三原城、隆景の夢 第3話:石工と船大工
作者のかつをです。
第十章の第3話をお届けします。
今回は、名もなき職人たちの誇りと、それを見抜き心を一つにまとめていく、隆景の将としての器の大きさを描きました。
※この物語は史実や伝承を基にしたフィクションです。登場する人物、団体、事件などの描写は、物語を構成するための創作であり、事実と異なる場合があります。
小早川隆景様の号令一下、備後、安芸の国中から腕利きの職人たちが三原の地に集められてきた。
石工、大工、鍛冶、そして船大工。
わたくし、吉蔵は普請奉行の補佐として、彼らの世話役を務めることになった。
その中にひときわ異彩を放つ、二人の老人がいた。
一人は石工の棟梁、源爺。備後で右に出る者はいないと言われる石積みの名人だ。小柄で寡黙だが、その眼光は剃刀のように鋭い。
もう一人は船大工の棟梁、辰右衛門。村上水軍の船を一手に引き受けてきたという、伝説の船大工だ。源爺とは対照的に、豪放磊落な男だった。
この二人の頑固な職人をまとめるのが、わたくしの最初の仕事だった。
「おい、若いの。隆景様は本当に海に城をお建てになるおつもりか」
源爺が疑わしげにわたくしに問うた。
「はっ。それが殿のお考えにございます」
「……無茶な。潮の満ち引きはどうする。海の中に石垣を積むなど、聞いたこともないわい。わしは無理な仕事は引き受けんぞ」
源爺はそっぽを向いてしまった。
そこへ辰右衛門が、大声で割り込んできた。
「がっはっは! 面白いではないか! 海に城を浮かべるだと? まるで竜宮城じゃな! さぞでかい船が作れるであろうな!」
「船と城を一緒にするな、たわけ者めが!」
二人は会うなり、喧嘩を始めてしまった。
わたくしは頭を抱えた。
その夜、わたくしは隆景様に事の次第を報告した。
すると隆景様は、静かに微笑まれた。
「……そうか。ならば、わしが直接話そう」
翌日、隆景様は自ら二人の仕事場へと足を運ばれた。
そしてまず、源爺に言われた。
「源爺。そなたの積む石垣はただの壁ではない。百年、二百年先までこの三原の民を守る礎となる。わしは、その礎をそなたに託したいのじゃ」
次に、辰右衛門に言われた。
「辰右衛門。そなたの作る船はただの軍船ではない。日の本中の宝をこの三原に運び、民を豊かにする宝船となる。わしは、その宝船をそなたに託したいのじゃ」
二人の老職人は何も言わなかった。
ただ、その目に熱い光が宿っていたのを、わたくしは見逃さなかった。
隆景様は、彼らの職人としての誇りを見抜いておられたのだ。
その日から二人は生まれ変わったように、仕事に打ち込み始めた。
源爺は潮の流れを読み、海の中に巨大な石の土台を築き始めた。
辰右衛門はこれまでにない、巨大な安宅船の図面を引き始めた。
二人の頑固な老職人の心が、一つになった。
わたくしは改めて、我が主君の人の心を動かす力に畏怖の念を抱いた。
この前代未聞の大事業は今、確かにその一歩を踏み出したのだ。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
巨大なプロジェクトを動かすには、そこに関わる一人一人の心を動かすことが不可欠です。隆景は、そのことをよく理解していました。
さて、職人たちの心が一つになった三原。その熱気は商人たちにも伝わっていきます。
次回、「町人たちの期待」。
新しい城下町に夢を賭ける、商人たちの物語です。
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