表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
30/59

第30話 仲間思いの仲間割れ


 短く息を吐いてから続ける。


「こんなの、不幸な偶然にもほどがある。フィールド設定の切り忘れとか、重大事故もいいところだよ。そもそもチームで雑用なんて最初からおかしくない? ルイは教官から直接言いつけられたわけ?」

「いや……知らない先輩から伝えるように言われた、と同期の生徒が……」

「又聞きじゃん。だったら本当に教官からの伝言か分からないでしょ」 


 カガリは先まで言わない。けれど言いたいことは1つだ。


 最初に顔を曇らせたのはエリザだった。それを見たベルが口角をぴくりと動かした。レオナルドは一瞬だけ呼吸を止めて、すぐに言葉を探し始めた。いつもの明るさで場の空気を変えようとしたけれど、うまくいかない。


 衣擦れの音がやけに大きく聞こえる。

 ルイは赤い瞳をゆっくりと見開いた。


「まさか、まさかとは思うけれど――僕は騙されたのか?」


 そのまさかだよ、と返すのはきっとカガリの役割だ。だからわざとらしく言う。


 思い当たる節なら山ほどあった。クラウンは良くも悪くも目立つ。レオナルドの実力は本物で、ベルも魔導だけならプロでも通用する腕前だ。入学したての1年生バディが圧倒的な強さで勝ち上がっていく様子を、面白く思わない人間もいるだろう。


「問題は事故じゃなくて故意ってこと。なら迂闊に進まない方がいいかもしれない。どんな悪意があるかわからないしね」

「な、ならどうするんだ。救出を待っていたら2人が試合に間に合わない! 不戦敗なんてことになれば――」

「――いや、構わん」


 レオナルドは静かに目を伏せた。青い瞳にくもりはない。

 存外に穏やかな声色だった。それでもきっぱりと言い切る。


「みなの気持ちはありがたく受け取ろう。だがおれはトーナメントにさしてこだわりはない。負けたところで何か損をするわけでもないからな。不戦敗だというなら甘んじて受け入れよう」

「けれど、そもそも僕が君たちを巻きこんで……!」

「巻きこむというならおれも同じだ。この先何か起きたとき、おまえたちを巻きこむことになる。おれの都合でみなを危険にさらすわけにはいかない。おれにはチーム全体の安全の方が大切だ。それに比べればトーナメントの勝敗などどうでもいい。……ベル、悪いがそれでいいな?」

「レオがいいなら、私は従う」

「でも!」


 口論はいつまでたっても平行線だ。レオナルドはもう決めてしまっているのに、ルイも退こうとしないから、同じやりとりが延々と繰り返される。


 1秒、2秒と過ぎ去っていた。けれど薄暗い通路では時間間隔が狂ってしまって、だんだんと精神から追い詰められていく。


 カガリは黙ったままで眺めているつもりだった。水掛け論をするのが2人から3人に増えたところで何も意味がない。だいたいカガリまで参戦してしまったら、いよいよ仲間割れが起きてしまう。今の状況でそれだけは避けなければいけない。


 わかっている。自分は冷静だ。

 冷静でいなければ――。


「…………あのさあ」


 カガリはポケットの中で拳を握った。

 ぎゅっと強く握る。


「俺らは決勝でクラウンに勝って、この前の雪辱を晴らすつもりだったんだけど。それもどうでもいいってこと?」

「……ッ!」


 言ったあとで、なぜ言ってしまったのだろうと思った。それでも1度口にしたことは取り消せない。勢いだけで続ける。


「そっちがどう思ってるかは知らないけどさ、少なくとも俺にはどうでもよくないんだよ。おまえの都合で俺らが負け越しとか、たまったもんじゃないよ」

「っ、僕だって同じ気持ちだ。君たちにはきちんと勝ちたい。準決勝で不戦敗なんて、そんなのは認められないよ」

「……おれたちはいつだって相手になろう。だが今である必要はないだろう」

「今じゃなきゃ駄目なんだよ」 


 ただ勝ちたいだけじゃない。

 決められた日、決められたルール、決められた舞台で勝ちたい。


 その気持ちが理解できないレオナルドではないから、ぐっと言葉を詰まらせた。唇をぱくぱくと動かして何か言おうとして、それから勢いよくルイを振り向いた。


「……よく考えろ、ルイ! このまま進めばおまえはエリザまで危険にさらすことになる! 本当にそれでいいのか!?」

「――――ッ!」


 今度はルイが言葉を詰まらせる番だ。ルイにとってエリザは絶対に守らなければならない人間だ。自分の気持ちでエリザを振り回すことになるなら、すべて諦めるだろう。たとえレオナルドたちのためだとしてもそれは変わらない。ルイは黙りこんでしまった。


 あとはカガリだけだが、エリザの名前を出されてしまったらどうしようもない。カガリにとっても彼女は巻きこみたくない人間だ。付き合いは浅いし、ルイのように一蓮托生のバディでもないけれど、自然とそう思ってしまう。彼女の穏やかさや優しさが庇護欲をかきたてられる。


 話はまとまりかけ――エリザがゆっくりと指を組んだ。


「――お言葉ですが、私はカガリさんにつきます」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ