第31話 処刑人
「……!?」
「みなさんの諦める理由になりたくないんです。ですから私を言いわけにはしないでくさい」
彼女の瞳は痛いほどに真っ直ぐだった。
「それに――これが誰かの悪意なのだとすれば、何もせず、ただ引き下がるようなことはできません。私たちは進むべきです」
少女らしい柔らかな声には覚悟がこめられていた。カガリは意外だな、と瞬きする。彼女がここまで強気だとは思ってもいなかった。こういうことを言いだすのはむしろルイだと思っていた。けれど本当はルイよりもエリザの方が強情なのかもしれない。
レオナルドはしばらく口を開かなかった。けれどもう言い分は残されていなかった。
「………………わかった」
ふっと表情を柔らかくしたレオナルドは、いつものように笑って「気持ち以外もありがたくもらおう」と言った。
「しかしチームの安全優先だけは譲れん。あくまでおれたちにできる範囲内、それは守ってもらうぞ。もし何かあったら、顔向けができんからな」
「進むなら、先に試したいことがあるんだけど」
「うん?」
「フィールドってことは強制退去があるんじゃない?」
カガリは「アナウンスじゃ言ってなかったから、機能してるかわかんないけど」と天井を指さした。
「もし致命傷を負わされたときの強制退去があるなら、適当に1人落とせば外に出られる。そいつが助けを呼んでくれれば全部解決じゃん。まともに攻略するよりは断然効率的だし、試す価値はあると思うよ」
「……一理ある。それなら手っ取り早い」
「待て、それは無理だ。おまえも聞いただろう」
「?」
「このフィールドの痛覚設定は50パーセントだ」
レオナルドが大きく腕を振るった。
「ふだんおれたちは3パーセントで戦っているんだぞ。とても耐えられるとは思えん!」
戦うなら痛みは重要だ。フィールドが現実での戦いを再現しているといっても、痛みまでそのままではろくに剣を振れないし、訓練にもならない。だから痛覚をほとんど遮断することで、最大限のパフォーマンスを発揮できるようになっている。
痛みをどれだけ制限するかはフィールドの設定次第だ。今ここではちょうど半分。擦り傷なら大したことはないが、片腕が落ちるようなことにでもなれば、相当な苦痛を受ける羽目になる。
「だったら痛みを感じる前に落とせばいいだけでしょ。俺ならできるよ…………たぶん」
「たぶん⁉ 嘘でも言い切れなかったのか⁉」
「しょうがないじゃん、自分じゃわからないし。あとで文句言われても困るし!」
「カガリさんはよく分からないところで律儀ですよね……」
さすがのエリザも不安そうにしている。思っていたよりも風向きが悪そうだ。一番いいと思ったのにな、と不貞腐れるけれど、レオナルドの言うことの方が正しいし、実験台がいないことにはどうにもならない。カガリがぶつぶつ文句を言っていると、ふーっと深呼吸する声が聞こえた。
「――いいよ、僕がやる」
ルイが顔を上げた。
「そもそも僕が騙されたのがいけないんだ。その責任は取るつもりだよ」
「ルイ、おれは」
「君がそんなこと思っていないのは知っている! それでも責任を取らせてほしいんだ。そうじゃなきゃ僕は自分を許せない。このまま負い目を感じるのは嫌なんだ。だから僕で試してくれ」
レオナルドが何か言うよりも早く、カガリが前に進み出た。右手を開いて「レーヴァテイン」と呼ぶ。顕現させた魔導剣を握って彼女の前に立った。
「一応訊くけど、いいの?」
「遠慮はいらない。君だって、僕の方がやりやすいだろう?」
「わかってるじゃん」
短剣を構えて、息を止める。
ルイは少し顎を上げて喉笛を晒した。柔らかそうな黒髪が揺れて、細い首がよく見える。「いつでもいい」と言った彼女の手は、ほんの少し震えているように見えた。
「大丈夫だよ、一瞬でやるから。怖いなら目でも閉じていれば?」
「必要ない」
意地っ張りだな、と苦笑いして短剣を振るった。




