41 沖縄にて
随分間が空きましたがポツポツ投稿をしようと思います。
沖縄ではシナの監視が続いていた。対峙するシナ大陸の太平洋沿岸部は独立して友好勢力の治める地となっており、既にシナの二大始祖勢力の勢力圏ではない。でも沖縄は未だに日本の対シナ最前線なのだ。
「此処も緊張感が無くなりましたね」
「ああ、お隣りはシナの覇権争いから抜け出した勢力だからな」
「日本人の大半はもう地球には居ませんしね」
地球に居住する日本人は現在七千万人程でそれも年々減っていた。地球は生態系の供給地としての役割が年々大きくなっており、出来得る限り自然な状態に戻そうとした結果だ。日本では杉やヒノキ等の人工林は減らして雑木林と田んぼを増やしていた。田んぼを増やすのは自然な状態に戻すのとは矛盾するようだけど田んぼの生態系はしっかりと確立していてそこに適応した生物も多かったからだ。田んぼは食料生産の為と言うよりも生態系保護の為に維持しているのだ。観光地は地球の外からの観光客が増えていて続いている。まぁ、日本列島全体が地球の外に住む日本人にとっては観光地なのだが。
「そろそろ退役して職を変えようと思うんだ。シナが攻めて来ることはもう無さそうだし」
「……まぁ、無いでしょうね。それで何をするんですか?」
「嫁達と畑でも耕してのんびり過ごそうと思ってる」
「奥さん方は承知してますか?」
「嫁の一人がしているのを手伝うんだから問題ないだろうさ」
「ちゃんと相談してからにした方がいいですよ?奥さん方の了承が得られるとは限らない」
「大丈夫だろ?普段から退役したら畑を手伝うと言ってあるし」
「……そうですか?それなら良いんですが」
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「嫁達に話したら皆反対だったよ」
「……何がですか?」
「だから職を変える話だよ」
「ああ、やっぱり」
「やっぱりってお前も職を変えようとしてたのか?」
「僕は随分前に地球をそろそろ出ても良いかなと思って職探しした事が有ったんですよ」
「それで?」
「待遇も良くなって問題ないと思っていたのに嫁達は皆反対で話は潰れました」
「給料は上がるんだよな。俺みたいに畑仕事を手伝うとかではなく」
「ええ、それで何とかなると思っていたんですよ。転移魔法を使えば沖縄からでも通えるからとも言ったんですが駄目でしたね」
「??如何して?」
「どうも僕が退役すると地球から出る事になると思っている様で」
「そんな法律あったか?」
「法律は無いです。ただ殆どの人は退役後には地球で軍関連の仕事に就くか宇宙に出るんですよ。宇宙の方が働き口は多いし待遇も良いんですよね」
軍人は一通りの魔法を叩き込まれており惑星開拓が盛んな宇宙では即戦力として引く手数多なのだ。
「そう言えば俺の知る退役した奴等は地元の軍関連の仕事に就いたな。俺みたいに畑仕事をなんて奴は確かにおらん」
「うちの場合は嫁達は仕事でも沖縄からは出て欲しくないそうで転職の話は没です。地元の軍関連の仕事への転職ならOKだったかもしれませんね。宇宙に出た方が待遇は良いんだけどなぁ」
「俺は蓄えはあるし家族で呑気に遣って行ければ良いと思っていたんだが……」
「僕は家族旅行で太陽系外の惑星を皆で訪れた事もあるし、嫁達の拒否がここまで強いとは思ってもみませんでした」
「俺は宇宙に出ようとはしていないんだがなぁ」
現在の地球における日本領土は、南は沖縄諸島や小笠原諸島から北は樺太と千島列島迄だ。それに加えて大陸のバイカル湖より東側の領域を支配する始祖勢力は日本の始祖勢力の準構成員であり、その支配領域は日本の実質的な勢力下にある。宇宙での彼等の勢力圏も日本圏内に在り既にロシア圏からは離脱していた。
日本圏の始祖勢力は拠点を開拓惑星に移して久しく人口も太陽系外の方が多い。そんな日本圏では世代を重ねるごとに地球の影が急速に薄れており、地球は昔は発展していた懐かしい古都扱いだ。そして日本圏の始祖勢力はこの地球における日本圏内では防衛関係と生態系の維持に関連する職に就く者以外の新規の居住を認めていない。これは勢力圏の防衛とその圏内の生態系の保護と維持を最も重視している為だ。生態系の移植は惑星開拓には欠かせないものだからな。
そんな地球の日本に今も住んでいる人達は昔からそこに住んでいるか、防衛や生態系の保護関連の職を得て新しく住み着いた人達だ。それで昔から住んでいて都会的な生活を求める人なら地球から出て暮らすのを選ぶ。高い報酬を求める人も同じだ。今では畑仕事ですら地球を出た方が報酬は高いぐらいなのだ。地球には観光で訪れることも可能だしなにも住み着く必要はないだろう。そう安易に考えて転職を検討したんだが嫁達には受け入れ難かった様だ。沖縄から通うとまで提案したのだが駄目だった。沖縄に対する何らかの強い思いが嫁達にはあるのか僕が沖縄の基地で働いている事が嫁達にとっては結構重要らしい。絶対に辞めない様に念押しされた。
「そんな訳で僕は嫁達がOKを出さない限り沖縄からは出ません。転職もなしです」
「でも日がな一日訓練と来そうにない相手の監視では張り合いがないだろう?」
「僕は魔法の鍛錬と割り切る事にしました。それで祖母や大伯父さんから教わった事をおさらいして鍛え直しています」
「職務中にそれは不味いんでないの?」
「職務の訓練に兼ねてしているので問題は無いですよ。それに魔法の鍛錬ですからね。魔法の能力が向上して問題となる筈がありません」
「因みに何を鍛錬してるの?」
「主に魔法による身体操作と気の鍛錬ですね。これなら訓練中でも作業中でも可能ですから」
「ああ、確かにどちらも熟練すれば可能だな。だけど大変じゃないか?」
「慣れればたいした事はありませんよ。まぁ、日常動作に違和感なく使える様に迄するのが鍛錬なのですがね」
「兵隊でそこまで極める奴は居ないだろ普通」
「宇宙では以外に居ますよ?宇宙開拓の初期の頃は必須でしたから。今では植物の補助があるからそこまでは必要ないですけど。でもできるに越したことはない。その域に達すれば単独で星間航行が可能となりますからね」
「そうか、でも地球に居る限りは必要なさそうだな」
「宇宙で訓練する時に安心感がありますよ」
「年に数回の一、二時間の衛星軌道上での訓練の為にそこまでするのか?」
「職務時間外に宇宙に出るのは別に禁止されていませんよ?どうせならそこまでしようと思います」
「俺には真似できんな」
「職務中だけでもかなりの効果がありますよ。それで張り合いが出てきました」
「……まぁ、頑張ってくれや。俺は週末の畑弄りを楽しみに定年まで過ごす事にするよ」
そんな訳で僕は魔法の鍛錬に励む様になった。昔習った事を思い返しては鍛錬を進めて行き、それで能力が順調に上がってくると鍛錬に嵌ってしまった。自身の成長が楽しくて仕方がないのだ。昔、祖母や大伯父さんから魔法を教わっていた頃は魔法が好きではあったけど此処まで魔法に夢中には成れなかった。そして楽しいからと職務中だけではなく私生活にもどんどん鍛錬を組み込んでいった。
うちらの旦那は沖縄基地に勤務している軍人だ。沖縄に来る前は月基地に勤務していて幾人もの異人の娘と良い仲になっていたらしい。旦那は何人もの異人の娘にプロポーズして悉く振られたと言っていた。だがこの話は凄く怪しい。私が旦那に初めて抱かれて旦那の生体魔法回路を感じた時は陶然となった。これから逃げる女が居るとは到底信じられない。旦那と良い仲になってからプロポーズされて断る女が居るとは思えないのだ。旦那が嘘を吐いていないのは確かなのだけど絶対に何かおかしいと思った。異人は感覚が違うのかとも考えてみたけど、もしそうならそもそも旦那と良い仲にはならないだろう。旦那と異人の娘が結婚するのを誰かが邪魔したに違いないのだ。
それでうちら旦那を囲っている八人は旦那を野放しにしたら不味いと思っていて絶対に一人にはさせないでいる。幸い旦那は子煩悩で家に居る間は小さな子供達と遊ばせておけば上機嫌だ。勤務が終わったらすぐに帰宅して子供達と遊んでいる。寄り道は本屋によるぐらいかな。勤務中については女気のない男ばかりの部隊なので全然心配していなかった。うちら八人はこのままが続けばいいなと思っていた。
そんなある日の事、旦那が転職して地球の外で働きたいと言い出した。旦那の能力なら仕事なんて簡単に見つかるだろう。だけどそんなのは駄目だ。うちらは旦那の勤務先に女気が無いから今迄安心していられたのだ。転職されてはそれが台無しではないか。何としても旦那の転職を阻止せねばならない。宇宙になんて出られたらうちらの囲い込みが崩れてしまう。今迄の苦労が水の泡だ。それで八人で沖縄からは出たくないし出て欲しくないと言いはって何とか旦那の転職を阻止した。
これ以上旦那に女が増えるのは何としても阻止したかった。旦那の相手を一人でするのは勘弁だけど週一ぐらいはかまって貰いたいからこれ以上女が増えるのは嫌だ。うちら八人の中には毎日でもと言う娘もいるけどそれでも一人では体が持たないと言ってる。旦那は昔「僕は君とだけ結婚できれば良かったのに」なんて呆けた事を言ってたけどいくら好きでも体が持たなかった。でも旦那みたいな魔法に才ある者を伴侶に持つのは私にとって人生の一大事だった。それで一人では無理だからと妹、従姉妹、仲の良い友達まで誘って旦那を囲い込む事にしたのだ。その時は五人だったけどそれでも旦那を相手するのはしんどかった。結局は一人また一人と増やして行って八人にまで増えた。だから転職も阻止した時点ではこれで大丈夫とこれまで通り八人で旦那を囲って上手く遣って行けると思っていた。
「由美ちゃん、相談したい事があるんだけどいい?」
「なんですか?万由里姐さん」
「最近、のぶちゃん夜の方が強くなってない?」
のぶちゃんてのはうちらの旦那である佐藤信行の事だ。
「かける時間はそんなに変わってませんよ?」
「時間の話じゃなくて、なんかこう、理由は分からないんだけど相手をした後に前よりもしんどいのよ」
「ああ、それですか」
「何々、何か知ってるの」
「それはうちらの旦那が鍛錬をしている所為だと思いますよ」
「??何か鍛錬を始めたの?気付かなかったけど」
「旦那に聞いた話ですけど日常生活を送りながらする鍛錬で、変化は少しづつだから毎日顔を合わせているうちらでは返って気付かないそうですよ」
「何で鍛錬なんて始めたんだろう?」
「それは転職を諦めたからですよ」
「??転職を諦めたから鍛錬?何で?」
「旦那は職務に飽きてたんです。それで転職しようとした。でもそれをうちらが諦めさせた」
「……それで?」
「それで職務中に鍛錬して紛らわせることにしたみたいですよ」
「今だって充分に凄い魔法使いなのに?」
「修行には限がないんだそうです」
「……それが原因で夜に強くなったって事?」
「強くなったと言うより上手くなったかな。身体能力も向上するから強くもなっている筈だけど」
「鍛錬を止めさせれないかしら」
「無理ですよ。鍛錬自体は良い事なんですよ?健康も増進するみたいだし。それに止めて貰う理由は?」
「うちらが夜の相手をするのがきついからとか?」
「そんなの嫌ですよ。手を抜かれたどうするんですか。前よりも具合は良くなっているんですよ?後できついだけで。それに下手に鍛錬を止めさせるとまた転職を考え始めますよ?」
「それは駄目。……由美ちゃんは如何したら良いと思う?」
「旦那に倣って鍛錬すればいいんですよ。私はそれで何とかなってます」
「辛くない?」
「それは慣れですよ。日々鍛錬していれば慣れます」
「のぶちゃんに転職を考えられても困るしそうしようかな」
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「甘かったですね。万由里姐さん」
「ええ、甘かったわ。少しぐらいの鍛錬では全然駄目ね」
「旦那に教わっているのに何故でしょう?」
「それは魔法に対する熱意が違うからかな?優秀な魔法使いはやっぱり違うのよ」
旦那が鍛錬に嵌った結果として旦那の能力は日々向上していた。うちら八人はと言うとあっと言う間にそれに付いて行けなくなった。幸恵なんて週に一回でもきついと言い始めた。毎日でも大丈夫と言っていた由美ちゃんも週に一日は休みを入れたいと言い始めた。私も今のままでは正直きつい。旦那は益々元気なのに……色々と考えたけど八人では回せそうになかった。
「もう人数を増やすしかないですよ。八人では無理です」
「それが嫌で旦那に転職を諦めさせたのに?」
旦那に転職を諦めさせたのは沖縄を離れるのも嫌だったけど嫁がこれ以上増えるのを阻止する為でもあった。
「嫌だったのはうちらの知らない所で女ができて旦那への囲い込みが崩れたり、相手にされるのが減ったりする事でしたよね?今は相手するのがきついんだから前提が崩れていますよ」
「そうね。幸恵なんて相手をした次の日は一日中ぼーっとしていて子供達にまで心配されているしこのままでは不味いわ。のぶちゃんはどう思っているのかしら」
「どうって……万由里姐さんはどうです。夜のお誘いを拒否できますか?旦那の相手をしている間は気持ち良いだけでしょう?後できついからどうしようかって話であってしたくない訳ではないですよね。旦那はうちらが満足していると思ってますよ絶対に。実際、その時は満足してるんですからね。後できついだけで」
「……これなら転職して貰った方がまだマシだったかも」
「今更遅いですよ。今の旦那が転職しても鍛錬はこのまま続けるから状況は変わりません」
「そうすると外で女ができて増える事になる。どのみち必要なら増やすしかないわね」
「増やすしかないですよ」
「誰か良い娘いる?」
こうして旦那の知らない所でうちら八人による嫁探しが始まった。
日常生活を営みながら積極的に鍛錬していると夜の営みで嫁達が面白いほど激しく反応する様になった。愛撫に気の操作を組み合わせると嫁達の反応が頗る良いのだ。それでこれも鍛錬と嫁達の反応を伺いながらあれこれ工夫して励んだ。皆満足そうに果てていたから自分では上手く遣ってると悦に入っていた。ところが上手く遣ってるなんて自己満足に過ぎなかった。いつの間にか若い娘が我が家を出入りする様になっていて『ママ友かな?』と思っていたら嫁達が探してきた新たな嫁候補だったのだ。やけに若いママがいるなとは思っていたんだ。そう言えば嫁の数が五人から八人に増えた時もこんな感じで知らない娘達が出入りする様になって気が付くとお見合いみたいになっていたんだった。
「えーと。どうしても増やさないと駄目?八人で充分だと思うけどなぁ」
「私達が八人では足りないと感じているのよ。これは八人の妻の総意よ」
「でも八人で何年も上手く遣って来たじゃないか。それなのに何で?」
「あなたの鍛錬に皆が付いて行けないの。相手をするのがきついのよ。体が持たないわ」
どうやら夜にあれこれ工夫して励み過ぎたらしい。嫁達の反応が頗る良いから問題ないと思っていたんだが不味かった様だ。
「……手を緩めようか?」
「それは駄目。魔法の鍛錬なんでしょう?手を抜いてはいけないわ。私達妻にとってもあなたが魔法使いとしての能力が向上するのは嬉しいことなのよ」
「でもきついんだろう?」
「きついけど嫌ではないのよ。でもこれ以上は体が持たないの。それで人を増やす事にしたの」
今まで旦那を八人で囲ってきたのは旦那が魔法使いとして優秀だったからだ。私では一人で相手するのはたいへんと言うか無理だった。それで八人で共有していたのだがここ最近の魔法の鍛錬によって旦那の優秀さに更に磨きがかかってしまい八人では囲うのがきつくなってしまった。家族を維持する為には人数を増やすしか手がない。
「でもなあ。経済的にはどう?人が増えて遣って行けるの?転職の件は経済的にもう少し余裕を持ちたかったのもあったんだよ」
「それは今迄と同じよ。うちらの半分が外で働けば充分に遣って行けるわ」
「転職した方が身入りが大きくなるけどやっぱり駄目?」
「終わった話を蒸し返さないの!また同じ話を何日も続けるつもり?」
「……じゃあもう言わない」
「家族に入れて上手く遣って行けそうな娘達を引き合わせるからお願いね」
嫁達に反対されて転職できなかったことを愚痴っていた男、佐藤信行の嫁はこうして十二人となった。




