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ニコ、はじめてのリベンジ

 アヴァロンの城は、プレイヤーの建てた建物の中ではこのサーバー最大。サーバーによってはこのサイズの建物が建っていない所もあると聞いたことがある。


 こういう大きい建物の屋上は大体トレーニング用グラウンドに使われることが多い。天井がないので画面内でも見やすいし、建物の外でやると通りすがりのPKにやられたりして混乱することがあるが、ここは建物内という扱いで、フレンド登録されているプレイヤーがコマンドとターゲットでよそ者を強制排除出来るという利点がある。


 数十人いてもなんとか邪魔にならずに殴りあえるので、大規模練習大会が出来るというわけだ。今日はロックとニコが包帯(と布とハサミ)をどっさり持ってアヴァロンの城へ招待された。


 そこの屋上で小さいナイフを使って殴り合って、お互いをヒールしあうことでswordmanshipとか、healing、fencing, wrestling、攻撃を受けるparryingなどを上げるスパーリング大会。


 大体スキルが自分より上か、かなり近い相手と組まないとスキルがあがらないことになっている。つまり鹿とか、熊とかの動物や、弱いモンスターでは全然スキルが上がらないということで、強いモンスターに特攻するか、同じぐらいのスキルのプレイヤー同士組むか…ということになる。


 モンスター特攻は死にやすいのであまり好まれない。持ち物ロストの危険も大きいし、もちろんダンジョンにPKも出る。ギルド内でお互い殴り合ってスキルを上げるのは常套手段だった。


 同じギルド内か、同盟ギルド同士だと、攻撃しあっても犯罪者フラグが立たないので、好きなだけ練習出来るのがいいところだ。


 スキルが90パーセントを越えたら、アヴァロンでは見習いである従卒から、見習い戦士になる。そのぐらいのスキルになるとスパーリングが有効というか、それでしか上がらなくなるので戦士のスパーリング大会は結構頻繁に行われている。


 大体スキルが上がり切っていないヤンチャな…つまりゲーム内でまだまだ経験が積めていないプレイヤーが多いし、ヒール手段を持たず、ただ殴り合うだけで他の人に気を遣わないようなプレイヤーとスパーリングをすると、うっかり死ぬプレイヤーが多いので、プレイヤーたちのグループの性質と、人数によってはヒール役と蘇生役が必要になる。


 今日は一応ギルドハウスにギルマス、シヴァ、ミサが交代で詰めることになっているのはそのせいだった。


 ロックとニコは結構用心深いほうだ。特にニコは死ぬのが大嫌いなので、スパーリングでもHPが八割ぐらいで駆け出して後ろに下がり、包帯を使っていることが多い。

 ダンジョンではやけに突っ込むのにスパーリングで「大丈夫のはずなのに死ぬのが嫌いなんです」とのことだった。危ないところで死ぬのはいいのか、と俺はついツッコんだ。


 ギルドハンティングが終わった後、ギルマスはしょっちゅうニコに突っ込みすぎだと説教しているが、そのあたり「これはこれ、それはそれ」なのだろう。


 そのころ、ニコとロックは…


 Rock:Greetings!

 (ご挨拶を)

 Rock:*bows*

 

 Nicole:Greetings, good sir Roland,how art thou?

 (ご挨拶をいたします、ローランド様、ご機嫌いかがでいらっしゃいますか)

 Roland:fine,I thank thee Little Lady =)

 (ご丁寧にありがとうございます、小さいレディ)

 必死でロールプレイ中。


 are=art you=thou and thee(主格と目的格で形が違う)は、中世らしい英語を話すロールプレイの初歩で、とりあえずHow are you? Fine thank youぐらいまではなんとか使ってみる人が多い。

 ただし、アメリカ人でもこのあたりまでが限界という人が多いため、ここから先は中世英語を捨てて、現代英語になる人ばかり。お互い暗黙の了解であいさつ以上は無理だから!というのを醸し出しつつかけあう挨拶だ。


 お城にフレンド登録してもらって、屋上へ。ニコとロックは待機となり、ふたりでチョキチョキと包帯を量産に励んだ。ハサミの音だけが響いてしばらく。黒いローブを着たプレイヤーが一人、階段を上がってきたと思ったら、いきなりニコが襲われた。


 Rock:ニコ!


 慌ててヒール魔法をかけて、包帯をニコに使ってHPを戻す。

 襲ってきたプレイヤーはグレーになっているし、タグがAvaではない。NINというタグは見たことがないもので、とりあえず敵…という認定でよさそうだけれど、味方ばかりの準本拠地ともいえるアヴァロンの城で襲われるなんて予想外。


 普段の装備も持っていたロックとニコはまず大急ぎで鎧を着てカバンの中身を整え直した。屋上を走り回るMajereともう一人階段からRichardというキャラクターが出てきて、同じく今度はロックに切りかかった。


 Nicole:ロック、このタグを知っていますか?


 Rock:いや、はじめてみた


 ふたりは横にくっついたままでお互いに包帯を使っている。いきなり抜刀していいのか…つまりここはフレンドリーテリトリーのはずで、招待された場所で、もしかしたらAvalonの客を切り殺したとか、そういう話になったらロールプレイ的には大問題に発展する可能性がある。


 ローランドがいればいいのに、とふたりとも思ったが、今動いて逃げるとしたら追撃されたらどちらか殿を務めるほうが、または双方がHPスタミナ両方切れて死ぬ可能性が出てきた。

 武器はスパーリング用のナイフやミニダガーではなくて、普通の剣だったからだ。


 二人で揃ってうまく撤退するのはシヴァやギルマス、あと俺には可能なのだけれど、ロックとニコは練習が足りなくて出来ない。(ちなみに、あとで「大体なんでコールアウトせんかったんや」とニコとロックは質問された。ニコもロックも「あ…」となっていた。テンパりすぎて、思いつかなかったのだろう)


 Majere:1 OwN3d JoO NoOB

 (死ねよ、ニュービー)

 Majere:hehe, fight, U ninny!

 (ははは、戦えよ、弱虫め)

 Richard:FU bitch, fight back

 (やりかえしたらどうなんだ、クソビッチ)

 Rock:hey!don't talk like that,in front of a lady!

 (淑女の前でなんて口を利くんだ、ひかえろ!)

 Nicole:my ears!

 (なんてことでしょう!)

 一応ロールプレイヤー風に返事をしました的反応を出しつつ、時間をかせぐ。


 Nicole:Rock, if we talk like that, we are killed on that spot by our guild master

 (ロック、こんな口を利いたらうちのギルドならこの場で瞬殺ですよね)

 Rock:hehe i bet. What happen to Roland? ニコ、シヴァよぼうか

 (はは、違いない。ローランドはどうしたんだろう)

 Nicole:I thought we are invited here,but...そうしましょう

 (ここには歓迎していただいていると思ったのだけれど…違うのかしら)


 日本語が多分相手に読めないのを利用して会話。これは言葉が通じない同士の時はちょっと失礼だから、やらないようにしているらしいが、このPKもどきになら構うもんかと思ったと、ニコとロックはちょっと怒っていた。


 あんまり強くないキャラに見えるけれど、かといってそう弱いわけでもない。大体自分たちといい勝負のスキル構成だろうと見当がついたらしい。

 俺と比べるとぐっと見劣りがしたとか。比べないでほしいものだが、あとは比べるとしたらハイランカーのギルマスとシヴァ。またはランクには出てこないが、ギルマスに勝ち越せるミサ。ニコとロックは強いプレイヤーを見すぎだ。


 ニコとロックのヒールが、ナイフ片手に襲われている状態では効きづらく、HPがじりじり下がる。


 ――今まで一人ずつをターゲットにしていた敵が、ロックをターゲットしなおした。2対1では分が悪い。


 あ!!と剣を外して魔法をかけたニコだったけれど、ロックが死んでしまった。


 きっ!とブチ切れたニコはそこでまずHQ刀を装備して自動反撃しながらギルマスに渡されていた非常用キットの箱を開けていた。


 それはポーションが並んでいる箱。これはつまりドーピング用。

 白、黄色、青、オレンジ、グリーンの瓶。


 これはギルマスがニコに練習させている操作で、高速で順番通り最初の4色を飲み、グリーンを相手に投げつけるという動作を出すことになっていた。

 本当はギルドの標準キットには紫の爆発ポーションもセットされていたのだが、ニコがやると毎回投げる本人が巻き込まれるため、ニコのキットには紫は入っていない。


 練習は、安くて薄いポーションでやっていたのだが、こっちは非常用の本物。どのポーションも高級品で、毒なんかびっくりするぐらいクオリティが高い。

 本当は武器に塗るための毒で、このスキルがカンストするのにはものすごい量の毒草が必要。 


 面倒だし、毒武器は卑怯扱いなのでこのスキルを上げるプレイヤーは少なく、うちのギルドでも最高級の毒を作成出来るのはミサだけだ。


 白、黄色、青、オレンジ、最後のグリーンは投げる!

 1分間HP,STA,DEXが3割増しで、ニコでもPKに勝てる可能性が上がるはず…というキットだった。


 いつもより音の間隔が短い攻撃で、相手のHPゲージの減りが明らかに早い。緑のポーションを投げつけられた2人目は毒にやられて、毒で苦しんでいるというエフェクトが出る。かなりレベルの高い魔法使いじゃないと毒消し魔法の効果がないもので、エフェクトが切れるまでが短いがかなりHPが減る。


 ひとり倒して、返す刀でもう一人!と切りかかった時に、聞こえたのが


 Roland:remove thyself

 (排除されよ)


 強制排除の定型文だった。

 Richardは玄関前に転送されているはずだ。


 Siva:どうした?大丈夫か


 Nicole:*tears*

 (涙)

 Roland:Are you all right, little lady? I am so sorry I shouldn't have left you here

 (大丈夫ですか、小さいレディ、ああ、ここに残していくのではなかった、申し訳ない)


 シヴァがロックを蘇生していると、女王とギルマス、それからNINのタグのついた人が急いでやってきた。


 Ichi:Are you ok, Nico?

 (おいニコ、大丈夫か)

 Nicole:no

 (無理)

 Lady Titania:Oh, I am sorry, sweetie

 (まあ、おちびさん、ごめんなさいね、怖かったでしょう)

 Lady Titania:*hugs*

  

 Nicole:t was scary

 (怖かった)

 Nicole:ギルマス、てがふるえて


 Ichi:ちょっとまっとけ、すぐ治る


 Ichi:Titania, she's upset, says her hands are shaking, plz wait for her

 (ティタニア、彼女は動転している。手が震えると。待ってやってくれ)

 Ichi:Rock, report

 (ロック、報告しろ)


 アドレナリンラッシュに動揺したニコに代わって結局ロックがログを送って、忍者ギルド(だったらしい)のギルドマスターと、うちのギルマス、女王とローランドの間で協議がされて、忍者ギルドのギルドマスターはニコとロックに監督不行き届きの謝罪をいれた。


 Nicole:I do not like being attacked, especially in a friended house

 (攻撃されるのって大嫌い。特にフレンド登録された場所でだなんて)


 ニコがぶつぶつと文句を言い、女王はお庭番として忍者部隊のロールプレイをやるのもいいかもという案を廃案した。


 なんと不興を買って、NINとの同盟はオフになってしまい、ローランドはニコの前で大げさに跪き芝居がかったセリフで不手際を詫び、女王はきっぱりとNINの謝罪をはねつけるロールプレイを出して、平身低頭のNINのギルドマスターSaizo(というアメリカ人だった)をギルマスがかばう始末。


 血の気の多い生意気な若いプレイヤーの頭の中にはトウフが詰まっているのだから、あんまり責めないでやってくれという話になって、なんとか女王が謝罪だけは受け取るという形で収まった。

 そのあと、RichardとMajereはBBの年長コンビに相手をして「もらえる」流れになった。いい練習になりますから、どうぞ…みたいな引き受け方だったけれど、何のことはない、トラウマレベルのおしおきだよな。2人とも逃げるに逃げられない状況に持ち込まれただけ。


 元気が有り余っているのなら来いと言われて、プライドが邪魔をして謝罪もいれられず、かかって行っては瞬殺、rezされて、ヒールされて武器と防具を身に着けてもう一度かかっていってまた瞬殺。


 万に一つも勝てないとはこのことだ。スキル値的にはロックといい勝負で、こんなキャラならギルマスもシヴァも片手間で相手が出来るけど、この際だからシヴァは「念入りに殺しておいた」そうだ。ギルマスも多分そう。システマティックに淡々と殺したのだろう。想像できる。


 俺もされたことあるけど、こっちから頼んでやめるとしたら、どんな言葉にしろ「もう勘弁してくれ」と頼むことになる。自分が悪かった、と。多分英語なら、一番短くてもplz stop。


 そんな言語道断と思うなら、相手がやめてくれるまでやるしかないわけで。適当なPKのreskillならreg切れを狙って放置でもいいだろうけれど、うちのギルマスとシヴァはまず、reg切れしない。心が折れたことだろう。


 クソ丁寧にヒールされては殺され、またヒールされては殺され、rdy?とギルマスやシヴァが声をかけるたび、飛び掛かる半ばやけくその、その「稽古」は屋上が2人の惨殺死体でいっぱいになるまで終わらなかった。

 15分間で死体が消え始めるまでにこれほど死体が量産出来るとは知らなかったとあとでニコは感心していたらしい。


 ちなみに、このあたりで、と止めたのは女王。「ボディーパーツが散らばってあとで掃除が大変だから」というセリフにちょっとニコがウケていたとか。


 ニコがちょっと落ち着いた時を見計らって、今度はニコとロックのペア対RichardとMajereペア。


 特にニコはnewbieで、ロックもまだこの世界へ来て3か月なので、練習になるでしょう、と言われて送り出されたふたりは、

「ギルマス、ポーションはもう全部使ってしまったのですけれど、大丈夫でしょうか」

「ギルマス、負けるかもしれないです」

 …と愚痴を言っていたが、

「お互いの距離にだけ気を付けろ」と突き放されて、しぶしぶスタート。


 ヒールの5秒ルールとBBで教えられているルールは、ゲームのシステムに関連がある。

 包帯をクリックしてターゲットして、5秒でヒールが効く。ただし、ターゲット時と、5秒が過ぎる瞬間には隣のマスにいないと回復量が減り、相手と自分の間に2マス開いているとヒール失敗。


 戦いながらヒールをし続ける場合は、隣同士でじっとしているわけにもいかず、間の3秒半の間に必ず距離を詰めるのがコツ…ということに理論上はなっている。


 ヒーラースキル持ち同士で共闘するときには出来ると全然生存率が変わるスキルだった。

 つまり「距離に気を付けろ」というのはこの5秒ルールのこと。


 それに加えてヒール中に相手の攻撃を受けるとヒールの回復量が減る。

 一撃で半分、もう一撃でその半分。


 つまりヒールしている人を背中にかばいながら戦うのが効率がいいわけだ。隣同士でないと物理攻撃は入らないので、うまく立ち回りながらどのぐらいヒール出来るかが今回の模擬戦の肝だった。


 一撃入れて、下がって、ヒールして戻って、一撃…と相手が隣のマスに来るのをよけながら動き回って、追いかけているNINペアが隣同士にとまらないようにする。1秒間に3撃出せるニコと、1秒間に2撃のロックなので、手数を稼ぐのがニコ、ダメージが大きいのがロック。


 バタバタ走り回るNINペアよりも、動きが遅いニコとロック。なんとか相手のHPを半分弱にまで持ち込んだのが、ちょうどギルマスの目の前。


 ニコが剣を外して六階梯のスペルを詠唱して、爆発音とほぼ同時に剣で一撃いれて、片方を倒した。

 Nicole:it worked!:D

 (できたわ!)

 ロックも同じ動きを出してもう一人を倒した。

 Rock:yep ;)

 (俺も!)

 Ichi:GJ both of you :)

 (そうだ、ふたりともよくやった)


 ちなみに、この剣外し、六階梯爆発魔法、最後に大ダメージ剣で一撃は、戦士の間でポピュラーなムーブで、ゲーム内マクロボタンを駆使し、操作に慣れることで出せるとゲーム内で伝えられているものだった。

 操作に慣れていないニコの成功率は2割程度、練習を重ねたロックでもタイミングよくとなると半々ぐらい。

 ちなみに今回は内緒だが、ギルマスがニコにダメージの大きい剣を交換ウィンドウから差し入れした。


 そのあと二人の戦い方について、踏み込みすぎでスタミナが減りすぎだとか、5秒のカウントの取り方が甘いとか、動くタイミングが悪くて空振りが多いとか延々と講釈をいれるギルマスを、NINのギルドマスターはぽかんと眺めていた。


 あとでああいうことを教えているとは思わなかった、自分も教えてほしいと頼みに来たのがシヴァに目撃されている。




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