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第20話 「不運」の王と、かつて引っ越した賢者 〜コトブキ vs. ングディン=ジョンソン=サーリーフ

「トワリ!? あなたボロボロじゃない!!」


「はい。とても痛いので、早く治してください」

 

 土魔法でナラハラを拘束しながら、丸太に乗って空を飛んできたミシュリーが、トワリとの合流を果たしたところだった。

 さすがのトワリも、戦闘後、前進はできず。血液不足と痛みにより身体が動かなかったため、木陰で座り込んで休んでいた。

 

 ミシュリーはかなり頭にきて、トワリをこんなになるまで痛めつけたバーグ師匠を、懲らしめてやろうと思った。が――

「俺の……ビブラスラップ2丁拳銃……」

「…………」

 当のバーグ師匠が、未だに、あまりにもしょんぼりしていたため、攻撃する気も失せてしまった。


「元気出してください。物はいつか壊れるんですよ」

 うん……さっき彼の銃を2丁とも渾身の突きでぶっ壊した君が言うのは違うと思うな、トワリ。


「そんなことより、コトブキ様は?」

 トワリがミシュリーに尋ねた。

 拘束されているナラハラが答える。

「それが、さっき戻って探したんですけど、人っ子一人いなかったんですよねー。ふっしぎー!」

 

「なんであなたが答えるのよ…… もちろん、ここに来るよりも先に見に行ったんだけど、ミシュリーが戻った頃には、コトブキちゃんも、ングディンも見当たらなかったのよ…… あったのは魔粒子の残り香だけ……ちょっとナラハラを倒すのに手こずりすぎちゃったからかしら……」

 

 ミシュリーは左手でお腹を(さす)りながら、ナラハラを軽く睨んだ。

 ナラハラは「蒸し返さないでくれ」と言わんばかりの顔を返した。


「無事だと良いのですが……」

「……今は信じるしかないわね。……仕方ない。目的地は同じなのよ。急いで回復して、ビーフシチュー城に乗り込みましょう」

「おー!」

「だから、なんであなたが返事するのよ!腹立つー」

 ナラハラの掛け声に文句を言いつつ、ミシュリーはトワリの回復を始める。


(魔力も体力も使いすぎてしまった。この状況すらも上田の掌の上だって言うの……? まさか、死んだりしてないでしょうね、コトブキちゃん……)


 大怪我をしたトワリの回復には、それなりに時間を要しそうだった。


 ◆◇◆


 時は、俺がングディンに不意打ちをかました頃まで遡る――


 硬質化させた触手での一撃を受け止められ、一度距離を取った俺は、そのまま臨戦態勢を崩さないでいた。


(小僧。一瞬も油断するな。さっきのデカブツとは格が違う)

「おう、触手(ミミズ)ちゃん。お前から話しかけてくるなんて珍しいじゃんか」

 王家の右腕こと、悪魔「ベール」が自ら話しかけてきた。たぶん、俺の命が危ない証拠だ。


「今回は文句無しの共闘だ。いつも以上の防御。頼むぞ、ベール」

(ちっ……)


 ングディン=ジョンソン=サーリーフは、こちらを向くと、屈伸と伸脚運動をし始めた。


「準備ハ、イイデスカ?」

「全然良くないよ。だから素直に通してくれ。俺は王として、一刻も早くまーくんを助けなきゃならないからね」

 ングディンは準備運動をやめると、大きな両手の指をパキパキと鳴らしながら、ファイティングポーズをとった。

 

「ヤハリ、困ッタ王様デスネ」


 彼はその場で腰を落とす。


 およそ3秒の静寂――


 そして――


 試合開始のゴングの代わりに「ドウッ!!」という音が鳴った。

 ングディンが地面を蹴った音だった。


 ガッキイイイイイイン!!!!


 直後、再び鳴り響く金属音。


 硬質化した触手(ベール)の半自動防御が、ングディンの、鉄の塊のような正拳突きを受け止めた。

 

(速い……! 生身に見えるのに、トワリ並みに速い! 直前に、少しでもトワリの動きを見ておいて良かった……っ!)


 ングディンは、自分の拳を受け止めた触手を見ながら、「フン」と唸った。

 そして今度は、空いている左手からフックを仕掛けてくる。


 ブンッ!!

 ギィン!!!


 攻撃は終わらない。


 回し蹴り、裏拳、下段蹴り、アッパー、手刀、中段蹴り……

 

 ギィン!! ギンッ!!! ギギン!!!


 流れるように放たれるすべての激重(げきおも)攻撃を、ベールの触手制御のおかげでなんとか防いでいる。

 たまに無理な方向に腕が動いて、骨が折れそうになる。が、防御はベールに任せているのだ、ある程度の痛みは仕方ない。むしろ触手1本で、この程度のダメージで済ませながら、このラッシュを防いでいるのがすごい。

 

 ングディンの攻撃は、今までの誰とも違い、俺に休む暇どころか、考える暇すら与えてくれなかった。


(小僧ッ!!! 何をしている!!! 防ぎきれなくなるのは時間の問題だッ!!! 早く策を講じろ!!! 死にたいのか愚か者ッ!!!)

「考えるッ…… 暇が…… ねぇんだよッ! ぐぅっ……!!」


 ングディンは息も上がらずに、凄まじい体術でこちらを攻撃し続ける。


 俺に唯一できるのは、彼の動きを目で追うことだけだった。

 幸い、今までの戦闘のおかげなのか何なのか、なんとかングディンの身のこなしを、少し遅れてだが目で追うことができていた。


 ――いや、ングディンの動きを目で追っていたのではなかった。

(ん……? なんだ…… これ……)


 彼が攻撃するとき、その拳や足の先に、かすかな違和感を感じた。

 ただの動きじゃない。彼が拳を突き出すコンマ数秒前、その軌道上に「赤く熱を帯びた線」が走るのだ。まるで、攻撃の道筋を示すかのごとく。

 俺が自然と目で追っていたのは、その赤く淡い光の線だったのだ。

 

(光…………? 光…………!! 魔粒子!!!)


 俺は、無理な身体の動きに耐えながら、王家の右腕(ベール)に必死にそのことを伝えようとした。

「おい……っ! ………………ベールっ!! …………もっと()()()()……っ!!!」

 俺が何かを掴んだのを、ングディンに悟られてはならない。息も絶え絶えに、ベールに断片的な言葉だけを伝える。


(ああ!!?)

 ベールは苛つきながら、防御の合間にングディンの動きに目を凝らす。……目、ないけど。


 数秒後、ベールは俺に話しかけた。

(貴様……()()()()()を視ているのか。大気を泳ぐミジンコが如き、この矮小な魔粒子の震えを……)

 

 ベールの声から、苛立ちが消えた。代わりに、俺に対する口調が、今までよりも少しだけ協力的になったように聞こえた。

()()か……フフフ、それも面白い……)


「何笑ってんだ!! どうでもいいが、俺の言いたいことはわかるな!!?」

(いいだろう、小僧。試してみろ――)

 ベールはングディンの動きを注意深く追う。

 俺はングディンから目を逸らさないようにしながら、視野を広くすることに集中した。

(あれだ……っ! あそこなら……引き起こせる!!)

 

「フン…… サッキカラ、()()()()()がウルサイデスヨ」

 ングディンの攻撃はまだ止まらない。彼の、渾身のボディブローが飛んでくる。


 ギャンッ!!


 ベールは俺のお腹の前で、それを正面から受け止めた。

「うぐっ!!」

 パンチの衝撃が、内臓まで伝わってくる。内臓に響く痛み。重い……重すぎる……っ。

 

 足が地面を離れ、景色が目にも止まらぬ速さで後ろへ流れていく。30m近く後方の岩壁に叩きつけられるまで、俺は自分が何メートル浮いているのかさえ理解できなかった。


 崖に叩きつけられる瞬間――ベールは俺の背中と崖の間に触手を伸ばし、クッションのようにして俺の身体を受け止めた。


 ドゴオォッッッ!!!

 

 それでも、ものすごい衝撃。

「え゛あ゙あ゙あ゙!!!」

 ゴツゴツの岩に背中をたたきつけられ、数秒間息ができなかった。吐血したんじゃないかと思った。


 背後の岩壁が、衝撃で放射状にひび割れる。赤茶色の粉塵が舞い、俺たちの視界を一時的に奪った。

 が、その奥で崖の『芯』が折れる音を、俺たちは聞き漏らさなかった。

 

 ングディンは、岩肌からずり落ちた俺の方に向かって、ゆっくりと歩いてくる。

「小賢シイデスネ、ソノ触手。反発シテ、後方に威力を殺シマシタネ?」

「うぐっ…… い、意外と器用なんだぜ…… うちの触手は……」


「モウ、ソレ程元気ニハ動ケナイデショウ?」

 ングディンは右手で俺の首を握り、そのままぶらんと持ち上げた。

 俺は()()で彼の腕を握って、首が締まらないように必死に抵抗する。


「モウ少シ弱ラセテカラ持チ帰リマス――」


 再び、今度は左手によるボディブロー――

 ングディンの拳が、俺の腹に向かって勢いよく飛んできた――!


 ボヌッ!!!


「………………ボヌ?」

 それは触手が、彼の攻撃を、柔らかく受け止めた音だった。

 ()()()()()()()()触手の右腕が座布団のように広がり、ぶよぶよの盾となってングディンの左腕を、しかと受け止めていた。


「触手に触れたな……ングディン……」

 俺は掠れた声で話しかける。

 拳はすっかり赤黒い触手に包まれ、ズッポリ(うず)まってしまっている。

 その隙にベールは、さらにシュルシュルと触手を伸ばし、彼の両足首に力の限り巻き付いた。

 拘束すると同時に、触手が触れる面積を増やしているのだ。

 

 当然、ングディンは引き抜こうとする。

 だが、ヌルヌルした触手の拘束は、単純な力だけでは解くことができない。暴れれば暴れるほど這い上がれなくなる底なし沼のように。


「見せてもらったぜ。お前の魔粒子制御」

 首が締まりそうになりながらも、俺は喋った。

 

「一点集中型とお見受けした。お前……同時多発的な攻撃は……防ぎ切れねぇんだろ……?」


「……!! ナニヲ――」


 頭上の崖で、「ピシッ」という、不吉な音が鳴った。

 大きな岩同士が、重力に負けて(こす)れ合う音が聞こえ始める。


「マサカ……」


「アンラッキーチェイン…… 俺の『不運』に巻き込まれろ……ッ!!」


 一瞬、音が消えた。

 直後、耳の奥を震わせるような重低音が、世界を塗り替える。

 

 ビーフシチュー王国を覆い尽くす、赤茶色の岩。その無数の巨大な塊が、地響きを上げながら死の雪崩となり、俺たちの元に一気に降り注ぐ――!

 


 

GWは、本日から3日連続投稿の予定です!

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