた。

「あれなんだ?」

 謝砂は目を凝らしてぐっと顔を出した。

 燃やした火に寄ってきたのか煙が揺れて小石のような物体が突っ込んでくる。

「えっ。なんで? 虫! ぎゃあ!」

 はっきりと見えたときには3cmぐらいある大きなカナブンが謝砂をめがけて勢いよく飛んできた。

 ゴツンと音をたて額に当たる。弾かれたような痛みはすさまじいデコピンのような衝撃であとから痛みがくる。

「――痛い」

 飛んできた虫も脳震盪が起きたようでこてっとひっくり帰り爛の足元に落ちた。

「一寸ぐらいだな。珍しく大きいな。見てみろ」

 見ただけで判断できる。以前から一番相性の悪いカナブンだ。

「拾うな。見せるな。捨ててくれ。できるだけ遠くに投げてくれ。退治するなら虫だろ」

 爛は脳震盪を起こしたカナブンを屈んで拾った。謝砂は爛から距離をとって大きく一歩離れた。

「ほら見てみろ。妖虫ではない。ただの虫だ」

 指で掴んだまま謝砂を追いかけられ謝砂は怯えて逃げ回った。

「爛さっき胸倉をつかんだこと根に持ってるだろう。そうじゃなければ一番怖いものを持って追いかけるって人でなしがすることだ」

「鬼よりも怖いのか?」

「それ以上に怖い。カナブンが虫の中で一番嫌いなんだ。奴らは相手を見定めて襲てくる。あの痛さを知ってるか? さっさと捨ててくれ」

 爛が聞くが謝砂は邪鬼どころではなくなった。ずきっと痛む額は赤くなっているはずだ。

 手で押さえるがくらくらしている。

「虫が嫌いなのは知ってたが怖いとは知らなかった」

 謝砂は一本の木をぐるぐると回るが爛が追いかけてくる。

 突然立ち止まられ顔を向き合わせた。爛は手にしっかりと虫を持ったままだ。

 謝砂は逃げ出して木々の間を走る。

「謝砂どこに行くんだ? 走ると邪鬼とぶつかるぞ」

「来るなってば! あぁもう。この邪鬼もその邪鬼も邪魔をしないでくれ」

 走って逃げる謝砂の邪魔をするように出てきた邪鬼に向かって糸を飛ばし木にはりつけた。

「私たちは謝砂様が剣を鞘から剣を一切抜かずに祓う姿を初めてみました」

「僕たちは爛様について見てますが爛様があんなに楽しそうに遊ぶ姿は初めてみました」

「お互い戸惑いますが見慣れてきますね」

 桃展たちと謝家の門弟は顔を見合わせて「あははは」と笑いながら邪鬼を剣で斬って呪符で燃やし謝砂と爛の後を追っていった。

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