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24 そして小競り合いが続く

敵対する東アメリカへの対処として、日本は友好勢力と見做している勢力のトップに対しては宇宙関係の情報の公開を徐々に進めて味方に引き入れる事にした。

敵に回られると困るからだが元々宇宙開拓が有る段階に達した時点で友好勢力にはこれらの情報を徐々に公開する予定ではあった。

惑星を地球化するのは良しとして地球の生態系を模すにしても日本に居る動植物だけでは生物相が限られてしまうからだ。

そして合わせる形で止めていた地球での眷族の引き抜きも解禁する事になった。


「ガニメデは友好勢力には開放しないんですか?」


「月と火星までだね。そこから先は惑星開拓が出来る力がないと意味は無いし、アラスカみたいに行方不明者の件で揉めている間はこちらから開放する気にはならないな。あまり必然性も無いしね」


ガニメデを日本は中継基地として利用しているが他の勢力がここを中継基地とする必然性は無い。

日本が仮に独占を図ったとしても他の勢力は別に中継基地を設ければ良いだけ話だ。

普通の独立を志向する勢力ならその方が良いと判断して実行する可能性が寧ろ高い。


「でも日本の国外出身の始祖達は出身地で人を集めて眷族にしてから開拓に使い始めていますよ。ガニメデを経由しています」


「たとえ外国人でも自身の眷族にしてしまえば問題にはならないんだ。要は忌避感が生じるかどうかなんだよ。彼等には惑星開拓を進めるために眷族が必要なんだ仕方がないさ。そして開拓経験を積んだ一部の眷族が引き抜かれて故郷に戻るのも仕方の無い事なんだ」


今回の場合はこちらは惑星開拓を進める為に眷族を増やしたくてあちらは開拓技術が欲しい。

それでこちらは始祖の出身地で人を集めて眷族としてあちらは惑星開拓の経験を積んだ人材を後で引き抜いて開拓技術を手に入れる。

時間は掛かるけどこうして互いに欲しいものが得られるという訳だ。

そのまま信頼関係が続けば協力して惑星開拓を続ける事も可能だ。

結果としては開放する様なものだが自力でガニメデに来たものとされる。

このように群れの利益に繋がる方法で有れば抜け道として使っても問題にはしていない。

この場合は日本に属する始祖が眷族を増やしているので良しとしている。


「ああ、なるほど。彼等は自身の出身地の始祖と裏取引をして眷族を増やして開拓を進めている訳ですね」


「具体的な取引はしていない筈だ。互いに欲しいものを述べて直接提供出来ないものについては暗黙の了解の基に行動するんだよ。ある程度の信頼関係が無いと要求が上手く噛み合わないけどね」


「なんか回りくどいですね。でも異種に群れの禁忌に触れる事を直接教授するのは確かに無理だしなぁ」


「確かに回りくどいけど他の友好勢力よりはずっと面倒が少ないんだよ。台湾・満州・モンゴルなんかにはこの手が使えないからなぁ」


台湾・満州・モンゴルはその地域出身の始祖を日本の身内に引き入れてはいないので抜け道は使えない。

現状では彼等に月と火星の情報は流しているけど魔法関係の情報は流せない。

月や火星の情報は既に東アメリカにはバレている前提で動いていて機密度が下がっているため、始祖同士のトップ会談では通知済みだ。

魔法を使えば生身でも宇宙を航行して月や火星に行ける事も通知済みだ。

魔法技術の教授は出来ないのでその辺りは自助努力で開発する必要があるけど月や火星に来れるだけの魔法技術は既に持っている筈なんだ。

宇宙航行自体はバリアで身を包んで飛ぶだけの話なので面倒なのはバリアの宇宙用の設定ぐらいだな。

彼等は日本のバリアに相当する魔法技術は既に開発済みなので後は天文学的な知識が有れば月と火星に来る事は可能となる。

火星に来れば惑星開拓の方法は身に付ける事が出来るし、火星に来る能力が有れば太陽系外に出て宇宙探査も可能となり、その先は宇宙探査で開拓可能な惑星を見つけて惑星開拓を始めるだけだ。

そこまで行けば現状のアラスカと同じ段階だ。

アラスカは人が少なくて足踏みしているから互いの要求が上手く噛み合えば技術交流なんかも可能かもしれないな。


日本から送り出した南米の始祖の勢力は人は多いけどまだ宇宙に勢力を拡げるだけの力が無い。

彼等はアメリカ合衆国が瓦解して以降は南アメリカで勢力基盤を固める事に専念していた。

それは成功して周りに脅かす勢力は無いのだが真面な教育を受けていなかった眷族が多く魔法使いの人材が育っては居なくて宇宙開拓に回す余裕が無いのだ。

だから友好勢力として火星に招いたけど当面は火星開拓で力をつける事に専念する様で太陽系外には出そうにないな。


ロシアには元々月や火星に来るだけの力は有る。

アラスカが月や火星に来れたのだから支障がない筈だ。

人口も惑星開拓に乗り出す事が充分に可能なレベルだ。

西ヨーロッパからの難民を自勢力に組み入れた事で人材は充分に足りている。

西ヨーロッパも再編が済めば月や火星に来る事は可能だろう。

オーストラリアも充分可能な筈だ。

ヨーロッパからの移民を受け入れた時に宇宙関連の技術も入手した筈だからな。


日本の敵対勢力の筆頭であるシナは宇宙関連では問題とはならない。

続く覇権争いの結果として宇宙へ出るための科学技術はシナからは霧散してしまっているし、愚民化政策の結果として一部のエリートしか宇宙へ出るだけの魔法の技量が無い。

それでは惑星開拓を一から進めるのはまず不可能だ。

日本では開拓に関わる殆どの人が魔法使いでゲートやバリアぐらいは使える前提で開拓を進めているがシナには不可能な方法だからな。

エルサレムで聖地奪還争いをしている奴等はそもそも宇宙には興味が無い。

彼等の頭の中は神への信仰?で一杯一杯なのだ。


問題なのは東アメリカには技術的に月や火星に来るだけの能力が有ることだな。

分裂して人口が減ったから太陽系外の開拓に乗り出すには微妙な感じだけど技術的には可能な筈だ。

現状だと日本が敵対勢力として東アメリカの宇宙進出を邪魔するつもりだから月から先へは中々進めないとは思うけどね。








そして日米が開戦してから八年も経った頃、とうとう月に東アメリカの宇宙艦隊が遣ってきた。

随分と時間が掛かったが何故なのかと言うと宇宙関連の技術者や科学者の多くはアラスカの始祖が眷族にしていて人材が不足していたかららしい。

月や火星へ少人数を送り出す事は可能でも軍事展開は不可能と言う事で人材の養成に時間が掛かった訳だ。

彼等は日本とは戦争中の積もりなのでいきなり大群で押し寄せるかどうかは置いといて宇宙での戦闘準備もせずに月に向かう訳には行かなかったのだ。

この頃の月は惑星間の中継基地としての役割は終えていて地球からの関所と化していた。

既にアラスカすらあまり月基地は使っていなくてほぼ軍人と役人しかいない場所となっていた。

東アメリカが月に転移して殴り込んでこなかったのは既に日本以外の勢力も月に進出していて月のあちこちに基地を設置していたからだろう。

流石に月に居る全ての勢力を敵に回す気は無い様だな。

日本は臨戦態勢に入り東アメリカとの戦闘に備えて直ちに月を中心とした直径七千㎞の領域を戦闘領域として外からの転移を排除する事とした。

どうしてこうなったのかと言うと日本との戦争が継続中で未だに終わってはいないと東アメリカが主張しているからだ。

何度かオーストラリアやロシアの仲介が有ったのだが東アメリカは日本との講和の席に着こうとはせず、休戦や停戦の合意すらなされてはいなかった。

東アメリカ人の陸軍士官の始祖の頭の中では日本との戦争が継続中なのだな。

とは言っても既に二国の間にはいくつもの国が有って転移魔法でも使って敵国近郊にまで乗り込まない限りは互いに戦闘も出来なくなっていた。

大統領選挙が普通に行われている事からも分かる様に東アメリカも戦闘を継続する意志はない様だが停戦合意等をする意志も無い様だな。

日本が恐れていたようなテロ行為こそないけれど大統領選挙の度に日本は引き合いに出されていて非難されていた。

テロ行為については日本の報復を恐れていて実行する者がいなかった様だな。

日本と東アメリカは直接的な交易は途絶えて久しいし、東アメリカから日本への非難は止まないし、互いに大使館の設置すらしてはいない、海外では互いの存在を無視する感じの状態が続いていた。

直接対峙する事になったのはアメリカ合衆国の瓦解以来初めての事だった。


月で彼等と最初に接触したのはアラスカ基地の駐留武官でどうやら顔見知りらしい。

それでアラスカの仲介でトップ会談前の事前協議が始まったのだが……


「日本は直ちに月の不法占拠を止めろ。我々は月の基地を共同管理とする事を求めるものである」


「我が国が月を不法占拠した事実は有りませんし自国の基地を共同管理する気も有りません。基地を間借りしたいならせめて地球での日本への敵対行為を止めてからにして下さい。ご自分で月に基地を設置したければ空いている所にご自由にどうぞ、誰も禁止はしていません。因みに月の裏側は殆ど空いていませんがね」


「宇宙条約で領有は禁止されている。それに敵対行為を止めるのはあなた方の方だ」


「宇宙条約ですか?その条約は既に失効しています。締約国の殆どが亡国となった現状で条約に何の意味が有りますか?」


「宇宙条約はまだ失効してはいない。締約国は履行する義務が有る」


「新興国のアラスカを初めとする国々が既に月に進出して基地を設置済みなのですよ。既に失効していると捉えるのが普通だと思いますね。それとあなた方は敵対行為と言いますが日本から貴国に対して積極的に敵対した事実は有りません。戦争の継続を一方的に主張しているのはあなた方ではないか」


戦争を始めたのは今は無きアメリカ合衆国だし、未だにアメリカ合衆国を名乗って戦争の継続を主張しているのは東アメリカだ。

日本の大衆はアメリカ合衆国が瓦解して分裂した事で戦争は終わったものと認識しているのだから。

東アメリカはアメリカ合衆国を継承しているとの主張だが日本から見たらアメリカ合衆国が瓦解した後に出来た国々の中の一つに過ぎない。

他の分裂した国々はそもそもアメリカ合衆国は無くなったと言う立場で東アメリカの正統性を認めてはいない。

日本が過去に講和の形を取ろうとしたのは相手の顔を立てるためで日本にとっては如何でも良かった。

それで二年前からはアメリカ合衆国は無くなったと言う他の国々に正式に同調していた。

日本はアメリカ合衆国の瓦解により講和する必要は無くなったとして既に東アメリカとは外交関係を結ぶ努力すら放棄していた。


「日本は子供達を誘拐した事実を認めて敵対行為を止めろ」


「以前から言っている様に日本が子供達を誘拐した事実は無いし、戦争の継続を主張して敵対しているのはあなた方で日本ではない」


「誘拐した子供達を火星に捉えている事を知っているのだ。言い逃れは許さない」


「植物によって火星に送り込まれた子供達を保護しているのであって誘拐した事実はない。この件は火星に来た国々とは決着済みだ」


この件は火星に来た国々には説明済みで了承を得ていて子供達も可能な範囲で引き渡す事で話しは付いていた。


「誘拐した事実を認めて謝罪をしろ。速やかに子供達を引き渡せ」


「誘拐した事実は無いので謝罪はしません。それから子供達を引き渡そうにも会談の事前協議すら拒否しているのはそちらではないか」


火星に来た国々と子供達の件で合意して以降、日本では月や火星についての群れの禁忌はハードルが低くなっていた。

それでまだ火星に人を送り込んではいないオーストラリア等とも子供達の件の話を進めていた。

その過程で東アメリカとの仲介をしようとした国も有ったのだが東アメリカは悉く拒否していた。

東アメリカは日本に対して一方的な要求を突き付けてそれを受け入れない限りは事前協議すら拒否しているのだ。

そんな訳で今回が東アメリカが出来て以来初めての事前協議なのだが……

結局、東アメリカ側が日本側に対して一方的に要求を突き付けるだけで交渉にすらならず物別れに終わったためトップ会談は実現しなかった。

東アメリカは戦争の継続を選択したって事だ。


地球では東アメリカが徹底抗戦を叫んでいたため、日本も応戦する事となった。

日本は月での東アメリカとの交戦を公表し、敵対勢力の軍が月に来た場合は排除する旨を宣言した。

実質的には東アメリカの事だな。

シナにその能力は無いし中近東で聖地の奪い合いをしている奴等は宇宙には興味が無い。

なんか東アメリカはシナ並に面倒な勢力になってきたな。

宇宙に進出する能力が有る分性質が悪い。


以降、東アメリカは時々月に来ては日本と小競り合いをする様になった。

地球では特に何もしていないが月では日本の横暴に対抗している事になっていた。

日本ではその度に東アメリカ軍を撃退した事実を淡々とニュースに流していた。

東アメリカが何故月まで来て小競り合いをしているのかと言うと地球で戦闘を行うと誤魔化しが効かないからだな。

先の戦争では太平洋で幾度も戦闘状態になった訳だが魔法の所為で双方ともに損害らしい損害も出ずに戦闘が終ってしまって真面な戦争にならなかった。

防衛する日本側は敵の侵攻を食い止めたのだから応戦して撃退したとして問題はないのだが、アメリカ側は宣戦布告をしたにもかかわらず攻勢に出た実感もなくかと言って大敗もしてはない高揚感の欠片もない戦闘状況が続いて居心地が悪かったらしい。

月でなら戦闘状況を自国民に晒さなくても良いから気にする必要は無いし公報で幾らでも誤魔化せる。

そんな感じで日本と東アメリカの月での小競り合いは続いていた。


日本と東アメリカが小競り合いを続けていた間に他の国々は如何していたかと言うと東アメリカを日本が抑えている間も惑星開拓に勤しんでいた。

最初に惑星の開拓に着手した勢力にその惑星系全ての占有権が有ると惑星開拓を始めた諸勢力は宇宙開拓条約にて合意していた。

早い者勝ちで領土の切り取り放題な状態だ。

開拓すれば居住可能な惑星は意外と多くあって戦争してそれらの取り合いをするぐらいなら宇宙探査を進めて新たな惑星を見つける方が良かった。

新たに得られるものは地球上の限られた領土や資源の取り合いが馬鹿らしくなるぐらいのものだ。


宇宙に出てから戦闘なんて馬鹿らしい事をしているのは日本と東アメリカだけであった。

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