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元悪役令嬢の俺。

 こめかみに拳銃の冷たさを感じる。


 俺は、羽交い締めにされながらうめいた。

「なんで……?あのままだったら、グランド、あんたは自由になれたっていうのに……!」

 グランドは、俺の耳元で小さく、「ごめんな」と呟く。


 半分以上の人間は既に逃げてしまったが、まだ20人以上の人間は残っている。その全員に聞こえる声で、グランドは叫んだ。


「今度、嫁をめとっても、おなじことを繰り返すつもりか――お母様!!」


 ……え。俺は、目を泳がせた。それって、俺も公爵家に嫁いだら殺されるってことか?

「俺の前の妻――レーアも、俺が長期航海で留守にして、新大陸を発見していた頃に、奴隷競売にかけられた!あんたは、妻を売ったんだ!そして――」

 それから、俺の親父を見る。

「それを買ったのが、オリヴィエの親父さん、あんただ!あんたらは共謀して、妻を売買したんだ!!」


 俺は、親父を見た。親父は、「オリヴィエちゃん、ごめんね、オリヴィエちゃん……パパのせいで……!」と泣いている。

 公爵夫人は、「そ、そんなことは……」と言いよどんでいる。


「言い訳しなくとも、噂は正直だぜ。親父さんに買われた後、妻が裸足のまま逃げようとして、真っ暗闇の中を走っていたことも、それで桟橋から冬の冷たい海に落ちて死んだことも!!俺が帰ってくると、『レーアはお前を追いかけようとして海に落ちて死んだ。だから、海賊をやめなさい』と、俺を縛る口実にしたのもな!!」


 俺は、親父に、「どうして……」と問いかけた。


「ごめんね、オリヴィエちゃん。オリヴィエちゃんにはママが必要だと思ったんだよ……。だから、同じ黒髪のレーア様をお前のママにしたかったんだ……」


 何つー身勝手な言い分だ。俺は、

「そんなんで許すわけないじゃないの!馬鹿じゃない!?」と親父をなじった。


「だからな……」

 と、グランドは俺を抱き直して言う。

「だから、今度はあんたの前で、可愛い可愛い娘をぶっ殺してやろうと思った!今、この場でぶっ殺してやるよ!」


 俺は、体を竦ませた。銃の撃鉄が動かされる音がしたからだ。こいつ、本気だ――!


「やめてくれ……やめてくれぇ!!」と、親父が泣き叫ぶ声が聞こえる。



 だが。


「オリヴィエ……殺す。殺さなくては……オリヴィエ。オリ……ヴィエ……!」

 カタカタと銃が震える。俺は、ぎゅっと目を閉じていたのを、ゆっくりと開ける。

「グランド……」

 俺は、ぎゅっと抱きすくめられ、首元にぽたぽたと雫が流れ落ちるのを感じた。


「オリヴィエ……本当に、愛してた……オリヴィエ……オリヴィエエエエエエ!!!」

 魂の咆哮だった。グランドは、俺の名を呼んで、腕を解き、その場に膝を突いた。俺は、グランドに向き直り、膝を突いて座ると、グランドを抱きしめる。

「すまない……オリヴィエ……すまない……!!」

 グランドが下を向いたままでそう言うので、俺は、

「グランド、もういい。よくやったよ。あんたが全部吐露してくれたおかげで、こいつらの社会的地位は少しは下がるんじゃねーかな」

 と言い、ざっと会場を見渡した。20人あまりの人間は、冷たく舞台の上の2人を見る。親父は泣き崩れているし、公爵夫人も青ざめて自分の息子を見ている。


「グランド、走れるか?行くアテがある」

 と、俺は、グランドに手をさしのべた。グランドは、はっと顔を上げると、俺の手を取り、俺と一緒に走り出した。


「メイド!執事!逃がすな!」

 公爵夫人の声が聞こえたが、メイドも執事も動かない。

「メイド!執事!聞いているのか!?」

 夫人はヒステリックに叫ぶのを後ろに、暗闇の中、俺は走った。


――海賊船

 俺らは、まず、ここに身を隠すことにした。海賊たちも起きてくると、訳を話し、俺たちは船の中のグランドの部屋に戻った。


「……怖く、なかったのか?」


 グランドからそう言われるが、俺は、

「だって、グランド、俺のこと大好きじゃん!」

 と、笑顔で言った。

「はっ……なんだそれ」

 と、グランドも犬歯を見せて笑った。


 俺は、申し訳程度にあるベッドに腰を下ろすと、

「だって俺も、グランドのこと大好きだもーん」

 と言った。


 そして、グランドに、

「そうだ、キラの借用書貸してよ」

 と言い、グランドが出してきた借用書の、空欄だった「保証人」の欄に「オリヴィエ」と自分の名前を書く。

「おいおい……」

 と、グランドが呆れた声で言うが、俺は、

「だって、パリスとキラが金を返し終わるまで、俺はお前の女なんだろ?じゃあこれで良いじゃねーか」と笑った。



――出港の朝。


 俺は、海賊船に同乗することになった。といっても、俺は「キャプテン・グランドの婚約者」として、とりあえずは「女将」と呼ばせることにした。

 

「ふあ~、今あるのはこれで全部です~」

 と、キラが重そうに持ってきたのは、全部ビタミン剤の袋だ。軽く船員一人一ヶ月分はある。これを作って貰ったのだ。


「悪いね、キラ。しばらくこの街には来れそうにないからさ」

 俺はキラに声をかける。商人の俺の家とは違い、公爵家の敵となってしまった俺とグランドは、この港を使えなくなったので、別の港を探すことになった。


 そして、俺は、キラの細い体を抱きしめると、

「またね、お姉ちゃん」

 と、微笑んでキラを見た。キラは、最初きょとんとしていたが、すぐに微笑んで

「ええ。また」

 と答えてくれた。それだけで、俺には十分だった。


――それと。

「新しい土地、新しい街を開拓するんだよな、グランド?」

 俺がそう聞くと、グランドは

「そうだな」

 と笑った。


「出航しますぜ~!!」

 と、船員が声をかける。グランドは甲板に出て、


「まだ見ぬ地へ!グランド海賊団、出港する!!」

 と叫び声を上げた。船員達は、『おおおおおおおお!!』と低い響きを鳴らす。


 そこで、俺はスマホに耳を付けた。電話をかけるのは、あいつにだ。

「悪いな、桃。まだしばらくそっちには戻れなそうだ」

 そう告げて、返事を待たずに切る。


 こうして、俺は『ホストの武』から『海賊団長の婚約者、オリヴィエ』になった。

 これは、俺とグランドがこれからも歩んでいく、物語。

読んでくださり、ありがとうございました。後半駆け足になってしまいましたが、無事に完結させることができたのも、読者さんあってのことです。

次からは、王道ファンタジーものを投稿したいと思っています。「俺TUEEEE」になると思うので、お暇があればまたお目にかかることを心より望みます。ありがとうございました!

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