第31話 極上の晩餐同盟 〜そして大陸へ〜 【第二章 完】
「ジャジャジャーーーン! ソフィア参っ戦っ!!」
「知恵、参戦! よろしくー!」
昨日の戴冠式から一夜明け、ここはピスタチオ城、謁見の間。
玉座に座した俺の前に、ポーズを決めた二人のギャルが立っていた。
あの……昨日、すごいシリアスな感じで終わりませんでした?
一体何が始まるんですか……
彼女たちの顔は覚えている。
俺がこの世界に来た初日に王宮の廊下を歩いていたり、ミシュリーによる特訓、炎のチャレンジャー2を観覧しに来たりしていたギャルだ。
「申し遅れました、陛下。彼女たちは、ピスタチオ王宮の新しい事務方として雇った、ソフィア=グノーシアさんと、プラジュニャー=知恵さんです。ファーストネームは、ソフィアさんと、知恵さんですな」
「へっ!? 今、事務方として雇ったって言った!?」
「アハハ! チンチン丸、顔マジ受けるwww」
「驚きすぎじゃね?w」
「こらこらお二人とも。言葉遣いを直すようにと言っていたはずですぞ」
いや……え?? なんでこの子たち雇ったんだ??
「かねてより危惧してはいたのですが、先日の一件で、この国は私が不在だと崩壊してしまうことが明るみに出てしまいました。そこで二人の優秀な人材を雇うに至ったのです」
「イェーイ!」
「優秀とか言われると、照れんね」
「ゆ、優秀……?」
「ええ。人員を募集して、面接をしたところ、彼女たちは一次面接の時点で、この国の運用における極めて有用な改善点を10個ずつ提案してくれました。それらのうちのいくつかの案は、すでに即採用し、着手しております」
「ま、まじかよ……」
「だってさー、資料見たら、組織構造の時点で変じゃね? って思ってたんだけど」
「ね、調べたら非効率なとこめっちゃあったよねー」
「君ら……すごいね……」
「高校の単位ももう取りきってるらしいので、」
ピスタチオ王国の教育制度は、義務教育から6・3・3・4制である。
「え、じゃあ大学は?? 行かないの?」
「んー、大学も行きたかったけど、結局、その後は城で働きたかったし。こっちの方が早くね? って思って」
「国のためになるし? 給料高いしね」
——ううむ。
「人の人生は必ず外見にも表れる」というのが俺の持論なのだが、「人を見かけだけで判断してはいけない」のも事実だよね……
一方で、「名は体を表す」んだね
マジ、実感するわぁ……
◆◇◆
なんにせよ、彼女らの登用により、まーくんが自由に動ける時間が格段に増えた。
お陰で、同盟の締結の準備が非常にスムースに進んだ。
ピスタチオ王宮の会議室。
この日、ピスタチオ、ビーフシチュー両国の要人9名が、一堂に会した。
トワリだけは席に座らず、部屋の扉の近くに、真剣な表情で腕を組みながら立っている。
まーくんが口火を切った。
「皆様、本日はお集まりいただき誠にありがとうございます。これより、ビーフシチュー王国、ピスタチオ王国における、二国同盟の締結を進めさせていただきます」
「ちょっと待て」
スムーズにことが運べると思った矢先。
早速、上田が進行を止めた。
「いかがされましたかな?」
「まーくんとミシュリーちゃんよぉ。その前に俺には、君らに聞かなきゃいかんことがあんのよ」
上田は両肘をテーブルの上について話す。
「この新米に、言っちゃいけないことはなんだ? こいつにそれを言ったら、俺たちの国はどうなる? もしくはそれすらも言えんか。そしてその秘密は、俺だけにでも伝えてもらう訳にゃあいかんのか?」
「…………」
この世界で、俺が最も知りたいこと。
まーくんとミシュリーが抱えている秘密。
上田が聞きたがるのも当然だ。
もし相手の国が、世界を揺るがすようなとんでもない秘密を抱えているのだとしたら、二国同盟どころの話ではない。
これにはミシュリーが答えた。
「お察しの通りよ。ミシュリーたちは何も言えない。あなたにも、コトブキちゃんにも」
ミシュリーは、毅然とした態度を崩さない。
まーくんと顔を見合わせることすらなく、淀みなく返答した。
そしてそのまーくんも、それしかできることがないというような素振りで。深く頷いた。
上田は椅子の背もたれに寄りかかり、右手だけをテーブルの上に乗せ、暫し黙る。
10秒ほど黙った挙句、ふぅっとため息をついた。
「ふむ。口にすることも叶わんか。いいだろう。話を続けよう」
やっぱり、あの上田が言ってもダメだったか。
秘密が明かされる「その時」が来るのを、ただ待つしかないのだろう。
俺たちは調印の儀へと移行した。
ソフィアと知恵が手際よく用意した二国同盟の誓約書。
そこには、大陸の脅威への対策、二国間の軍事・通商における協力関係が、簡潔に書き連ねられていた。
「――よし。これで文句ないよなぁ、新米」
上田が豪快にサインを書き終え、ペンをこちらに差し出す。
俺も、もう迷いはなかった。
差し出されたペンを握り、第十四代触手チンチン丸としての名前を、その重みと共に力強く書き連ねた。
厳かな空気。
ここから、他国との戦いが始まってしまうのだという緊張感が漂っていた。
俺たちがサインを終えると、突然、ドアの横からトワリが口を挟んできた。
「皆様、今回の同盟。さしずめ、『極上の晩餐同盟』——なんて銘打つのはいかがでしょうか——」
トワリの顔は真剣だった。
おそらく、ドアの横に立って、周囲を完璧に見張りながらも、ずーーっとこのことを考えていたのだろう。
俺たちは誰も、トワリに反論することができなかった。
◆◇◆
——大地に大穴が空いていた。
直径は80mといったところだろうか。
その穴の縁に、何人かの人影が立っていた。
「皆さんッ! お怪我はありませんこと!?」
「報告しますッ!! 負傷者は多数!! ————しかし現状のところ、死者は確認できておりません!!!」
「ふぅ——とんでもない一撃でしたので、上出来と言って良さそうですわね。さすが、わたくし」
これは昨夜の、巨大な魔法攻撃の直後の様子である。
ビーフシチュー王国の北の、美しき隣国。
ドクダミ皇国とも隣接しているその国の名前は——ラズベリー王国。
その最前線に、巨大な斧を携えた、美しい女性が立っていた。
長い金髪の縦ロール。
明るい肌色に、ピンクの唇。
彼女は、土で汚れた頬をくいっと拭った。
「わたくしが戻って回復します!! アコン! 準備を!」
「はっ! 女王陛下!!」
そう言うと男はすぐにその場を離れ、残った彼女は、大穴の向こう——ドクダミ皇国の方角を見つめて呟いた。
「この、ローザリーゼ=エリザベート=ラズベリー=タカヤマのいる限り——この国は絶対に明け渡しませんわ——」
第二章 サイコロと台本 【完】




