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第32話 全力疾走の強制マラソン


 光となって消えたルイは、10秒後にはもとの位置に戻ってきてしまった。


 致命傷を受けてもすぐに復活する、無限再生式に設定にされているようだ。カガリにはねられた首も元通りになっていて、状況は何一つ変わっていない。結局のところ無意味に終わったが、設定が分かっただけでも収穫だろう。少なくとも死ぬだけ無駄だ。カガリは怪我には気をつけようと思った。


「――で、どうして」


 無事に復活してしまったルイは、全力で足を踏み出す。


「僕たちは走っているんだ!」

「岩が転がってくるからじゃないかな⁉」


 止まったら死ぬ。それだけはわかる。


 5人は通路を全速力で駆け抜けていた。理由は単純、背後から大岩が轟音をあげながら迫ってくるからだ。通路は狭い一本道だから避けることもできない。おまけに緩やかな下り坂で、大岩はどんどん加速している。


 ぜえぜえと息を荒げているルイは「意味がわからない!」と叫んだが、「意味わかってるやついないと思うけど⁉」としか言えなかった。


「トラップのようですが……何がいけなかったのでしょう?」

「俺が踏んだ床、ちょっと変な感じだった。たぶんあれがスイッチ!」

「それはどうしようもないな!」

「というか僕たちはどうすればいいんだ。もう1キロ近く走っているはずだけど、いつになったら通路を抜ける⁉ 一本道から出なくちゃ、いつか岩に踏みつぶされるよ」

「って言っても走るしかなくない⁉」


 カガリは半分やけくそで声を張り上げた。


 全員で進むと決めて、通路をまっすぐに歩いていた。石畳が続いているだけで何の変哲もない道だ。だというのに突然ガコンという音がしたかと思えば、大岩が天井から降ってきた。


 こんな古典的なトラップに引っかかるとは思わなかった。フィールド考案者がアンリと言われたあたりから警戒はしていたけれど、背後から大岩が転がってくるのはさすがに予想外すぎる。そういうわけで全力疾走で強制マラソンをさせられていた。


「む、無理……、も、走れない……」


 全員が一斉に振り返る。

 一番後ろでよたよた走っているベルは、顔面蒼白になっていた。


「君、ダウンが早くないか⁉」

「ベルは体力がないからな。魔導主体はたいてい貧弱だが、ベルは輪にかけて体力がない!」

「あんなので、落ちたくないし……魔導で撃ち抜いていい……⁉」

「うーん、やめといた方が無難!」


 先頭を走っているカガリは叫んだ。ベルが不満たらたらの目で睨んでくる。もう1秒たりとも走りたくないらしい彼女は、いつもの真顔ではなくなっていた。


「岩くらいなら、最大火力で……壊せる」

「岩に見えるけど、たぶん中に鉄とか仕込まれてると思う。最悪跳ね返ってきて俺らが焼け死ぬけど、それでも試したい⁉」

「それは意地が悪すぎないか⁉」

「アンリの人格は、端的に言ってクソだからなあ!」


 あの男のことだ、まともにやってもろくなことにならないだろう。カガリは嫌というほど知っているので全力で拒否する。とはいえベルの体力が尽きたらおしまいだ。抱えて走れるようなスピードでもない。なんとかしなければベルの死因が変わるだけだ。


 石畳を蹴って駆ける。

 どこまでも続いている一本道――。


 いつ曲がり角があるかもわからないし、最悪行き止りだ。このまま走っていても、助かる保証はどこにもない。だがアンリが何の意図もなしにトラップを仕掛けたとも思えない。解決策を求められていることは間違いないはずだ。


「…………」


 正攻法では駄目だ。けれど道を走っているだけでは、いつか追い詰められる。でも他に道がないのだから――。


「――あ、そっか」


 カガリはぽつりと呟いた。何を複雑に考えていたのだろう。もっと単純に、力業でどうにかすればいいだけなのに。カガリは勢いよく後ろを振り返った。


「誰でもいいから壁に穴開けて。この道から脱出する!」


 道がないなら作ってしまえばいいのだ。


 ベルが待っていましたとばかりに腕を突きだした。はめられた指輪が輝いて、魔導剣が現れる。剣先をななめに向けると、魔力光がパチパチと散った。激しい音とともに遠くの壁が崩れ落ちる。


 壁の向こうには別の道があるはず――と思っていたカガリは絶句する。


 ぽっかりと空いた大穴は真っ暗闇だ。びゅうびゅうと風が吹き荒れて、細かい瓦礫が舞い上がって肌にあたる。やはり空間はあった。なのにどれだけ探しても床が見当たらない。


「…………あー、ごめん! 読み外したかも!」

「いえ、みなさんそのまま飛んでください」

「マジで?」

「マジです!」


 さすがにこの高さを飛びおりて無事でいる自信はない。カガリが口角をひきつらせていると、追い付いたルイが「いいから早く飛べ!」と背中を突き飛ばしてきた。強烈な張り手をくらったカガリは、あえなく落下した。


「いっっっった⁉」


 足が滑って、暗闇に放り出される。身体は宙を舞った。けれどすぐさま下へ引っ張られて始めた。内臓がぶわっと浮き上がって鳥肌が立つ。カガリは「どうすんのこれ⁉ 落ちてるけど!」と悲鳴をあげた。



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