じわりじわりと届くトゲ。
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「そういえば貴方の名を呼んだことありませんわね。リコは。」
ゼノンを一室に通した後に主のもとへ戻ると、リコリス嬢の親友…王太子妃予定の女性ルナマリア嬢が開口一番にのたまった。
「あの子、名前を覚えるの苦手ですの。物心つく前から知り合いのゼノンの事さえ本名を覚えてないほどでしてよ。
あだ名で覚えてる感じですわね。
私の父のフルネームも知らないと思います。
家名はミチルの努力でなんとかなってますけど。
色々考えた結果、多分貴方の名前は覚えてない可能性が大ですわ。
…ふっ…ざまぁ」
「………!!!」
思わず目をむくと、ルナマリア嬢は美しく、それはそれは美しく微笑んだ。
「私ね、リコが大好きですの。
だからねぇ、貴方の味方にはなりませんわ。覚悟なさって。」
優雅に美しく、淑やかに、そして毒を含んだ笑みを浮かべ部屋を出ていってしまった。
「ルナリアにとってはリコリス嬢はお守りみたいなものなんだよ。」
主が苦笑して言う。
「あの容姿に高い身分だ。
回りは肯定するモノばかりになりがちだ。
…まぁ俺にとっても同じことが言えたがな。幸い乳兄弟がどんなときも側にいたお陰で外れず育てた。
正直に言ってくれる存在は宝だ。
よくわかる。」
「分からない。
だからこそ自分の妻となれば側に居てもさしつかえない。
協力するなら分かるのに…何故…?」
首をかしげると、主は深く溜め息をついた。
「俺は時々、ものすごくお前を殴りたくなる。
本当、よくリコリス嬢も彼女の父君にも刺されなかったな。」
どう言うことだろうか。
全くもって分からない。
とりあえず、リコリス嬢との思い出を思い返してみると確かに名前で呼ばれた記憶がない。
はじめに名乗った気はするのだが。
「見知らぬ人間にも名が知られているから、
てっきり彼女も知っているかと思っていた。」
「お前…本当に残念な美形だな。」
主はうんざりした顔で言ったきり、ふて寝を始めてしまった。
何故だろう?
主が起きるまで考えたが益々謎は深まるばかりだった。
とりあえず、名前を覚えてもらおうと心に誓った。
王子にとって、近衛騎士団長はかけがえのない存在です。
ある意味「馬鹿な子ほど可愛い。」 感じですが。
黙っていれば完全無敵なので、いつも喋るな!と厳命。




